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悪女の悪あがき ~九条ロゼリアはデッドエンドを回避したい~  作者: 杏仁堂ふーこ
本編

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126.回復したので②

 携帯を手にしてユキヤの番号を呼び出して発信ボタンを押す。

 数コールは待つつもりだったのになんと半コールで繋がった。


『ロゼリア様?!』


 ものすごく焦った声が聞こえてきて面食らう。そんなに焦るようなことなんてあった? 熱で寝込んでたのも一日くらいなものだし、重大な病気や怪我でも何でもなかったのに、ユキヤの焦りようは死の淵を彷徨っていた人間が復活したというくらいの勢いだった。

 あたしは一瞬言葉を失ってしまったけど、すぐに我に返る。


「えぇっと、ユキヤ……? どうかした?」

『い、いえ、取り乱してしまい申し訳ございません。ジェイルから十年ぶりの高熱だと聞いて、とても心配していたものですから……』


 申し訳無さそうな声を聞いて少しだけ納得する。確かに十年ぶりに熱を出したということで、周囲もかなり焦っていたように思う。あたし自身はそんなに心配も何もなかったんだけど……ギャップがすごい。


「あたし自身はピンピンしてるわ。……ジェイルも大袈裟なのよね」

『そう、ですか』

「周りが騒ぎ立ててただけよ。一日寝たらすっかりよくなったもの」

『お元気なようで何よりです』


 ユキヤは納得してくれたようだった。そこまで心配させていたのかという妙な驚きと、心配してもらえて嬉しいという気持ちが存在している。

 ひとまず、復活したという報告はこれくらいにして本題よ。


「ところでユキヤ」

『はい、倉庫街のことでしょうか?』

「ええ、そうよ。ジェイルはちゃんと連絡してくれたみたいね」


 あたしが切り出したい話題を即座に察してくれたユキヤ。話が早くて助かるわ。

 別にジェイルを疑うわけじゃないけど、どういう風に話をしてくれたのかは気になるのよね。熱を出してる最中に言いつけたものだし、信用してもらえてるのかしら? 病人の戯言って感じで済まされるのは困る。一応、いや、きっとそこに何かがあるに違いないんだし……!


「ジェイルはなんて言ってた?」

『ロゼリア様が父が使おうとしている倉庫街の場所を思い出された、と……Gの8番倉庫と伺いましたが、お間違いないでしょか?』

「合ってるわ。調査、よろしくね」

『──はい、実は今日これから倉庫街に行くんです』

「えっ」


 昨日の今日でもう行くんだ……。いや、倉庫街まで然程距離がないから行きやすいのかも。

 っていうか、ユキヤ自ら調査に行くとは思わなかったわ。信頼できる筋があるという話だったし、そっちに任せるのだとばかり……。


『? 何か問題がありましたか?』

「ううん、そうじゃないの。早いなって思ったのと、あんたが自分で確かめに行くとは思ってなかったから……」


 包み隠さずに言えば、向こう側でユキヤが少し笑った。変なこと言った!?


『これまでにない貴重な情報でしたし、場所を抑えられるのが動かぬ証拠としては一番良いので……。あと、やはり自分の目で確かめたいのです。報告を受けてから改めて、という形でも良かったんでしょうけど……ロゼリア様が高熱にも関わらず教えてくださった情報ですから』


 うーん、照れくさい。嬉しいんだけど、それはそれとして照れくさい。

 ゲーム内では共通情報だから情報は間違ってないはず。とは言え、あたしが正規のルートで手に入れた情報じゃないから、そのへんの説明ができない。できれば、そのあたりは聞かないでくれるとありがたい。

 あたしがわざわざ言い出さなきゃきっと大丈夫よね。


 今日、ユキヤがG区画の倉庫を見に行って……どこまで見られるかどうかは謎だけど、それっぽい情報が手に入ると良いな。倉庫は表向きには修繕ということで、手は入ってるだろうから見ればわかる、と思いたい。普通の修繕と、闇オークションや人身売買その他の取引会場では流石に工事の内容が違うに決まってる。詳しくはあたしも知らないけど! そこはアキヲが勝手に進めていたところだし、オークションに興味があると言っても実際の計画は全部アキヲが進めていたのよね……。

 その話にあたしがもっと関わっていれば、って気はするけど、関わってたら関わってたらでもっとややこしいことになっていた気がする。

 あたしはこれ以上情報は出せそうにないからユキヤに頑張ってもらうしかない


「──そう、面倒なことを頼んで悪いけど、よろしくね」

『はい、お任せください。すみません、頂いた電話で申し訳ないのですが……』

「何? 必要なことがあれば何でも言って頂戴」

『ありがとうございます。ジェイルにこちらに来てもらってもいいでしょうか? 今日の結果如何で、ジェイルにも現地を見ておいて欲しいと思いまして……』


 なるほど。言うなれば、ユキヤが先遣隊ってことなのね。で、現地がちゃんと確認できたらジェイルにも見て確認して欲しい、と。

 それはそれで問題ない。問題ないんだけど──……。


「いいわよ」

『よかった。ありがとうございま』

「ねぇ、それってあたしもついて行っちゃダメ?」


 いい反応はしないだろうと思って聞いてみた。

 案の定、ユキヤが固まっている。目には見えてないけど、電話口でそれが伝わってくる。どうやらノアが傍にいるらしく「ユキヤ様?」という不思議そうな声も聞こえてくる始末。

 いや、でも、あたしが自分の目で確認したいっていう話もおかしくはない。あたしのせいでアレコレと面倒なことになってるんだから、どこまで計画が進んでしまっているのかは確認したいでしょ、普通は。

 何となく落ち着かない気分になって携帯を持ち替えてソファにごろんと横になる。

 そんなことを考えている間にユキヤが気まずそうに『えぇと』と言い出した。


『……あまりお勧めできないというか……ロゼリア様がいらっしゃるとどうしても目立ってしまいます。南地区にロゼリア様がいらっしゃるということだけでも、父が過敏に反応してしまう可能性が高いです』

「うーん、そっか……。あ、ところで、アキヲはどうしてる?」

『え? あ、あぁ、父は……最近妙に機嫌がいいですね。計画は進めづらくなっているようなのに、……以前ロゼリア様と計画を練っていた時のようです』

「あたしがあんたとデートしたから?」

『それはそう、だと思うのですが……』


 そもそもユキヤとのデートはアキヲを油断させるためのもの。ユキヤがアキヲの意向通りの行動をしていると思わせるためだから、機嫌がいいのは良いこと。アキヲが油断している、ってことだからね。

 けど、そのはずなのにユキヤはどうにも腑に落ちない様子だった。まるでそれ以外の理由があるんじゃないかと疑っているみたい。

 横になっていた体を起こし、ちょっと前のめりになって目を細める。


「何か他にあるの?」

『確証はありません。ただ、例の組織から何かあったのでは、と踏んでいます』


 アキヲと繋がりがあるって言う組織ね。そっちの情報はさっぱりなのよね……糸口すら掴めていない。

 そのあたりも倉庫街を調べていくうちに何かわかれば良いんだけど、よほど上手く隠れているのか、その存在をはっきりとは掴ませてくれない。

 そっちは本当にどうしようもないのよね……。


『申し訳ございません。妙なことをお耳に入れてしまって……』

「いいのよ。そっちにも注意しながら調査をして頂戴。──ついて行きたい気持ちはあるけど、一旦見送るわ」

『かしこまりました。ジェイルに怒られずにすみます』

「え?」

『──あっ。いえ、こちらの話です』


 ジェイルが、ユキヤを怒る?

 まぁ幼馴染だし友達同士だし、そういう時もあるかもしれない。

 けど、ついていくのは見送るだけで諦めてないわよ。ユキヤは諦めたと勘違いしてるっぽいけど!

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