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83話 面倒なことは続けざまに起こるもの

常盤(ときわ)か……なんか用か?」


 春人は女子生徒を見るなり、少々面倒くさそうに眉を顰める。


「用ってことはないけどね~。でぇもぉ気になるよね~。今を時めく三人が集まってると」


 ふふっと含みがあるような笑みを向けながら口にくわえてる飴をペロッと舐める。


「あれ?ももっち一人いなくな~い?」


「一人って誰のことだよ」


「だから~、動画の子。四人いたよね?」


「そうだな。教室じゃないか?」


「え~、一人だけ仲間外れはなくない?」


「別に仲間外れじゃねえよ。ここにいるのも全員偶然だしな」


「偶然?そんなことある?」


 言葉を交わすが春人はどうも彼女の言葉に意味や感情といったものが感じられない。香奈がいないことだって本当はどうでもいいのではないだろうか。


 春人は眉間を寄せ訝しみながら口を開く。


「常盤、用がないなら俺たちは行くぞ?」


「え~、もっと話そうよ~。そっちの子たちも」


 今度は美玖たちに顔を向ける。


「えーと、常盤さんでいいんだよね?」


「うん。そうだよ。常盤梨乃亜(りのあ)。よろしくね、桜井美玖さん、百瀬琉莉さん」


「知ってるんだ私たちのこと」


「言ったでしょ~?二人とも今は有名だかんね。と言っても二人のことは前から知ってたけど。美玖っちは元々有名だし?」


「み、美玖っち?」


「琉莉っちはももっちの妹だかんね」


「琉莉っち……」


 いきなり親し気に会話に入ってきた梨乃亜に二人ともその勢いに飲まれ困惑している。いったい何がしたいのか……。


 そんな梨乃亜の話に気を取られていた時だ。春人たちに再び声をかける生徒が現れる。


「随分といいご身分になってるみたいだな、百瀬」


「……はー、なんなんだよ次から次へと」


 春人は高圧的な態度を作りながら近づいてきた男子生徒へ迷惑そうに視線を向ける。


「北浜、何か用か?」


「ふん、お前が少し調子に乗り始めてるって聞いたからな。どんな感じかと思ったが……なるほどな、女子を侍らせて楽しんでると」


 北浜の嫌味ったらしく攻撃的な言葉に琉莉だけじゃなく美玖も顔を顰める。


「別に調子に乗ったつもりはないんだけどな」


 春人は北浜の言葉など意に介してないと肩を竦める。その反応に北浜は眉をピクリと動かす。


「そうやっていつもみたいにのらりくらりと逃げるつもりか?いい加減見っとも無いと思わないのか?」


「お前こそ事あるごとに俺に絡んでくるな。暇なのか?」


 春人と北浜は視線を交わし合う。お互いに鋭い目つきで相手を威嚇する。


「なあ百瀬一つ提案がある」


「提案?」


「ああ、このまま俺に付きまとわられるは嫌だろう」


「当然」


「そうだろう。そして俺はお前が気に入らない」


 本人を前にしてはっきりと言う奴だ。春人は少し感心してしまう。


「そこでどうだ、俺とお前で勝負しようじゃないか」


「はー?勝負?」


 何を言い出すのかと春人は怪訝な顔を作る。だが北浜はお構いなしに話を進める。


「勝負内容は体力に知力だ。この二つで勝負を決めよう。お前が勝てば金輪際お前に関わらないって約束してやる」


「勝手に話を進めてるとこ悪いけど俺がその勝負を受けてやる義理なんてないぞ」


「おいおい、ここまで来て逃げるのか?皆もそう思うだろ?」


 少々廊下で目立ち過ぎた。多くの生徒が春人たちの話に興味を持って立ち止まってこちらを見ている。


 中には北浜の言葉を聞いてはやし立てる者もおり、正直現状断るような空気じゃない。


「まあそうだよな。多少運動神経がいいだけの落ちこぼれが俺に勝てるわけもないからな」


 見え見えの挑発だ。それに春人自身そんなことわかってるし別に言われても何とも思わない。それでも美玖たちは別だろう。美玖と琉莉が隠しもしないで嫌悪感を露にしている。


(まずいな……このままだと二人が何か爆発しちゃいそう)


 そんな風に北浜を余所に二人の心配をしていると北浜を援護するような声が上がる。


「へ~、面白そうじゃん。やりなよ~ももっち」


「……常盤は関係ないだろ?」


「関係ないけど面白そうだし~。てゆ~か、ここで逃げるとかなくない?」


 唇に指を当て、こてっと首を傾ける梨乃亜の言葉に感化されたのか周りの生徒も口々に春人に勝負を受けるように騒ぎ立てる。


 完全に逃げ道を塞がれた。


 春人は周囲の声に辟易しながら大きくため息を吐く。


「はー、わかったよ。やればいいんだろ」


 春人の言葉を聞くと北浜は今まで以上に意地の悪い笑みを顔に貼りつけた。


「言ったな。あとから逃げるとかできんからな」


「そんなかっこ悪いことしねえよ。それで勝負の内容は?」


「ふん、さっき言った通り今回は体力と知力で勝敗を付ける。体力に関してはそうだな、今から始まる体育の競技で勝負しよう」


「体育って授業これからで内容がまだわからないが?」


「だからこそ平等な条件でやれるだろ」


「なるほどな。まあいいや。それで知力はなんだ?」


「そっちは今度の学力テストだ。より高い順位を取った方が勝ち。シンプルだろ?」


「それは流石に俺に不利じゃないか?」


「ほう?」


 春人の言葉に北浜が薄く笑みを浮かべる。おそらくこれは北浜の狙いだろう。


「お前はそもそもずっと学年一位だ。成績中間あたりの俺じゃあそもそも話にならん」


「はっ、自分の学の無さを認めるか。潔いな」


「事実だからな。仕方ないさ」


 北浜は、ふっと笑うと待ってましたというように口角を上げる。


「ならこうしよう。俺は一位を取れなければ負けでいい。学が無いお前にはいいハンデだろ」


 一位を取れなければ――それはたとえ春人が北浜に点数で勝てなくても北浜が一位じゃなければ勝たせてやると。盛大に舐められている。


「一位じゃなければね。お前が一位以外の順位取ったとこ見たことないんだが?」


「はっ、何だもっとハンデが欲しいのか?」


 見下すように視線を向けてくる。自分の優位性を誇示するように。数秒視線を交らせ春人は目を閉じる。


「わかったよ。それでいい」


「言ったな。今度は逃がさんからな」


 春人の言質を取り北浜は身を翻す。そのまま春人たちから遠ざかっていく。


「わぁお、面白くなってきたね~」


 先ほどまでの殺伐とした空気を壊すように梨乃亜が目を細め楽し気に笑みを作る。そんな梨乃亜に春人は横目に視線を向ける。


 少々思うところがあった。


「なあ常盤、聞いていいか?」


「ん~どしたの~?」


「お前って北浜と仲良かったか?」


「ん~?いいや、ぜんぜ~ん」


 にやっと真意が読めない態度を返す。


「……そうか。じゃあ俺たち行くから」


「うん、勝負頑張って~」


 にこにこ笑う梨乃亜に見送られながら春人たちは教室へと続く廊下を歩きだした。

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