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82話 うん。これは嫉妬かな

「あ」


 廊下を歩いていると春人と琉莉の正面から美玖が歩いてきた。


「あ……」


 美玖も春人たちに気づいたのかその足が春人たちと五メートルほど離れて止まる。


 会話をするにはいささか遠い距離だ。春人は距離を詰めるべきかと考えていると美玖の方から近づいてきた。


「こ、こんにちは春人君」


「え、ああ、こんにちは……?」


 なぜここで、こんにちはなのか春人は困惑する。いや朝から話してないので別におかしくは無いのだが……それでも普段と違う少しぎこちない空気が漂う。


(やっぱりなんか変だよな。俺いつもどう美玖と話してたっけ?)


 頬を汗が垂れるのを感じながら春人は会話の糸口を掴もうと頭を働かせる。

 そんな春人と美玖の顔を交互に見て琉莉が小さく息を漏らす。


「美玖さん久しぶり」


「あ、うん、久しぶりだね琉莉ちゃん」


「美玖さんに会えて嬉しい」


「私も嬉しいよー」


 琉莉は美玖に抱き着いて甘える。それはいつもの光景だった。なにもおかしくなくぎこちなさもない。やはり春人と会話するときにだけ気まずい空気になってしまう。


「美玖さん兄さんと何かあった?」


「っ!」


 いきなり確信をついてきて美玖が驚いたように目を丸くする。

 その反応に琉莉も気づいたようだがそのまま話しを続ける。


「私、美玖さんと兄さんには仲良くしてほしい」


「えーと、別に喧嘩とかしてないよ?」


「そうなの?じゃあなんでそんなに気まずそうなの?」


「そ、れは……」


 美玖は言葉に詰まってしまった。どう説明したものかと。


 琉莉はそんな美玖の目を下から見上げる。美玖は何か責められているような罪悪感を覚えつい視線を逸らしそうになるが――。


「美玖さん」


 琉莉に名前を呼ばれ踏みとどまる。ずっと見ていると吸い込まれそうな綺麗な目に美玖はつい目が離せずにいた。


 そして自分が誤魔化そうとしていることに強い嫌悪感を覚える。


「……ごめんね春人君」


 気づけば美玖は謝罪を口にしていた。


「え、別になんか謝られるようなことは」


「ううん、した。……お泊り会の最後私が言った言葉……聞こえてたよね?」


「……ああ、聞こえてた」


「ごめんね、いきなりあんなこと言ってちょっと呼んでみたかったんだけど……いざ呼んだらその……恥ずかしくて」


「恥ずかしいとは?」


「だからっ……は、はる君って呼んだはいいけど恥ずかしくて……それで春人君の顔見れなかったからあんな態度取ってたの!だからごめんなさい!」


 最後はもうやけくそ気味にまくしたてる美玖。そんな美玖の言葉に春人はきょとんと目を丸くしていた。


(え?恥ずかしかったって……そんだけ?別に俺が何かしたとかじゃないのか)


 美玖の言葉に脳が遅れて理解して春人は安堵の息を吐く。身体の力が一気に抜けた。


「そうか。そうか……」


 何度も口に出す。出してようやく現実を実感できる。


「あの、春人君。恥ずかしいこと言ったついでに聞いていい?」


「ん?別にいいけど」


 美玖は何か吹っ切れたような先ほどまでのおどおどとした様子はなく春人に視線を向ける。


「さっき教室で女の子たちにいろいろ聞かれてたよね?」


「え、ああ、そうだな?」


 いったいなにが聞きたいのか。春人は少し身構えだす。


「その中に春人君が気になる子はいた?」


「ぶふぅーっ!」


 あまりに予想外の質問に春人は思わず吹き出す。それでも美玖の顔は至って真剣だ。揶揄っているような空気じゃない。


「それは、なに?なんでそんなことを」


「私が知りたい。春人君がどう思ったのか」


「お、おう……」


 本当に真っ直ぐな目が春人を捉える。最早逃げられそうもない。それにここまで真剣なら春人としても答えないわけにもいかない。


「別に気になる子とかはいないけど」


「本当に?」


「ほ、本当に」


 じーーーっと春人の目を見てくる。いったいどうしたというのか。春人は冷や汗を背中に感じながら美玖の尋問めいたやり取りに固唾を飲む。


 すると、すーっと目を閉じてなにか憑き物でも落ちたかのように美玖から力が抜け始める。


「そうか。うん、わかったよ」


「わかったって……何がだよ」


「ふふふ、何だろうね、春人君」


 気が付けばいつも通りの笑顔を春人に向ける美玖。本当に先ほどまでの少し弱気な姿は微塵も残っていない。


「……美玖さん嫉妬?」


 琉莉が見上げながら美玖の顔を見る。美玖は琉莉の言葉を聞くと優しく微笑みを浮かべ――。


「うん。これは嫉妬かな」


「ッ!」


 春人は心臓を鷲掴みにされるような衝撃を受けた。それほどまでに今の美玖の言葉は心を揺さぶった。


(嫉妬って……え?美玖が嫉妬した?他の女子と話して?)


 嫉妬の意味が分からず春人が困惑していると女子同士が何やら楽しみ始めた。


「美玖さんのその反応いい。すごく可愛い」


「そう?ありがと琉莉ちゃん」


 琉莉は美玖の身体に顔を埋めて抱き着く力を強くする。美玖も「くすぐったい」と笑いながらじゃれ合っていた。


 一人だけ取り残された春人はこの感情をどこに発散すればいいのかわからず、ただ二人のやり取りを呆然と眺める。


(えー……なんだよこの状況)


 悶々とした気持ちが残ってしまった。それでもいつもの美玖が見れたことでほっとしている。本当に自分でもよくわからない嬉しさやら困惑やらなんか色々とごちゃまぜにした気持ちだ。


 そんな時だった――。


 春人が自分の気持ちの整理が終わっていないところにこの場の空気を壊すような場違いに明るい声が春人たち向けられた。


「あっれ~、今動画でちゅーもくの三人で何してんの~?」


 春人の前方。美玖からは後方の場所に金色に染めた髪をなびかせ、だらしなさを感じさせないおしゃれなファッションとして制服を着崩した女子生徒が立っていた。

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