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3話 国語のテストの作者の気持ちを答える系の問題って難しいよね

 昼休み。弁当も食べ終え喉を潤すために自販機に行こうと立ち上がると美玖から声を掛けられる。


「百瀬君どっか行くの?」


「ん?ああ、ちょっと自販機にな」


「なら私もー」


 そう言うと美玖も椅子から立ち上がり春人の隣に並ぶ。


「ちょうど喉渇いてたんだよねー。行こ百瀬君」


「わかったよ。じゃあ行くか」


 教室を出て廊下を歩く。美玖の歩幅は春人よりも小さいのでさり気なくそこは合わせる。


「百瀬君とこうして二人で歩くの初めてかも」


「そうか?移動教室の時とかよく並んで歩いてたと思うけど」


「その時は他にも人いたでしょ。二人って部分が大切なの」


 人差し指を立てながら、よくわからない持論を唱える美玖。その指が春人へと向けられる。


「ここで百瀬君に問題です」


「また急だな……どんな問題を出してくれるんだ?」


 ふふふ、と笑い美玖は楽し気に言葉を続ける。


「今の私の気持ちを答えてください」


「……いや、知らんし」


「えー、少しは考えてくれてもいいと思うけどな」


「俺、国語とかの作者の気持ちを答えなさいって問題苦手なんだよなー」


「あはは、なにそれ、でも私も苦手ー」


 声を出して笑う美玖に周りの生徒が視線を向ける。とても可愛らしい容姿の彼女が笑えばそれだけで周囲が輝く。散りばめられた星の中でも一際強い光を放つ美玖には自然と視線を持ってかれる。


(こうしてれば本当にただ可愛いだけだよな。……なんで毎回揶揄ってくるんだか)


 春人は内心で小さくため息を吐く。

 そんな春人の内心を美玖が知る由もなく――。


「それで?問題の答えは?」


 答えの催促をしに春人の顔を覗き込む。


「続いてたんだこれ」


「む、勝手に終わらせようたってそうはいかないから」


「別にそんなつもりはないって。まあ、うまい具合に忘れてくれないかなとは思ったけど」


「それはそのつもりがあったってことじゃないのかな?いいから、はい、答えをどうぞ」


 手でマイクを握るような形を作り春人へ向けてくる。


「………」


 答えと言われてもと春人は言葉に詰まる。


(桜井の今の気持ちなんて、俺を揶揄えて楽しいとかじゃないの?)


 安易にそう結論付ける。大方間違ってもないと思うが――。


(ただなー、たまには悔しがるところを見てみたい……)


 普段は春人が揶揄われてばかりなのだ。こんな時ぐらい美玖をぎゃふんと言わせたい。そう思うと次第に答えの正解について貪欲に考え始める。


(そもそもなんでこんな問題……なんかきっかけとかあったか……?)


 春人は少し前の美玖との会話を思い出す。思い出して一つ引っ掛かるフレーズがあった。


(二人ってところを強く意識してたな……ふっ、いや……)


 一つの可能性に行きついたが春人は苦笑しその考えを笑い飛ばす。


(いやいやいや、もし違ったら俺相当痛いやつだぞ。少なくとも三日は落ち込む自信があるわ)


 ありえないと首を振りかけたが春人は考えを改める。


(でも待てよ……そもそも俺が教室出るときにわざわざ付いてくるぐらいだし……あー!考えても仕方ない!)


 春人の答えは決まった。この際当たって砕けろと美玖へと顔を向ける。


「答えは……嬉しいだ」


「――っ」


 春人の答えに美玖は目を丸くする。一体その反応は何に対するものなのか、わからない春人は冷や汗を垂らしながら美玖の言葉を待つ。


「……へー、百瀬君は私が今嬉しいと感じてるって思ってるんだー、そうかそうか」


 にひひと楽しそうに笑う美玖を見て春人は恥ずかしく顔を逸らせた。


(くっそー!だからやだったんだこの答えは……あー、はず……)


 少し前の自分を恨み後悔していると美玖がそーと春人の耳元に顔を近づける。


「正解だよ百瀬君」


 耳元から聞こえる透き通るような声に春人は肩を跳ねさせ硬直する。


「っ!?は?正解って……は?」


 百瀬は動揺し半歩後ずさる。耳元には美玖の吐息の感触が残ったままだ。


「だーかーらー正解って言ってるの。私は今嬉しいのです」


「え?マジで?本当?」


「あはは、嘘だよー」


「嘘かよ!」


「ううん、それが嘘」


「は?え?……どっち?」


「ふふふ、どっちだろうねー百瀬君」


 少し腰を折り見上げるようにそう言うと美玖は振り返りさっさと先に歩いていく。呆然とその後ろ姿を眺めていたが春人は我に返ると急いで美玖を追いかける。


 美玖は春人から顔が見えなくなると小さく息を漏らす。


「あー、びっくりした……まさか本当に当てちゃうなんて……」


 頬を朱に染めた美玖が呟く。


 春人が追い付いたころには美玖の顔から赤みは消えていた。

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