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47話 男子高校生としては憧れるシチュエーションだ

 香奈から解放され春人はとりあえずパラソルを設置した拠点へと戻ってきた。ここには浮き輪やビーチボールなどの遊べる道具も置いてある。適当に物色し使おうと考えていた。


「あ、春人君もう帰ってきたの?」


「ちょっと香奈に捕まっててな。まだ何も遊んでない」


「そうなんだ。何するの?」


「この辺の適当に使って遊べたらって思ってんだけどな」


 春人はいろいろと見て探しているがこれといって惹かれるものがない。どうしたものかと考えてると美玖が声をかけてくる。


「時間があるなら少しお願いしてもいい?」


「ん?ああ、いいぞ。どうしたんだ」


「背中届かないの。塗ってくれない」


 美玖は手のひらサイズの容器を見せる。それで春人は全てを察した。


「え……塗るって日焼け止め……俺が?」


「他に誰がいるの?」


 美玖が小首をかしげる。如何にも春人が言っていることがおかしいような感じを醸し出しているが常識的に考えれば美玖がおかしい。普通異性にやらせないだろう。


 春人も頭の中ではわかっている。それでも男子高校生としては憧れるシチュエーションだ。背中届かないから塗って、なんて言葉一度は聞いてみたいだろう。


「……誰か他の奴に頼んだ方が……」


「皆もう遊びに行っちゃったもん」


「……呼んでこようか……?」


「悪いよ皆楽しんでるのに」


 どんどん外堀が埋められていく。じわじわと追いつめられる春人の頬を汗が流れ落ちる。なんとかして断る口実を考える春人に美玖が少し表情を暗くする。


「……やっぱりやだったかな」


「え?」


 急にどうしたと春人は動揺するが美玖はそのまま言葉を続ける。


「そうだよね。いきなり日焼け止め塗ってなんて引くよね……」


「そ、それはない――」


「じゃあいいよね」


 慌てて否定しようとした春人に食い気味に美玖が言葉をかぶせる。先ほどまでの少し沈んだ表情が今は嘘のように笑っている。


(こいつ……騙しやがったな)


 春人は内心で毒づくと頬を引きつる。


(そっちがその気ならいいぜ。後悔しても知らんからな)


 春人はゆらりと美玖の背後に膝をつく。


「塗ってくれるの?」


「ああ、塗ってやるよ。ほら日焼け止め」


 春人が出した手に美玖は日焼け止めの入った容器を渡す。春人は容器の中身を掌に広げるとしばらく手の温度で温める。


「それじゃあ塗るからな?」


「うん、お願い春人君」


 白く透明感のある美玖の背中に日焼け止めの液体を広げていく。


「ん……」


 背中に触れた瞬間ピクっと美玖が反応するが春人はそのまま液体を塗り続ける。


「ん……あ……んっ……」


 水着の紐の下も通して入念に塗っていく。


「んっ……あ……ふー……ふー……」


(……いやいやいやっ、ちょっとエロ過ぎませんかね!?)


 春人は耐え切れず内心で絶叫する。

 手を這わせるたびに艶めかしく反応を返す美玖に春人の理性が悲鳴を上げていた。


(なに!?わざとやってんの!?背中触っただけでそんな反応するぅっ!?)


 悶々とする頭で春人はできるだけ無心を心がける。視覚も遮断し目からの刺激も閉ざした。


(こうなったらできるだけ早く終わらせないと……俺が持たん)


 手の動きを速める。そうすると比例して美玖の反応も大きくなるが今はそんなこと気にしてられない。


「え、ちょっ、春人君ちょっと激しっ……んっ……」


 美玖の声は聞こえているが春人はとりあえず無視を続ける。終わらせることが最優先だと。


「あの……春人君ちょっと聞いて……ひゃあっ!」


「え?」


 ひと際大きな声があがり春人は咄嗟に手を止める。

 目を開けて惨状を理解する。そこには息も絶え絶えで水着が乱れまくった美玖の姿があった。


「はぁ、はぁ、はぁ……」


 美玖はなぜかお尻の辺りを忙しなく気にしている。春人はまさかと思い自分の手に視線を落とす。最後に感じた柔らかな感触が蘇ってくる。


(え……まさか……)


 美玖の反応と春人の手に残った感触で最後にどこに触ったのか悟った春人はすーっと血の気が引いていく感覚に陥る。


「えーと、美玖……」


 いまだに息を乱して顔を真っ赤にしている美玖へ声をかける。


「……春人君のえっち」


「うっ……!」


 美玖の言葉が春人の胸に突き刺さる。


(なんだろうか。今の美玖の感じすげえいい……)


 羞恥に染まる美玖の姿が春人にはとても魅力的に映っていた。


(まさか俺にこんな性癖があったなんて……全然知らんかった)


 新たな自分を知り春人は少し大人になった気分になっていた。優越感に似た感覚が春人を現実から目を逸らさせようとする。


「ちょっと春人君聞いてるの?」


 遠くを見るような目をしていると美玖が眉根を寄せて詰め寄ってきていた。


「え、あ……キイテルヨ」


「聞いてないね。そうかそうか……どうだったかな。私のお尻の感触は?」


「ぶふっ!おまっ、それ聞いてくるのかよ!」


「人の話全然聞いてないみたいだからね。春人君にはこういったえっちな話の方がいいみたいだもんね」


 もしかしなくても怒っているのだろう。それはまあ当然なんだろうが春人としても弁明はさせてほしい。


「一応言っとくけど……わざとじゃないぞ」


「わざとだとは思ってないよ。それにそれはそれで……」


「へ?」


 最後の方が小さすぎて聞こえなく思わず聞き返す。


「何でもない。別にわざとなんて思ってないから」


「なら何を怒ってるんだ?」


「春人君私が止めてって言ったのに止めてくれなかった」


「……そんだけ?」


「そんだけってなに!?」


 お尻を触ったこと以外に怒る点があったのかと春人はつい声が漏れるがそれを聞いて美玖が目を大きく開け抗議する。


「大変なことだよ。嫌がる女の子に無理やりしたんだよ春人君は」


「無理やりって、いやまあ、そうなんだけど」


「私は春人君にそんな犯罪者になってほしくないの」


「え、しないからな!というか怒る方向がそっちなのか」


 自分がされたことに対して怒っていたかと思えば……まさかの春人の身を案じていたとは。


「本当に?これからは嫌がる女の子がいても無理にしたりしない?」


「なんかすごい危ない会話してんな。しないって今回はちょっと特殊な状況だよ」


 春人は苦笑する。知らない人が聞けば勘違いを生みかねないことを言っているが美玖に自覚があるのか疑問だ。


「そうか……うん、そうか」


 上目遣いにジト目を向けてくる美玖が何やら呟いている。


「そういうことなら、うん、信じてあげる」


「信じてもらえて何よりだ」


 春人は安堵し立ち上がると海へ向かおうとする。そこに美玖が声をかけ呼び止める。


「あ、春人君ちょっと」


「ん、まだ何かあるのか?」


「春人君は日焼け止め塗った?」


「塗ってないけど……別にいらんぞ?」


「ダメだよ。男の子だからって塗らないと後々後悔するよ。それに日焼け痛いし」


 美玖は自分の手に日焼け止めの液体を広げる。


「まだ塗るのか?」


「ううん、これは春人君の」


 当然のように口にする美玖に春人は訝し気に目を細める。


「なんで美玖が手に広げてんの?」


「私が塗ってあげるから」


「なんで?」


「さっき塗ってもらったから」


 何やら春人に悪寒が走った。本能的に危険を感じたのか一歩後ずさる。


「いや、塗るなら自分で――」


「遠慮しない。ほらほらー」


 じりじりと詰め寄ってくる美玖に春人は捕まる。


 先ほどの仕返しだろうか元々の手つきなのか。絶妙なフェザータッチで日焼け止めを塗ってくる美玖に春人は悶々としながら永遠に思える時間を耐えた。

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