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悪女の悪あがき ~九条ロゼリアはデッドエンドを回避したい~  作者: 杏仁堂ふーこ
本編

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103.買い物日和①

「はー、開放感があるわ」

「そういえば外出を控えていたと伺っています」

「そうなのよ。楽しめる気分じゃなくてね……あ、ユキヤ。こっちよ」


 ぐいっと腕を引っ張って半ばユキヤを引きずるようにして連れて行く。不意に引っ張られて驚いた顔をしたユキヤもすぐに仕方ないと言いたげに笑った。大人しくついてきてくれるだけジェイルやメロよりも絶対に気分よく買い物できそう。あの二人、ちょっとうるさいのよ……。

 二階から服とかアクセサリーとかを置いてるショップが入ってるのよね。ブランドもそこそこの品揃え。

 休日じゃないから人もまばらで歩きやすくて良いわ。……以前は「邪魔くさいから貸切にしなさい」とか「道を開けさせて」とか、今思えば滅茶苦茶なことを言ってた。今は反省してる。


 近いところから回っていこうと思い、エスカレーターを上がってすぐのショップに向かう。

 すると、まるで待ち構えていたかのように三人の女性店員が揃って頭を下げる。


「ロゼリア様、いらっしゃいませ」


 おっと、想定外のお出迎えだわ。

 これはあたしがこれまで使っていたショップ全店に通達があったんじゃないかしら。事前にジェイルか墨谷が連絡してたと思うし。当日の混乱とかを避けるために。

 たまたまなのか、意図的にそうしたのか……他の客がいない。

 ちょっとだけ申し訳ないような気分になりながら、そのままショップの区画に足を踏み入れた。


「どうも。新作を見せて頂戴。今だと秋物が入っているのかしら?」

「はい、秋冬物の新作がございます。ロゼリア様がお越しになると聞いて、他店の限定品もご用意いたしました」

「そう、ありがとう」


 礼を言うと、真ん中の店員が目を丸くした。あ、この人店長だわ。そう言えば店員に礼を言うなんて習慣これまでなかったし、そりゃ驚かれるわよね……。って、今更気にしていてもしょうがない。

 他の二人がすすすっと店長の後ろからスカートとワンピースをそれぞれ持ってきた。


「こちらが秋の新作スカートとワンピースです」


 はー。これまたあたしが好きな系統の深い赤系ワンピースだわ。今着てるワンピースも赤だけど、ちょっと明るめなのよね。流石に赤ばっかりになっちゃうか……。

 スカートは数種類あって、色違いもあった。へー、この手のスカートもいいわね……。


「あら、こっちのスカート良いわね。上に合わせるものを出してくれる? 試着がしたいわ」

「はいっ!」

「ユキヤ、待っててくれる?」

「ええ、もちろんです」


 試着! 試着が楽しいのよ!

 あれこれ着替えてファッションショーみたいになるのが楽しい。テンションが上ってきたわ。

 店員がスカートに合うトップスをいくつか出してくれたので、それを全部持って試着室に入った。

 ……ワンピースを着てくるんじゃなかったかもしれない。一人で着脱は可能だけど試着のことは考えてなかったわ。キキたちにもそういうことは伝えてなかった。まぁいいか。

 あたしはスカートとブラウスに着替えて、鏡の前でおかしくないかを確認してから、シャッとカーテンを開けた。


「ユキヤ! どう!?」

「ぇ──はい、とてもお似合いです」

「いい? ちゃんと覚えておいてね、次よ次」


 突然意見を求められたユキヤは目を丸くしてから、こくこくと頷いていた。

 あたしは再度試着室に戻り、別のスカートとトップスに着替えてカーテンを開ける。


「ユキヤ、こっちは?」

「お似合いですよ。ロゼリア様は何を着ても綺麗ですね」


 定型文みたいな回答につまらなさを覚える。綺麗って褒められるのは悪い気はしないけど!

 あたしはそのままスカートを全種類とトップスを変えながら試着しまくった。あー、楽しいー。

 そして最後の一着になったところで、一度試着室を出た。


「これは?」

「可愛らしい雰囲気が出ますね。こちらもよくお似合いです」

「ありがと。ねぇ、どれが一番良かった?」

「え? えぇと、私の意見でいいのでしょうか?」

「いいわよ」


 ジェイルたちを付き合わせると「どれもお似合いです」とか、メロに至っては「どれでも同じじゃないっスか?」って言ってくるから本当に付き合わせ甲斐がなかったのよね。ま、まぁ、下手なことを言おうものならあたしが怒るから言えなかったっていうのもあるんだろうけど……今のあたしはちゃんと他人の意見を聞けるし、何時間も試着室に籠もったりしないわ。多分。

 ユキヤは少し考えてしまった。

 その横で店員がちょっと緊張した面持ちを見せている。


「私の主観になってしまって恐縮ですが、こちらのネイビーのスカートがよくお似合いでしたよ。ブラウスもよく合っていたと思います。……こちらのグリーンも捨てがたいのですが」

「……へぇ」


 ジェイルたちと違いすぎてちょっと感動したわ。いや、あの三人だって相手がアリサ(アリス)なら、もっと真剣に考えるはずなのよ。相手があたしだから考えるに値しないってだけで……。

 あたしはネイビーとグリーンのスカートを手に取り、少し悩んでしまった。

 基本金額なんて見ないし気にしたこともないから二着買うのは問題ない。でも無駄遣いしない、着ないかも知れないものは買わないって決めてきたのよね。……でも、似合うって言われると欲しくなる不思議……!

 ……まぁいいか。数ヶ月買い足してないし、これくらいなら別に……?


「じゃあ、これとこれ、あと合わせたブラウス頂くわ。──ねぇ、そっちのバッグとスカーフ持ってきて」

「ありがとうございます!」

「少々お待ちください」


 スカートとブラウスを店員に任せ、ディスプレイされているバッグとスカーフを指さした。あれも新作だわ。

 一度「まぁいいか」と思って、買うと決めてしまうと、リミッターが外れてしまう。次から次へと欲しくなってきてしまう。まだ一店目なのにこのペースだと非常にまずい。

 あたしは店員からバッグを受け取りつつユキヤを振り返った。


「ユキヤ」

「はい、何でしょう」

「あたしが一つの店で五個以上買おうとしたら止めて」

「えっ。折角なので好きに買われた方がいいのでは……」

「ダメよ。全部頂戴って言っちゃいそうだもの」


 苦々しく言うと、ユキヤは目を丸くしていた。

 店長が「そんな……!」と言わんばかりの顔をしている。店長的には「全部頂戴」でいいのよね。売上にもなるし、必要以上にあたしの接待をしなくて良くなるし……。でも今日はそうじゃないから。

 ユキヤはどう答えていいか困っているようだった。止めてくれないと困るの!


「ちゃんと選んで買ったものを身につけたいのよ。これまで買っても着ないことも多くて……」

「……ふふっ。かしこまりました。五点以上でお声がけさせていただきますね」

「ええ、そうして。お願いね」


 と、なるとここで買えるのはあと二つ。

 それに気付いた店長が少し目の色を変えた。少しでも高いものを買わせたいって気持ちが隠しきれてないわよ……。


「なんか羽織るものある? あればいくつか見せて」

「はい、お待ち下さい」


 そんなこんなで試着をしつつ買うものを吟味していく。

 ユキヤはずっとにこにこしていて嫌そうな顔を一つも見せなかった。……あー、メロに爪の垢を煎じて飲ませたい。あとジェイルにも。

 悩んだ末に羽織物を一つ買うことにした。バッグとか小物はもっと別の店にしよう。

 これを買うと伝えたところで、ユキヤが横から笑いかけてきた。


「ロゼリア様、あと一つですよ」

「わかってるわよ」


 言ったこともちゃんと守ってくれるしね。若干プレッシャーだけど!

 これって本当にどう見てもデートと言うより買い物の付き添いだわ……デートだなんて見られないんじゃないかしら。以前、買い物にジェイルたちを同行させてたけど似たような感じになってる気が……。いや、あの時みたいな無茶は言ってないし、試着にもそんなに時間かけてないからその点では大丈夫、のはず。

 ユキヤを見上げると、少しだけ小首を傾げて「どうかしましたか?」と聞いてきた。何でもないと笑って答え、残り一つをどうしようか悩んだ。


 そんな感じで行きたい店を順に回っていく。

 ……ユキヤは文句も言わずについてくるし、あたしが腕を引っ張ってもにこにこと笑っていた。ゲーム内でも基本にこにこしてたけど、いやもうほんとすごいわ。ちょっと尊敬しちゃう……。

 少し離れたところでジェイルたちがこっちの様子を伺っていた。それには敢えて気付かないふりをする。折角の買い物なのに水を差されたくないのよ。

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