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37話 夏休み中って連絡しても大丈夫?

 ここ数日の生徒は皆浮かれていた。授業にも身が入らずどこか上の空な感じだ。それは春人も同じだった。先生が説明している物理の化学式を異国の言語に思いながら聞き流している。


 肘をつきただぼーっと黒板に視線を向ける。ノートは取っているがしっかり写せているかは疑問である。


 スピーカーからチャイムの音が響き授業の終わりを知らせる。すると今まで春人と同じように眠たげに目元をとろんっとさせていた生徒たちが次第に上体を起こす。もうそこに眠たげな表情は残っていない。


 先ほどと打って変わって皆、活力がみなぎっている。でも気持ちもわかるなぜなら――。


「流石明日から夏休みなだけあって皆元気だな」


 周囲の生徒達を眺めながら春人は苦笑する。それに美玖が相槌をうつ。


「そうだね。私も楽しみだし。春人君はそうでもない感じ?」


「そんなわけないだろ。これで朝早く起きる必要なくなるんだ。夏休み最高」


 そんな小さな幸せを語っていると担任の先生が教室へ入ってきた。


「おーおー皆元気だね。一旦席つけー」


 教壇に立つと一度教室内を見渡す。


「全員いるね。それじゃあ皆が待ちに待った夏休みが明日から始まるけど二、三点注意事項ね――」


 先生は夏休み中の注意と部活関係の連絡を始める。生徒達もこの時ばかりは大人しく話を聞いていた。


 一通りの説明が終わり先生は息をつく。


「以上かな。そんじゃあ皆、夏休み終わって元気な顔が見れるの願ってんよー。はい、終わりー」


 最後が何だか適当な感じになったがここは春人たちの担任らしく少なくない生徒から笑いが生まれた。

 生徒たちが席を立ち始めたので春人も荷物をまとめ始める。


「おっと、そうだった」


 教室を出て行こうとした先生が立ち止まりもう一度生徒達へ視線を向ける。


「百瀬ー、百瀬まだいる?」


「え?」


 いきなり名前を呼ばれ春人は小さく声を零す。


「えーと、はい、います」


「おーよかったよかった。百瀬悪いけどこの後生徒会室行ってくんない?」


「生徒会室に?」


 春人はきょとんと目を丸くする。生徒会室など春人には無縁なところだった。


「俺なにかしました?」


 真っ先に思い浮かんだのが何か問題でも起こしたかだった。だがそれは先生が笑ったことで杞憂だったと悟る。


「あははっ、なんでよ。だったら生徒会室じゃなくて職員室に呼ぶわ。そうじゃなくて生徒会長からのご指名」


「え……なんでまた」


 どんどん意味が分からなくなり春人は困惑していく。


「理由は会長に聞いてねー。すっぽかしたりしないようにそんじゃ元気でねー」


 手を振りながら先生は教室を出て行ってしまった。残された春人は呆然と今さっき先生が出て行った扉を眺める。


「なんで生徒会長が俺を……」


 考えてもわからないのでわかりそうなやつに聞いてみることにした。


「……あれ?美玖、香奈知らないか?」


「香奈ならさっき出てったよ」


 この状況を知ってそうな生徒会役員に聞いてみたかったが遅かったらしい。そもそもこのタイミングなら香奈も先生の話は聞こえていただろう。わざと出て行った可能性が脳裏に過る。


「あいつ絶対わざと急いで出て行ったな」


「まあ、香奈ならやりかねないけど。生徒会室行くの?」


「行かないって選択肢が残ってんならそうしたいけどな」


 残念ながらそんな選択肢はない。最初から一択だ。

 春人は、はーっとため息をつき席を立つ。


「先生の様子からしても怒られるとかではないだろうしちょっと行ってくるわ」


「うん、頑張ってね――あ、そうだ」


 見送りに手を振っていた美玖が思い出したように声を上げる。


「春人君夏休み中って連絡しても大丈夫?」


 少し躊躇いがちに聞いてくる美玖に春人は目を瞬かせる。


「え、別にいいけど……暇だし?」


 最後のは別に付け加えなくてもいい情報ではと少し後悔していたが美玖の笑顔でそんなことも吹っ飛ぶ。


「ほんとに?よかった!それじゃあまた連絡するね!」


「ああ、それじゃあまた」


 春人は軽く手を振ると教室から出て行く。


「また、か……」


 廊下に出たところでそう小さくこぼす。夏休み中にまたがあるのだと。


 美玖の思いがけない言葉に春人の頬が緩む。


 まさか美玖からそんなことを言ってくるとは思ってもみなかった。


「夏休み中も美玖と会うことがあるかもな」


 夏休みに入ってしまえばそんな機会はないと思っていた。連絡を取り合えば遊びの約束をすることもでてくるだろう。


「って何言ってんだ俺は」


 夏休みがより楽しみになっている自分に苦笑する。

 今はそれよりもやらなくてはいけないことがある。


「んー、仕方ない一丁行ってきますか」


 腕を上にあげ背筋を伸ばし気合を入れる。先ほどまでの不安は綺麗になくなっていた。単純な自分に春人は再び苦笑した。

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