52話 ……美玖ってむっつりなのか
顔に違和感を感じ春人は眠りから薄っすら覚醒する。
覚醒するがまだ気持ちは夢の中だ。ふわふわのベッドが春人の覚醒を妨げる。身体が起きるのを拒絶し再び眠りの海へと沈もうとしたとき近くに誰からいるのを感じた。
「ん――」
重たい瞼を何とか持ち上げると最初に目に入ったのは美玖の顔だった。
「ん、んー……美玖……おはよう」
頭がまだ回っていない春人は美玖が部屋にいても驚くことはなかった。半分寝ぼけてもいるため呑気に挨拶などしている。
「え、うん……おはよう……」
美玖は困惑しているようだが春人がそれに気づくことはない。夢と現実の境界を彷徨い春人は再び夢の住民人なろうと瞼を閉じる。
「あ、ちょっと春人君起きて」
美玖は再び眠りに入ろうとする春人の身体を揺すって起こそうとする。ここまでされれば流石の春人も徐々に目が覚めてくる。
「んーーー……んー……ん?」
春人は目を見開く。その目が美玖の目とばっちり合う。
どういう状況だと春人はやっと動揺を見せる。
「あ、起きた。おはよう春人君」
「え……ああ、おはよう……」
先ほどとは逆の反応をお互い返す。
「えーと、ここ俺の部屋だよな?」
「うん、そうだよ」
「なんで美玖いるの?」
当然の疑問を春人は口にする。それに対して美玖は平然とした態度で対応する。
「ご飯の準備始めるから呼びに来たの。春人君寝てそうだったから」
「あー……なるほど、そういう」
春人は、そうかと納得する。そういえばご飯の支度をしなければいけなかったと。
すっかり眠りこけてしまい春人は恥ずかしくなる。
「悪いな。ぐっすり寝ちゃってたわ」
「ううん、気にしないで。春人君の寝顔が見れて私は楽しかったよ」
「……そうか、それはよかった?」
笑顔を向けられるが春人は素直に喜べない。自分の寝顔など見て何が楽しかったのかわからないし、そもそもそんなの見られていたことが恥ずかしい。
「それじゃあ先行ってるね。また寝ちゃだめだよ」
そういうと美玖は部屋を出て行ってしまった。残された春人は困惑する頭をどうにか動かしスマホを確認する。
「ん?一件……琉莉から?」
メッセージが一件入っていた。確認のためアプリを起動する。
『美玖さんはむっつり』
起動して早々目に入ってきた文字がこれだ。春人は口を開け訝し気に目を細める。
「なんだこれ」
妹からの意味不明なメッセージに更に困惑する。いったいなぜこんなメッセージを送ってきたのか。考えてもわからず春人はスマホの画面を落とす。
春人は一度身体を伸ばす。んーっと背中を伸ばし身体を起こす。
「おー、ここから海見えたんだな」
春人は不意に目に入った目の前の光景に感動し声を漏らす。
別荘に到着したばかりの時は気づかなかったが春人が視線を向ける窓の外には光り輝く青い海が一面に広がっていた。
海に驚いたことで完全に目も覚めた。ぼーっとしていた頭もすっきりとしている。
感動的な光景を目に焼き付けながら春人は呟く。
「……美玖ってむっつりなのか」
頭がはっきりとしてきて先ほどの琉莉のメッセージが急に気になってきた。
目は綺麗な海に向けられているのだが頭の中は海などどうでもよくなっている。
しばらく外を眺め春人はスマホをポケットにつっこみ部屋の扉へと向かう。
「あとで詳しく聞こう」
この件については琉莉にちゃんとした説明を要求するつもりだった。やたらときりっとしたいい顔を作りながら春人は皆がいるリビングへと降りていった。




