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23話 想像しない?女子高生の水着姿

 七月の夏休みに入る少し手前……学生にとって避けては通れないイベントが発生する。


「お兄何してんのー?」


 リビングで机に向かってノートを開いている春人に琉莉がスイカバーアイスをかじりながら近寄ってくる。


「何って来週からテストだろ。その勉強だよ」


「あー、そう言えばそうだったね。もう来週か」


「お前呑気だな。勉強しなくていいのか?」


「私直前にならないと勉強いつもしないから。テストなんかよりも夏休みのことしか考えてないし」


「気が早えな」


「高校最初の夏休みだよ?そりゃあ気持ちも昂るよ」


 琉莉はにっと歯を見せ笑い、アイスを平らげ残った棒をゴミ箱へと放る。


「高校最初たって別に中学と変わらんだろ」


「はー、これだからお兄はダメなんだよ」


 何を言っているのかと琉莉はこれ見よがしに両手を広げため息をつく。いつものことだが隙さえあれば春人を煽りに来る。


「お兄さあ、夏と言えば何が思い浮かぶ?」


「はー?何だよいきなり」


「いいから質問に答えなさい」


 春人は眉根を寄せるが一応素直に琉莉の質問に答える。


「夏……海、プール、花火、祭り……とかか?」


 春人の回答に琉莉は満足気な表情を浮かべる。


「そうだよお兄!夏と言えば海やプールで女の子たちの水着姿を眺め、花火大会や夏祭りでは浴衣姿の女の子の普段とは違う少し大人びた可愛さを楽しむ!夏休み最高じゃないか!」


 熱弁する琉莉はえらく興奮しており鼻息が荒くなっている。最後にはふんっと鼻息を漏らし得意げに腰に手を当て胸を張っている。

 そんな女子高生が放った言葉とは思えない感想に春人は冷めた視線を送る。


「前々から思ってたけどお前の中身ってその辺のおっさんと変わんねえよな」


「はー?誰がおっさんだし。お兄セクハラで訴えるよ」


「いや、だって男子ならともかく、女子が女子の水着見てそんなに嬉しいのか?」


「嬉しいに決まってるでしょ。女の子は可愛いものが大好きなんだし」


 その女の子の可愛いと女子の水着の可愛いをイコールにしていいのか。明らかに琉莉の持論だろう。


「それにだったらやっぱり中学とやってること変わんないじゃねえか」


 別に中学だろうと今言ったことはできる。高校生になっても新鮮味なんてない。

 春人の言葉を聞き琉莉は心底がっかりしたと哀れみの目を向ける。


「お兄……女子高校生だよ?JKだよ?未熟ながらも程よく育った肉体を堪能できるのは高校生だけなんだよ!」


「……俺本気でお前のこと心配になってきた」


 現役の男子高校生の春人をもドン引きさせる琉莉の言葉に頭が痛くなる。本当に女子高生の皮をかぶったおっさんなのではないだろうか。そもそも妹からこんなこと聞きたくもなかった。


「お前大丈夫か?なんか一人でストレス抱えておかしくなったんじゃないか?」


「うっさい!本気で心配した目向けんな!私は正常だ!」


「いや、それはそれでどうなの?」


 こんなのが普通の女子高生なんていやだ。純粋無垢な男子の夢を壊さないでほしい。


「お兄だって想像するでしょ?美玖さんの水着姿」


「やめろお前。想像したことないけど意識しちまうだろうが」


「おーおー?どんな水着想像したんだー?ほとんど紐の際どいのかー?それとももう水着として機能してない穴開きの――イッタイィッ!?」


「お前いい加減にしろ。あほな妄想膨らませんな」


 春人は教科書の背で琉莉の脳天を叩く。これ以上はいろいろとまずい。妹の口から聞くような内容ではないし、一番は春人がそれを想像してしまうことだ。


「う~、それはダメなやつだよお兄~。痛いやつだよ~」


 涙目で頭を押さえながら訴えてくる。


「少しは反省したか?」


「暴力で従わせようなんて横暴すぎる。まさかお兄にこんな一面が――ごめんなさい。反省しました。なので教科書振り上げないで!」


 頭を押さえ小さくなる琉莉に春人はため息をつく。

 本当に反省してるのか怪しいが一応謝罪の言葉も聞いたところで春人は教科書を机に置く。


「まったく。どこで育て方間違えたのか」


「いかにも自分が育てたような言い草だね」


「同じ親から育てられたはずなになんでこうも……はー」


「おい、今のため息はなんだ?喧嘩売ってんならかう――ごめんなさい」


 春人が再び教科書を持ち上げると威勢の良かった口が閉じる。よっぽど痛かったんだろう。


「はー、もう俺勉強するから邪魔すんなよ」


「大体なんでこんなとこで勉強してんの。部屋でやればいいじゃん」


「気分転換だよ。さっきまでは部屋でやってた」


「そんなに変わるもの?同じ家の中じゃん」


「気分の問題だからな。同じ家でも場所が変われば勉強も捗ったりする」


 その証拠に春人自身琉莉に話しかけられる前は部屋にいたよりも集中して勉強ができていた。この辺はもう気持ちの問題だろう。思い込みだけでも人間普段のパフォーマンス以上の力を発揮できる。


「そんな違うもんかねー。まあ、私は勉強する気が起きないから関係ないけど」


「お前も少しくらい勉強しとけよ」


「折角の休みなのになんで家でまで勉強しないといけないの。私は家庭に仕事は持ち込まない主義」


 学生の仕事は勉強とは言うが琉莉が言うとただの言い訳にしか聞こえない。そのまま瑠璃はリビングを出ていき春人だけが残る。


「散々邪魔して出ていきやがったなあいつ」


 夏に対する自分の見解を述べるだけ述べた琉莉が出て行った扉に視線を向けながら目を細めため息をつく。


「夏休みねー……」


 夏休みなんて一日中家に籠って暇な毎日を送るだろうとしか思っていなかった。高校になってもそれは変わらないと。でも琉莉の言葉が頭の中で反響する。


「美玖の水着か……」


 琉莉に言われるまで考えもしなかった。夏休みになればそういう機会もある。一緒に海やプール、夏祭りだって……。


「って、いやいや何考えてんだ俺は」


 想像してしまった夏休みの過ごし方を頭から振り払う。あるかもしれない未来より今は目の前の問題だ。


「さっさと勉強しないとな」


 開いた教科書とノートに視線を落とし問題を解いていく。だが最初ほどの集中力が続かない。頭の中で余計な想像が膨らんでしまう。


「琉莉のやついなくなっても邪魔してくるとか質が悪すぎだろ……」


 結局春人はこの後勉強に集中することができずテスト勉強を早々に切り上げた。

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