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悪女の悪あがき ~九条ロゼリアはデッドエンドを回避したい~  作者: 杏仁堂ふーこ
本編

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128.フラグ?①

 目の前のメイド二人のうち、三つ編みの子がおずおずと切り出す。


「……えぇと、気に、ならないんですか?」

「別に? 仲が良いのは良いことでしょう?」


 三つ編みの子が恐る恐るといった様子で聞いてくる。

 気にならないと言えば嘘になるというか、すごく気になる。ここで気になると答えてしまうと二人が変な気を回しそうなのよね。メロとアリサが仲良くなっていったとしても、あたしに気を遣って情報を隠すかもしれない。それは困るから、対外的には「気にならない」ということにしておかなきゃ。

 しれっとした様子で言うのだけど、何だか二人の反応が微妙……。

 今それを聞くつもりはなかったので、その話は一旦終わらせることにした。


「とりあえず、二人はまだ戻ってないのね?」

「そろそろ戻ってくると思います。多分厨房かと……」

「厨房ね。ありがとう。──掃除、頑張って頂戴」


 言いながら、二人の横をすり抜けていく。後ろから「はい」という返事とともに視線を感じたけどスルー。噂話とか恋バナに花を咲かせたい気持ちもあるけど、あたし相手だと気を遣われそうなのよ。

 さて、と。

 厨房ね。

 メロとアリサの両方がいた場合、どういう風に呼び出そうかしら。片方を呼んで、それからもう片方──って感じだとなんかちょっと気まずいし。メロが先に捕まるのが一番いい。

 そう思いながら厨房へと向かう。

 けど、結局厨房にはメロもアリサもいなかった。まだ少し早かったみたい。こればかりはしょうがないと思いながら庭に出る。庭に出たところで、後ろからぱたぱたとメイドが走り寄ってきた。手には日傘を持っている。

 なんか似たようなことが以前もあったわね。呼び止められる前に足を止めて振り返った。


「何?」

「あ、あの、日差しがまだ強い、ので……! こ、これを……!」


 彼女はそう言ってあたしに日傘を差し出す。あたしは彼女と日傘とを見比べて受け取った。


「ありがとう。悪いわね、使わせてもらうわ」

「いえ、病み上がりですので……どうぞ、お体に気をつけてくださいっ」


 ばっと頭を下げたかと思ったら彼女は赤い顔を隠すように立ち去ってしまう。

 日傘を差し、頭上に掲げる。日差しが和らいでほっとした。


 最近こういう気遣いを、恐らく善意から受けることが多くなっていて地味に感動している。さっきもメイド二人の様子に感動したけど、今もまた感動していた。

 以前なら「あとで怒られるのが怖いから」という理由で色々と気を回すシーンばかりだったはずで、あたし個人を心配している人間って本当に伯父様しかいなかったのよ。だから、自分の心持ちと行動の変化で他人も影響されていくというのを実感している。

 ……それがアキヲにも良い方に影響すればよかったのに、元が元だったから悪化してしまった。

 もっと他に、穏便なやり方があったんじゃないかと考えながらゆっくりと歩く。

 以前、少し散歩に出た時のように花壇を見に行くつもりで。


「……そういえば、メロが勝手に植えた向日葵ってどうなったのかしら」


 もう九月だから流石に咲いてないだろう。

 庭の小道沿いに一本だけ生えてて、庭師に何か言われないのかしら。いや、何か言われる前に引っこ抜かれている可能性があるわね。あんなところに植える方が悪いんだけど。

 この時期だと何が咲くのかしら。ぱっと思い浮かぶところだとコスモス?

 メロの植えた向日葵を確認するつもりでそちらに歩みを進める。


「あれ? お嬢? もう大丈夫なんスか?!」

「……メロ? ええ、もう治ったわ。……あんた、アリサと買い物に行ったんじゃないの?」

「そっか、よかったー! めっちゃ心配してたんスよ」


 元々向日葵があっただろうあたりにメロが立っていた。残念ながら向日葵はもうない。

 メロがあたしを見てどこか嬉しそうな顔をして近づいてきた。……なんか犬っぽい。


「さっき帰ってきたんス。厨房に荷物預けてきて、開放されたとこっス」

「ふーん……?」


 まじまじとメロを見つめる。メロは不思議そうな顔をしながら手を伸ばしてきた。日傘を持つ、と言う意味合いだと伝わってきたので、何も言わずに日傘を預ける。メロはあたしを日差しから隠すように日傘を傾けて持った。

 さっきまでアリサと一緒にいた、ってことよね。当然。

 朝も裏庭で二人きりで話す時間を作ってたし、今さっきだって買い物に付き合うくらいだし……何かあると考えるのはごくごく自然なはず。しかし、それをどう切り出すか……。


「お嬢? どうかしたんスか? ……ひょっとして気持ちが悪いとかクラクラするとか? 無理しちゃダメっすよ」

「体調はもう本当に大丈夫よ。自分の意思でアリサの買い物に付き合ったの?」

「? そっスよ」


 メロは不思議そうな顔をしたままだった。

 自分の意思で、ということは、アリサのことが気になってるから少しでも同じ時間を過ごしたいと思ってるってことじゃないかしら。

 ゲーム内でのイベントのことを思い出しながら進捗を確認することにした。


「アリサに、こう、アンティークのブレスレットとか買ってあげたり、した?」

「はあ? おれが? アリサに? なんで? 買う理由ないっスよ」


 ……ものすごく馬鹿にしたような声を出すメロ。

 おかしいな、結構初期に発生するイベントだったはず。ノリで買って、あとで「あの時買ったのは気持ちが全然入ってないからやり直させて」って今度は指輪を買うイベントが発生するための伏線なのに。

 全然その段階じゃないってことなのか、そもそもゲームとはイベントが違っちゃってるのか。


「アリサと買い食いしたり、何か奢ってあげたり……」

「してない。理由がないっス」

「あ、そ、そう……そうなの……」


 どこか面倒くさそうな返答。これは本当にそういうのはなかったんだわ。

 あたしは手を顎にあてて考え込んでしまった。


「何なんスか、お嬢。なんでおれがアリサになんか買ったり奢ったりするって思うの?」


 今度は呆れ声。さっきから反応のバリエーションが豊かだわ。

 あたしにとっては結構重要な質問のオンパレードだったのに、メロにとっては全然そうじゃないみたい。まだまだ『出会ってすぐ』みたいな状態なのかしら。進捗がないことにちょっとがっかりしちゃったわ。

 はぁ。と、ため息をついたところでメロが怪訝そうな顔をした。

 それを目の当たりにして少し肩を竦める。


「……アリサのこと、気になってたりするのかなって思っただけよ」

「──えっ?」


 メロの手から日傘の柄がするりと落ちそうになり、メロは慌てて日傘を握り直していた。そして、日傘を握りしめたまま、あたしとの距離をぐっと縮めてくる。

 目の前にメロの焦った顔があった。この動揺っぷりは──?!


「ちょ、ちょ、ちょ、お嬢!? ちょ、待って!?」

「それだけ動揺するってことはやっぱりそうなんでしょう?」

「──!!!」


 これはメロルートで刺される可能性も考慮を、と思ったのも束の間。

 メロはさーっと音が聞こえるくらいに青ざめていき、愕然とした表情になった。


「えーーーーーーー!!!! 嘘でしょお嬢! なんでそんな勘違いすんの!?」


 大きな声とともにメロの手から日傘が零れ落ち、両手であたしの肩を掴んできた。横から挟まれるように掴まれたせいでちょっと痛いし、なんか体が少しだけ浮いている気がする。

 メロの反応は正直予想外で、あたしも動揺してしまった。

 

「勘弁してよ、ありえないでしょ。そんなん……」


 肩を掴む手に力が入る。

 ありえなくはないでしょ。と、言おうとしたけど、メロがひどく悲しそうな顔をしていたせいで言葉を失ってしまった。

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