39話 美玖の意外な一面が露呈する
時刻は夜の七時三十分。先ほどまで真っ赤に彩っていた空が黒いカーテンを閉め始めたころだ。
春人たちはグラウンドに集まっていた。この後の動きについて葵から説明がある。今はそのための待ち時間だ。
「結構いるんだな。生徒会室より多くないか?」
「一応あの場に来れない生徒もいたからね。そういう人たちには個別で連絡してるから。あとは補充要員が少し」
「補充?」
「うん。やっぱり広いからねうちの学校。あの後参加人数確認して足りない分を補充したの。ちゃんと人選もしてるよ」
心配ないぞと香奈は得意げに説明してくれる。
「なるほどな。確かに生徒会室に集まってた人数じゃ心許なかったからな」
「そういうこと。それにあたしが呼んだ助っ人ももうじき来ると思う」
「助っ人?誰呼んだんだ?」
「ふっふっふっ、春人も知ってる人だよ。知名度もあって今回の目的にもぴったり!」
楽しそうに勿体ぶる香奈。いったい誰を呼んだのか。頭に知人の顔を順番に思い浮かべているとグラウンドの端から小走りにこちらに近づいてくる人影が目に入った。
「おーい香奈ー」
夜の闇から抜け出てはっきりと輪郭を視認できるようになったところで春人は目を丸くする。
「え……美玖?なんで?」
「なんでってだからあたしが呼んだんだよ。今回の人選条件にぴったりでしょ?“学校一可愛い女の子”の言葉なら皆安心するって」
腕を組んだ香奈が満足気に頷く。確かに知名度では群を抜いているだろう。なにせ全校生徒ほぼすべてが知っているだろう美玖の存在だ。どっかの知らん奴らに言われるよりはよっぽど安心感はある。
「なるほどな。香奈にしては考えたな」
「でしょでしょー……あたしにしてはってどういうことかな?」
「それはそうと今回はちゃんと説明したのか?俺の時みたいにその場で知るとかほんと簡便だぞ」
「んー?したよ。学校の安全を守るために協力してって」
「それなんも説明になってねえじゃねえか」
春人は盛大にため息をつく。
(どうしてこんなのが生徒会役員なんだろう。というかこんな説明でよく来る気になったな美玖は)
美玖のお人よし加減に感心してしまう。
「美玖も最初は渋ってたけどねー。でも春人も来るって言ったらすぐ返事してくれたよ」
「は?俺?なんでまた」
「仲いいからね二人。よっぽど春人に会いたかったんじゃない?どうどう?今の気持ちは?」
「とりあえずお前のおふざけに巻き込まれた美玖が不憫だと思う」
「なんだと!至って真面目なんだけど!」
真面目ならなおのこと質が悪い。香奈と話している内に美玖も春人たちの元にたどり着いた。
「ごめんね。もしかして遅れちゃった?」
「ううん。そんなことないよー。ありがとね来てくれて」
「うん、なんかよくわからないけど学校のためだもんね。頑張るよ!」
両手で拳を握り胸元で気合を入れる。本当に健気である。
香奈と挨拶を交わすと今度は春人に視線を向ける。
「また会ったね春人君」
「ああ、思ったより早かったな」
教室で別れて夏休み中にどっかでまた会えるだろうかと考えてたがこんな早く再開するとは……。
「ふふふ、夜にこうして会うのって初めてだね。なんか変な気分」
「普段は昼間の学校でしか会わんからな。気持ちはわかるぞ」
「そっかー春人君も同じか。ふふふ」
なにかとても楽しそうな美玖からは嬉しさが溢れてきているみたいだ。ここに来てから笑顔が絶えない。
「それで香奈。これって今から何やるの?」
「そうだねーそろそろ教えてあげようか。そーれーはー――これから夜の学校に潜入し幽霊調査を行いまーす!」
一度溜めを作ってから香奈は両手を上げて盛大に発表する。美玖しかいないのにここまで張り切って発表しなくても。
春人は苦笑して大はしゃぎする香奈を眺める。子供のようにはしゃいでいる。ドッキリが成功した気分なのだろうか。
「まあ大まかにいえばそういうことだな。幽霊って言っても噂だし美玖も気楽に――」
いけばいい、と言おうとしたが春人は途中で言葉が止まる。目の前の美玖の豹変ぶりにどうしても止めざるを得なかった。
「幽霊……」
先ほどまでのにこにこと笑顔を振りまいていた姿が嘘のように今は顔面蒼白で血の気が引ている。
「え、ちょっと美玖?」
春人が呼びかけると美玖はビクッと大きく肩を跳ねさせる。
「な、なにかな春人君!」
「え、いや……ひょっとして幽霊苦手か?」
「ゆ、幽霊なんてにがっ、苦手じゃないよっ!そ、そんにゃのいるわけないしっ!」
唇を震わせながらたどたどしくも言葉を発する。思いっきり動揺している。こんな美玖は初めて見た。
春人が美玖の対応に困っていると香奈がゆらりと美玖の背後に回る。
「わっ!」
「きゃああああぁぁぁああっ!!!」
美玖は驚きのあまり飛び上がり膝をつくと春人の腰へと抱き着く。
「わっ、えっ!?なに!?なにぃ!?」
「あはは、美玖いいリアクションだね。これなら幽霊もびっくりするんじゃないかな」
「ちょっと香奈ぁっ!」
騒がしくなり始めた二人に周りも何事かと注目が集まる。注目が集まるだけならまだいい。まだいいのだが――。
「美玖せめて放してくれないか。これはちょっと……絵面が悪い」
春人の腰に正面から抱き着いてる美玖の顔はかなり危うい場所にあった。この状態で注目を集めるのはいろいろとまずい。
「……むり」
「は?ちょ、なんでだよ」
「…………腰抜けちゃった」
美玖の弱々しい声が耳に届く。それを聞いて春人も「あー……」と納得する。
とりあえず香奈と協力して美玖の身体を支える。震える美玖は今にでも泣き出しそうである。
「これは学校に入るのは無理じゃないか?終わるまで待っててもらったほうが――」
「こんな状態で一人にしないで!連れてって!」
「お、おう」
美玖の気迫に押され思わず頷いてしまう。
本当に大丈夫なのだろうか。始まる前から大分不安になってきていた。




