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悪女の悪あがき ~九条ロゼリアはデッドエンドを回避したい~  作者: 杏仁堂ふーこ
本編

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121.休養

 南地区の倉庫街はA~Jまでの10区画あって、それぞれが結構広い。まあ倉庫だからね。

 A区画から順に建てられてるから老朽化はA区画の倉庫から進んでて、修繕とかはA区画から始まってる。けど、修繕にかこつけて水面下で一部の倉庫は闇オークション会場やその他計画に必要な施設に作り変えてしまおうって話が出ていた。なんだかんだ理由をつけてG区画を含む複数の倉庫も修繕の対象にし、ついでに使用者の見直しを行い、これまでG区画の倉庫を使っていた商会には別区画の倉庫を使ってもらう。そして、今後その倉庫を使うのがダミー商会。だから、傍目には普通に倉庫が使われてるってことになるし、必要なカモフラージュは施されている。


 と、言うことが、一応ゲーム内でも説明されていた。

 ゲームをやってる時は「ふーん」ぐらいにしか思わなかったからきちんと記憶に残らなくてもしょうがない。夢の中とは言え、思い出せたのは本当にラッキーだった。きっかけがなかったら絶対に思い出せなかったし、ユキヤも修繕対象になっている倉庫群を一つ一つ調べていたことだろう。今はまだ使用者の見直しなんてかなり水面下で進んでいる話だからユキヤもキャッチしきれないだろうし……。


 今は九月の終わり。ゲームの開始である十月一日にもなってない。

 アリスもハルヒトも想定より早く椿邸に来てしまったし、そもそも椿邸に来ることになった経緯がゲームとは違ってしまっている。この二人だけじゃなくて、ジェイルもメロもユウリも、そしてユキヤも……ゲームとは全然違うことになっているのよね。

 ひょっとしたら……ゲームが始まる前に、終わらせることができるんじゃない……? あと一週間程度ではどうにもならないとは思うけど、イベントとかが起こる前に収束させられるかも知れない。

 いや、終わらせるというよりもゲームとは全く別物にできるかもしれないというか、なんというか……?


 そんなことを悶々と考えているあたしに視線が突き刺さる。

 早く寝ろ、という無言の圧力を感じる。


「お嬢様、何か考え事をされていますね?」

「し、してないわ」


 ジェイルが険しい顔をしてベッドの傍にいる。ずうん、と威圧音が鳴ってそうだわ。

 さっきジェイルはあたしの指示に従ってその場でユキヤに連絡をしていた。ユキヤにはすぐ繋がって、挨拶もそこそこに「G区画の8番倉庫を中心に、G区画の倉庫を調べてくれ。お嬢様のご指示だ」と告げていた。それから軽く何か話して、すぐに通話を切っていた。

 これでユキヤがG区画の倉庫を調べてくれるはず──と安堵したところで、色々と考え込んでしまったのよ。

 いいじゃない、ちょっとくらい。と思っていると目元に手が翳される。


「熱がなかなか下がらないんです。お願いですからお休みください」


 視界が薄暗くなった。暗い方が確かに眠れるけど……そんな風に子供扱いしなくてもいいじゃない。ジェイルより年下だからって子供扱いは納得行かないわ。たかだか二歳だし。

 でも、まぁ……心配してるのは伝わってくるのよ。

 心配自体は確かに嬉しくて、誰かが傍にいてくれるのも安心する。


「……わかったわよ。ちゃんと寝るから、あんたたちは出てって頂戴」

「ロゼリア様がお休みになられたら出てきます」

「気になって眠れないわよ……」


 室内にはジェイルだけじゃなく、ユウリとキキがいた。

 倒れたあたしにびっくりしたユウリが騒いだせいでキキがすっ飛んできて、興奮したせいで汗が吹き出したあたしをキキが介抱して……飲み水を準備したり、そう時間も経ってないのに氷嚢を変えて……気がついたらこの状態。

 三人に見守られた状態でどう寝ろと……。

 単純に落ち着かないわ。心配しているのはわかるから、あんまり文句も言えないけど。


「……じゃあ、キキだけ残って」


 そうお願いすると、キキはどこか勝ち誇った顔をする。ジェイルとユウリはちょっと不満そうだった。

 いや、普通に考えて傍にいてもらうなら同性がいいに決まってるでしょ。二人が医者や看護師なら話はちょっと変わってくるけど……。

 とは言え、あたしが「寝る」と宣言して二人共納得はしたらしい。


「わかりました。自分と真瀬は出ますので、ごゆっくりお休みください」

「ロゼリア様のことはお任せください」


 キキが頭を下げたところでジェイルとユウリは出ていってしまった。

 ほ、と小さく息をついてキキを見る。


「……キキ」

「はい、なんでしょうか?」

「アリサ、どうしてる?」

「……。今日は出勤して、普段通りです。お気になさることは何もありません」

「そう」


 何故そんなことを気にするのかとキキは不思議そうだった。今それ以上は聞き出せそうになかったので大人しく目を閉じる。

 デパートで会ったアリサのことも気がかりなのよ。

 誰にも何も話せてないし、話したらどうなるのかもわからなくて……なんかジェイルが先走って追い出してしまいそうなのが嫌なのよね。アリサとは全然話してないみたいだからフラグも立ってなさそうで、最近かなりあたしのことを気にかけてくれるから、変に拗れそう。正直、そういうのは全く望んでないから悩ましいのよね。

 目を閉じて眠ろうとするものの、考えたいことが思い浮かんでしまう。そして思考を中断させるために目を開ける。

 そんなことを繰り返していると、キキが困った顔をしてあたしのことを覗き込んできた。


「ロゼリア様……眠れませんか?」

「……うん。どうしても色々考えちゃうのよ……」


 あたしが眠らないとキキも出ていけないから、そりゃ困るわよね。

 熱があるのに案外頭がしっかりしているのが問題。泡みたいに思考が浮かんでは消えて、浮かんでは消えて……を繰り返しちゃう。

 目を閉じた状態でいるとどうしても色々と考え込んでしまう。

 ちゃんと寝て、熱を下げてから考えた方が良いに決まってるのに、どうしても考えてしまう。

 自分のこれからのこと。アリサのこと。みんなのこと。

 あたしの力で全てがどうにかなることではないけど、どうにかなるところもある……。


「……そう言えば、ガロ様が時間を見てお越しになるそうです」

「え」

「ジェイルさんがちょっと疲れた顔をされていたので……かなり心配されているみたいです」


 やっぱり心配させちゃってるのね。わかってたけど。

 仕事があるだろうにわざわざ来るなんて……いや、それはそれで嬉しいのよ。やっぱり伯父様に心配されるのが一番嬉しいのよね。

 だから、ってわけじゃないけど、そこまで心配かけたくない気持ちもある。あたしのために時間を割いてくれるのは嬉しいのにね。仕事を中断させるのが申し訳ないって思う気持ちもあるのよ。


「いつ頃……?」

「いえ、そこまでは……ですから、ガロ様に少しでも元気なお顔を見せてあげてください」

「……そう、ね。わかった、寝るわ……」

「はい、おやすみなさい」


 とにかく今は寝よう。

 熱が下がったらアリサと話す時間を取ろう。

 そう自分に言い聞かせて、もう何も考えないようにしながら、眠ることに集中した。

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