42話 要らぬ不安を与えるくらいなら黙っていた方がいいと思います
くるみと合流し春人は事の成り行きを美玖たちに説明した。美玖と香奈も安堵のため息を大きく吐き出し肩の力を抜いていた。
四人で校舎から出てグラウンドの他の生徒と合流すると案の定くるみがいなくなって軽いパニックになっていた。幽霊に連れていかれたなどと騒いでいた生徒もいたみたいだがそこは会長の葵が周囲をまとめパニックを最低限に止めていた。
生徒達はくるみを目にすると安心し安堵するものや駆け寄るものなどそれぞれの反応を示す。
「――――というわけでおそらくこれが今回の幽霊騒動の真実です」
春人は自分の考えを葵に説明する。葵も最初は驚いたような表情を見せていたが次第に表情を引き締め春人の言葉に耳を傾けていた。
「なるほどな。確かに辻褄もあっている……となると生徒会としても何かしらの謝罪を表明しなければならないな」
「いや、あくまで俺の憶測なのではっきりとした証拠もありませんし」
「だとしてもな、これは生徒会だけの問題ではないからな。学校全体の問題にまでなっていたのだからけじめはつけなければいけない」
難し気に口許に指を置く葵。春人では葵が何を考えているかまではわからないが責任感の強い葵だ。もしかしたら生徒会の解散とか言い出しかねない。
「今回の問題に生徒会が関わっていたというのはやっぱり言わない方がいいと思います」
「……なぜだ?」
「第一に証拠がありません。本当に俺の憶測なので。後は現状今の生徒会が今回の騒動に関わっていたと言われても信じる人は少ないと思います。この先要らぬ不安を与えるくらいなら黙っていた方がいいと思います」
「うむ……一理あるがこの場の生徒にはどう説明する」
「説明も何もこの話を知っているのは俺と会長だけです。今日の調査は何事もなく無事終了。幽霊なんていなかった。これで終わりですよ」
春人は肩を竦めおどけた様な態度を取る。葵も春人の態度に目を丸くし一瞬固まる。だがそれも本当に一瞬。次には笑いを堪え切れなくなった葵が噴き出していた。
「ふっ、あはは、百瀬お前は本当に大したやつだな。加賀美が一目置くのも頷ける」
おかしそうにしばらく笑うと葵は前に垂れてきていた横髪を指で、すーっと直す。
「ここまで言われては私も何も言うことはないな……借りができてしまったな」
「そんな借りだなんて思わないでください」
「いや、悪いがこれは忘れることはできない。いずれ何かしらの形で返そう。百瀬も何かあれば遠慮なく生徒会室に来てくれ。私は大体そこにいるからな」
「そう、ですか……わかりました。そういうことでしたら今度頼らせてもらいます」
こればかりは譲れないと葵からは強い意志を感じた。春人もその気持ちを無下にしたくないと思い大人しく納得を示した。
「それでは解散前に人数と安否状況を確認してくる。本当に助かったよ。ありがとう百瀬」
葵は右手を軽く上げると他の生徒会役員が集まる場所へと歩いて行った。
一人になった春人は手持無沙汰に周囲を見渡す。もうかなりの人数が戻ってきている。これならすぐに解散の流れになりそうだった。
ぼーっと周りの生徒達を眺めていると突然制服の裾を引っ張られる。
「ん?」
違和感に気づき振り向くと美玖の姿がそこにあった。
「話終わった?」
「ああ、もうじき解散になるってさ。よかったなこれでやっと帰れるぞ」
「う、うん。まあ、帰れるのはよかったかな」
言葉とは裏腹にあまり嬉しそうではない気がする。そんな美玖の反応に疑問を覚えるが考える前に美玖が口を開く。
「ありがとね春人君。ずっと一緒にいてくれて」
「あの状況の美玖を放っておくなんてできないからな。だからこんなことになった原因の香奈には今度なにか奢ってもらうくらいしてもいいと思うぞ」
「ふふふ、そうだね。その時は春人君も呼ぶね」
「俺も?」
「そうだよ。春人君だって香奈の被害者みたいなものだからね」
あはは、と楽しそうに笑う美玖。先ほどまでの怖がっていた姿は今は面影もなく消えていた。春人も安心してほっとする。
(結構怖い思いさせちゃったからな。引きずってたらどうしようかと思ったけど心配なさそうだ)
美玖と話をしていると全員の確認が取れたのだろう会長が最後に今日のお礼と結果について話解散となった。結果についてはまた生徒会から全生徒に連絡を入れるらしい。
何はともあれ夏休み前の幽霊騒動はこれにて幕を閉じた。明日からはいよいよ夏休みの始まりである。




