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5話 傍若無人な妹

 春人は学校から帰宅し家の玄関を開けると靴を脱ぎリビングの方へと歩いていく。玄関に妹の琉莉の靴があったのでもう帰ってきてるだろう。


 リビングの扉を開けるとソファに寝転がりポテチとコーラの飲んでいる人物が春人の目に映る。


「んー?あ、お兄おかえりー」


 制服を脱ぎ捨て部屋着でだらける琉莉の姿がそこにはあった。見ると手の届く範囲にゲームや漫画、テレビのリモコンなども配備されており、ダメ人間の見本のようなありさまである。


「……相変わらず家だと見事なだらけムーブを決めてんな」


「家なんでそりゃあだらけもするよ」


「久々に学校でお前と話したけど、こうも人間って変われるんだな。ちょっと兄悲しくなってきた」


「何を今更、学校では私が猫被ってんの知ってるでしょ」


「自分で言っちゃうところもなー、なんか覚悟が違うよな」


「お、いいじゃんそれ、そう、私は覚悟が違うんです」


 ふんっとドヤる妹の顔を見て春人はため息をつく。このものの見事に学校とは違うのだが悲しいかな正真正銘妹の琉莉なのだ。なんでこうなってしまったのか、育て方を間違えたのか琉莉は春人が心配になるレベルで家ではダメ人間と化す。


「あ、そうだそうだお兄お兄」


「なんだ?俺は今お前の将来を本気で心配して――」


「なんで美玖さんと一緒にいたの?仲いいの?」


「お、おお……あー……」


 予想外の質問に春人は言葉が出てこず、あからさまに動揺を表に出すので琉莉も面白くなる。


「仲が悪いなんてことないよね、私が声かける前とかすごい楽しそうに話してたし」


「……そんなでもないよ」


「廊下でもさ、すんごーい仲がいいですアピールしながら歩いてたよね?」


「お前どっから見てたの!?つうか後跟けてきたなてめえ!」


 自販機で会ったのは偶然ではなく全て琉莉の思惑だったらしい。

 眉尻を吊り上げる春人の怒りを気にも留めず、琉莉はポテチ片手に口を開く。


「私はね、お兄が心配なんよ。人間付き合いクソザコのお兄がちゃんと高校でやっていけるのかって」


「心配してくれるのはいいが全くありがたいって思えないのはお前の言い方の問題だよな?」


 ここぞとばかりに煽ってくるぐうたら妹に嫌味一つで済ますあたり春人は自分の心の広さに感心する。


「そういうわけで……お兄美玖さんに何したの?なんか弱みでも握って自分の欲望のままに弄んでやるぜ、とか思ってるならこの辺で止めときなよ、私も一緒に謝りに行ってあげるから」


「黙って聞いてればお前は俺を何だと思ってんの!?」


「男なんて欲望に正直な獣でしょ?別にお兄だけそんな風に思ってるわけじゃないから、ちゃんと、皆、平等に、男はそうだと思ってるから安心して」


「安心できるか!お前今全人類の男敵に回したからな!男の欲望の捌け口は全部お前に集まるからな!」


「うーわぁ、お兄妹に向かって欲望の捌け口とか……妹を何だと思ってるんだか……」


「お前が言い出したのにマジ引きするの止めてくれないか!?」


 まるで汚物を見るような目を妹から向けられ胸が抉られるような痛みを覚えた。


 こんな感じでどこにでもいる兄妹のやり取りを春人と琉莉が繰り広げていくのがいつもの百瀬家の日常だ。くだらないことに無駄にエネルギーを使う燃費の悪い生活を送っている。


「まあ、お兄の性癖を暴いたところで本題に戻るけど」


「人の性癖片手間で暴いたみたいに言うのやめろ。てか違うからな?」


「美玖さんとお兄なんで仲いいの?」


「あ、本当にこの話終わり?とりあえず俺の性癖じゃないからそこんとこだけちゃんとわかってほしいんだけど」


「あーうっさい!お兄の性癖何て最初から興味ないから、私が興味あるのは美玖さんとのか・ん・け・い!」


「くそ……わかったよ、たく」


 自分から話を膨らませておいて飽きたら捨てる傍若無人な妹にこれ以上言っても意味がないと春人は諦める。


「教室で席が隣なんだよ俺と桜井は」


「……で?」


「でって……それだけだが?」


「………」


「………」


「……んなことあるかぁっ!」


「うおあぁあ!?」


 狂乱した琉莉が春人のみぞうち目掛け頭突きを食らわし、そのまま押し倒す。


「席が隣なんだ、で納得できると思ってんのか!学校一可愛い女の子だぞ!?そんな子とモブ・オブ・ザ・モブのお兄が仲良くなれるわけねえだろ!」


「いや、お前……情緒不安定すぎるだろ!?」


 さっきまでのぐうたら妹はどこに行ったのか……興奮して我を忘れた妹に春人は身体を激しく揺さぶられる。


「いい?お兄はね?ほんとーーーにダメなの。それはもうダメダメなの」


「お前とりあえず俺を落とさないと気が済まない性格直せよ」


「そんなお兄が美玖さんと仲がいいんだよ?気にならないって方が嘘でしょ」


「まあ、気持ちはわかるなそれは」


「でしょ?だからさ?正直に洗い浚い吐き出しなよ。今ならまだ許してあげるから」


「なんで俺が許される側なんだよ。本当に席が隣でよく話すだけだっつうの」


 春人の言葉に琉莉は眉根を寄せる。全く納得していない反応だ。


「まさかお兄がここまで強情だとは」


「いや、本当のことしか言ってないけど」


「これは私も手段を選んではいられませんね」


 やけに気取った感じを醸し出しながら琉莉はポケットに手を突っ込み一枚の紙を取り出した。半分に折りたたまれた紙をゆっくり開くとすうと目を細め――。


「ぼくはみうちゃんのことがだいすきです。おおきくなったらみうちゃんとけっこんしておおきなおうちと――」


「あああぁぁぁぁぁああぁぁっ!」


 絶叫を響かせ春人は琉莉の両腕を鷲掴みにする


「お前っ!それどっから持ってきた!?」


「お兄のクローゼットのいっっっちばん奥の方にあった箱の中からだけど何か?」


「何かじゃねえ!何当然のことみたいに話してんだてめえは!」


「まあまあ、そう怒んなよ。小さい頃のラブレター何て可愛いものだろ?」


「それをてめえは脅迫の材料として使ってんだろうが!」


 琉莉が読み上げたのは春人がまだ小学校にも上がってない頃に書いた好きな人へのラブレターだ。若気の至りか本当に思っていたことを好きなように書いている。今読み返すととても恥ずかしい一品だ。


「いいから返せ!」


 春人は無理やり琉莉からラブレターを奪い取ると、そのまま琉莉を跳ね除け立ち上げる。


「はあ、はあ、マジでありえねえこいつ……人間のすることか」


 息を乱しながら妹の所業に恐怖を感じていると含み笑いを浮かべた琉莉がポケットから更に一枚の紙を取り出した。


「ラブレターが一枚だけだと誰が言った?」


「おんまえ本当にいい加減にせえよっ!」


 リビング中を駆けずり回る兄妹の攻防が今始まった。

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