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59話 被告人 百瀬春人

 朝起きて本来なら朝食を取っている時間なのだがリビングではなんとも重たい空気が漂っていた。


「ごほんっ。それではこれより被告人、百瀬春人に対しての裁判を執り行う」


 香奈が机の端の方に座り高らかに宣言する。立場的には裁判長の位置だろうか。


「被告人の罪状について検察官説明を」


「はい」


 香奈の言葉に琉莉が返事をする。


「被告人、百瀬春人は本日の朝、寝起きで寝ぼけていたであろう花守くるみに対してわいせつ目的で手を出した疑いが掛けられています。女の敵です。即刻死刑にするべきです」


「いや、お前が判決を決めるなよ」


「被告人は静粛にっ」


 ぴこんっとどこから持ち出したのか香奈がピコピコハンマーで机をたたく。なんとも場違いな音が鳴り響くが気にせず裁判は進む。


「これに対して被告人、何か言いたいことはあるか」


「そうだな。とりあえずこの茶番は何なのかと問いたいのだが――」


「弁護人の主張は?」


 聞いておいて春人の言葉を途中で遮り香奈は視線を移動させる。


「え、えーと」


 美玖が困ったように苦笑し頬を掻く。


「なんというか……とりあえず春人君の話も聞いてあげた方がいいんじゃないかな?流石に信じられないというか」


「美玖……」


 春人は感極まり思わず美玖の名前が口から漏れる。弁護人としてちゃんと春人の味方でいてくれることに感謝する。


「証拠があります」


 琉莉がスマホの画面を見せてくる。そこには春人がくるみのパジャマに手を掛けている写真がばっちり写っていた。


 それを見て美玖の表情が強張る。目から熱も消えひんやりと冷たい空気を纏い出す。


「うん、死刑で」


「弁護人!?」


 春人が寒気を感じるほどの恐ろしく冷たい声で言い放つ美玖。


 弁護してくれるはずの人間からも死刑判決を出され春人はいよいよ味方もいなくなった。

 検察官と弁護人の意見も出揃い裁判長が重たい口を開く。


「ふむ。それでは被告人は死刑ということで」


「判断適当過ぎだろ!というか冤罪で死刑になってたまるか!」


「被告人は静粛にっ」


 再びぴこぴこハンマーの気が抜けた音が響く。


「ていうかなんだよこれ。なんで裁判ごっこが始まってんだ」


「琉莉が面白そうな話持ってきたから遊ばない手はないでしょ」


「面白くねえよ、それで死刑判決出されてんだぞこっちは」


 うきうきと楽し気に目を輝かせている香奈に春人は目を細め文句を口にする。


「と言ってもねー。この写真は決定的だよねー」


「だから誤解だって言ってんだろ。俺は何もしてない」


 無実だというように春人は両手を広げて顔付近まで上げる。


 そして春人たちとは別で葵とくるみも話をしている。


「まったく君は……寝ぼけていたとはいえ部屋を間違えるか?」


「んー、全然覚えてないから私もわからないぃ」


 呆れる葵の前でくるみがいつものようにのほほんとしている。


 ちなみに今はしっかりと服を着ている。


「春人だからよかったものの、何かされてても文句も言えんぞ」


「何かって……なにぃ?」


「……うむ、君はまずその辺の危機意識をどうにかしないといけないな」


 更に呆れの色を濃くし葵はため息を零す。くるみはわかっていない様子で不思議そうに首を傾げていた。


(あっちも大変そうだな)


 聞いてるだけでも葵の苦労が伝わってくる。今回の件についてくるみに理解させるのは骨が折れそうだ。


「春人君聞いてる?」


 葵たちのやり取りに気を取られまったく聞いていなかった。こちらの問題もまだ解決していない。余所に気を回している暇はない。


「えーと、なんだ?」


「だから、この写真についてちゃんと説明してください」


 美玖は琉莉のスマホを指さす。先ほどの裁判で使用した決定的瞬間を収めた写真だ。


「説明って……先輩のパジャマが脱げかけてたから直そうと……」


「ただ寝てただけでこんな状態になる?」


「なってたんだから俺に言われてもな」


 確かにどうしたらパジャマのボタンがすべて外れるのか。相当くるみの寝相が悪かったのか。爆睡していた春人にも謎である。


「それに関しては私が証言してやろう」


 向こうの話は終わったのか葵がこちらの話に入ってきた。


「くるみは昔から起きると服を脱ぎ散らかしてるんだ。だから春人のせいではない」


「そうなんですか、なるほど……もう少し早く教えて欲しかったです」


 そうすれば春人もいらぬ誤解をされずに済んだかもしれない。

 そんな春人の言葉に葵はなにやらおかしそうに答える。


「いやなに、急に裁判ごっこなど始めるものだからな。いったいどうなるのか気になって君たちに任せてみた」


 腕を組み真面目な感じを出して葵が言うが要は面白そうなことを始めたから見てみようと、そういうことだ。


「こんなことで面白がらないでください」


 春人としては至って真面目だった。もしかしたら寝込みを襲う最低な男のレッテルが貼られるところだったのだから。


「すまなかったな。だが、君たちがいつも通りなようで安心したよ」


 葵は目尻を下げ小さく微笑む。

 春人は首を傾げ葵の言葉の意味を考えようとするがすぐに中断させられる。


「さてとりあえず皆納得はしただろう。今日も海に出るのだからしっかり食べておかないともたんぞ」


「そうですよ。あたしもうお腹空いて仕方なかったんです。早く作って食べましょう!」


 葵が声を上げると香奈が率先してキッチンへと駆けて行った。どうやら誰が朝食を作るかで悩む必要はないらしい。


「なら俺は机でも拭いとくか」


 春人は台拭き用の布巾を水で濡らし絞ると机の上を拭いていく。

 すると琉莉も布巾を持って春人の隣にやってきた。


「朝はお楽しみのところ悪かったねー」


「てめぇ。朝からお前のせいで大変だっただろうが」


 今日の元凶である琉莉がにやにやとムカつく笑みを作るので春人は口を歪め不愉快さ全開の顔を向ける。


「私のせいとは言うけどこうなる原因作ったのはお兄だからね。――それでどうだった?」


「なにがだよ」


「くるみ先輩のは・だ・か」


「だから何もないからなっ!」

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