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64話 恋人の振り作戦

 いろいろな種類のプールが揃っていた。定番の流れるプールや波の出るプール。少し様変わりの激しい流れに大きな浮き輪に乗って流れるプールや水に浮く足場に飛び移動していくアスレチック的なものまで一日で遊ぶには多すぎる量が揃っていた。


「すげえな。どこから行くか」


 春人たちはプールの入り口にある案内板の前でどのプールに入るか相談している。


「うん、すごい。そっちもすごいけど……」


「ああ、わかるぞ。こっちも、まぁーすごいな」


 春人と琉莉が視線を周囲に向ける。真夏のプールだ。それはもう多くの人であふれている。そんな人々をよく観察していると多くの人が何かに気を取られている。不躾にガン見しているものやチラチラと様子を窺っているものと様々。そしてその大半が男性である。そんな人たちの熱い視線を集めているのが――。


「あはは……」


 言うまでもなく美玖だった。


「まさかここまでとはな」


「うん流石“学校一可愛い女の子”」


 学校での美玖の呼び名を琉莉が口にする。


 学校でも有名になるくらいの美玖なのだ。こんな人が多い……しかも水着姿でその柔肌にスタイルを晒していればあっという間に注目の的である。


「美玖さんすごい見られてるけど大丈夫?」


「まあ、いつものことだし多少は気になるけど……」


 もう慣れたと美玖は言うがやはりこのままでは素直に楽しむのも難しいかもしれない。


「見られないように……なんて都合のいい方法ないわな」


 頭を悩ませる春人。こんなことで悩むことがあるなんて誰が想像できただろうか。


 遊ぶことそっちのけで考えていると琉莉が閃いたと、ポンっと手を打つ。


「美玖さんが一人でいるからこんな見られるんだよ」


「は?いや一緒にいるだろ」


「そういう一緒じゃない。いわゆるパートナー的な」


 言うと琉莉は美玖の背後に立ち――。


「はいドーン」


 背中を思いっきり押す。


「きゃあっ!」


「え、ちょっ!?」


 琉莉に突き飛ばされた美玖が春人の胸にすっぽり収まる。


「こうやって恋人同士に思わせればいいんだよ。そうすれば余計な虫が美玖さんに近づく予防にもなる」


「いやお前……めっちゃ注目集めてるんだが!」


 美玖の悲鳴に今まで美玖の存在に気づいてなかった人までこちらに視線を向けてきた。

 好奇な視線が美玖と春人を突き刺す。


「……これは予想外……美玖さんが悲鳴上げるから」


「え!?私のせいなの!?」


「いや美玖のせいじゃなくて百パーこいつが悪い。とりあえず離れた方が――」


「ううん、そのままくっ付いてて兄さん」


「お前いい加減に――」


「美玖さんの顔を見えなくなるよう抱いて。そうすればそこらにいるただイチャついてる恋人の一員になるだけだから」


「は?そこらにって……」


 春人は顔を上げ視線を巡らせる。確かに抱き合ってる恋人らしき人は多い。開放的なプールでは皆積極的になるのか人目も気にせずイチャついていた。


 木を隠すなら森の中といったところか。これは確かに一理ある。


 その証拠に先ほどまで興味を持って春人たちを見ていた視線が減ってきていた。彼氏持ちと勘違いしたのか、そこらのバカップルと同じかと思ったのか。何でもいいがまさかの方法で解決した。


「すごいな。マジで視線が無くなってきた」


「ふふ、どう?私の作戦完璧でしょ」


「ああ、完璧ついでに教えてくれ……この後はどうするんだ?」


「この後、とは?」


「いや、だから、ずっとくっ付いてるわけにはいかないだろ」


「ずっとくっ付いてればいいじゃん」


「はーーー?」


 琉莉の突拍子もない言葉に春人は口をあんぐりとさせる。


「だって恋人同士に見えないと意味ないし」


「意味ないって……それはそうなんだけど……美玖どうする?」


「ふぇ?」


 話を聞いていなかったのか美玖から可愛らしい声が漏れる。


「いやだから、このままくっ付いてるわけにもいかんよなって」


「あ、ああ……ちょっと待って」


 言うと美玖は俯き春人から顔を隠す。息を吸って吐いてと繰り返しているのか結構な頻度で肌に吐息がかかりこそばゆい。春人は身震いしそうになるのを必死にこらえる。


 すると、ばっと美玖が顔を上げいつもの笑顔を向けてくる。


「私はこのままで大丈夫だよ?」


「え……いいのか?」


「うん、だって実際これで人目を避けれるし、春人君たちと落ち着いて遊べる方がいいもん」


「それはそうかもだけど……」


 春人が返って落ち着かなかった。こんな密着した状態で今日は一日遊ぶのか。そう思うと無性に恥ずかしくなってきた。


「ほら兄さん。美玖さんもこう言ってる」


「ん、ん、ん~~~……わかった。これでいこう」


 最終的には春人が折れた。


(でもこの状況すげぇやばいんだけど。あたってるものとか)


 春人の胸の上で形を変えている柔らかいものを意識し内心で身悶える。


 流石にいつもここまで密着するというわけではないだろうがそれでも一度この柔らかさを経験してしまっては忘れることができない。


「……とりあえず波が出るプール行くか。遊んでれば一目も気にならないだろうし」


「そうだね、じゃあ行こうか」


 美玖は春人の胸から離れ、代わりに腕に自分の腕を絡める。恋人同士がよくやる光景だ。


(自然に腕組んできたなこいつ!こっちの気も知らないで!)


 嬉しさや恥ずかしさが入り混じり鼓動が早くなる春人。せめて顔だけでも平静を装う。


 そんな見た目イチャつくカップルに変貌した二人を背後から琉莉は見ていた。


(う~ん、一応くっ付けることには成功したけどー。美玖さんの反応がいつもと変わんないなー)


 琉莉が首を傾げ二人を観察する。普段の春人を揶揄って楽しんでいる美玖と今の美玖に違いが見られない。


(お兄はまあ顔には出てないけど動揺しまくってるね。美玖さんにくっ付かれたらそりゃあ仕方ないか……というか羨ましいな。くーっ、美玖さんの本心を見極めるためとはいえお兄に美味しい思いをさせるのは……ほんっっっとうに遺憾だわ)


 悔し気に眉根を寄せる琉莉。本当だったらその位置は自分であってもおかしくなかったはずだとイフの世界を思い浮かべ歯噛みする。


(とりあえずそれはそれとして……問題は美玖さんなんだけどなー。海での反応を見るにこんな事したら絶対慌ててくれると期待したのに)


 あまりにも身勝手なことに巻き込んでいるのだが琉莉は面白くないと頬を膨らます。想像以上に美玖が手強い。


(う~~~ん、まあ、次だね次ー。今度はどうしようかなー)


 まだまだ諦めるつもりはないらしい。頭の中で次の手をぐるぐると練り始めた。

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