89話 疲れた頭に糖分を
テストまであと二週間。まだテスト期間に入っていないが春人は部屋でノートと参考書に向き合っていた。
北浜との勝負に勝つためには全然今の春人では実力が足りない。今から勉強しても遅いくらいだ。それでも他に方法がない以上春人には勉強するしかなかった。
黙々とノートに文字を書き込んでいると部屋の扉がノックされる。
「お兄入るよー」
ノックと同時に琉莉が入ってきた。もうノックの意味がほとんどないがいつものことなので春人も気にしない。
「ん?どうした?」
「お母さんがこれ持ってけって」
琉莉の手にはお盆に乗ったカステラとお茶があった。
「おーサンキュー。ちょうど休もうと思ってたんだ」
春人はペンを置くと琉莉からお盆ごと乗ってるものを貰う。机にお盆を置き早速カステラをかぶりつく。
「うんめー」
疲れた頭に糖分が染み渡る。二切れあるうちの一つをあっという間に平らげた。
琉莉はすぐには戻らないのか春人のベッドにどさっと腰を下ろす。
「お兄勉強は進んでるの?」
「一応はな。でも全然だめだな。ただ成績上げようとかの話じゃないからな今回」
「お兄に学年一位とか無理だと思う」
「あはは、俺も自分でそう思うよ」
それを目指して頑張ってる人間に面と向かってよく言えると思うが兄妹間の会話だ。琉莉も悪気はないだろう。
思わず春人は笑ってしまう。
「お兄は勝ちたいんだよね?」
「ああ、本気で勝ちたいと思ってるな」
「勝っても負けても結果同じだと思うんだけど」
琉莉もそこは気づいてたのか春人は思わず苦笑する。
「俺もこの前までそう思ってたんだけどなー。でもなんか誰かの為ならちょっと頑張れる自分がいるのに気づいてな」
「誰かの?」
「期待されてると思うとな。こんな自分にも期待してくれてるんだって。そう思うと不思議となんか勝ちたくなった」
春人は自分に期待を寄せてくれた人たちを思い出す。それだけで少しはこの絶望的な状況も苦じゃなくなる。
「だからできることは全部やるよ。勉強時間が足りないならとことん増やしていくしな」
こんなに勉強しているのは春人も生まれて初めてだ。これも一人では到底続かなかっただろう。
「そうか」
琉莉はそう声をこぼすとベッドから立ち上がり扉へと向かう。
「もう戻るよ。勉強頑張って」
「ああ、差し入れありがとう」
後ろ手に扉を閉める琉莉を見送り春人は残りのカステラを口に放り込む。
琉莉もいろいろ気にしてくれているのだろうか。あんな話をわざわざするくらいなのだから。
「……よし」
春人は残りの勉強のため気合を入れる。少しでも頭に詰め込みテストの点数に繋げなくては。




