21話 桜井美玖の独白①
体育館の外まで出ると私は壁へ背中を預けた。
「はー、流石に顔に出ちゃってたかなー。反省反省」
手で触っても熱が伝わる顔は赤くなっている気がする。こんな顔を見られていたかと思うと恥ずかしくなる。手で顔を仰ぎながら先ほどの失敗を反省する。
「流石にバレちゃったかな……でも春人君私とのこと覚えてないくらいだし、その辺鈍感かもなー」
昼に香奈と春人君と話していた時のことを思い出す。バレなくてよかったような悲しいような何て言えばいいのだろう。バレなかったことはよかったのだろうけどやっぱり本音で言えば気づいてほしかった。でもそれでは順番が違う。先に思い出してもらわないと意味がない。
私は空を見上げる。すうと吸い込まれそうな空に思わず過去のことを思い出してしまう。あの日も確かこれくらいいい天気だったかな……。
しばらく綺麗な空に夢中になってしまうけど私は首を振る。
と、現実逃避している場合じゃない。しっかりしなければ、私のことをちゃんと春人君に思い出してもらうまでボロは出せないのだから。
私は自分の頬を叩き気合を入れる。
「でもこれきついんだよねー。本音を隠すって結構大変」
気合を入れた途端に弱音を吐いてしまう自分に思わずため息が漏れてしまう。
ふとした瞬間に感情が漏れだすことがある。春人君の何気ない行動が私の心を乱してくる。わざとではないのだと思う。それは何となくわかるから。それでも、わかっていても私はその時ばかりは春人君に苛立ちを覚えてしまう。
春人君はずるい。私の気も知らないでいつも平然として。だからつい私と同じ気持ちになってほしくて嘘までついて春人君を困らせてしまう。
「本当に面倒な性格してるね私」
またため息が漏れる。
素直になれたらどんなに楽なのだろう。私から言えたらたぶんそれが一番早い。
でもそれじゃあダメだってわかってる。ちゃんと約束を守らないと。
そのために今までいろいろと春人君にアピールしてたのだから、春人君が私のことに自分から思い出してくれないと意味がないのだから。
私は胸の間で両手で拳を作って気持ちを切り替え先ほどの試合を思い出す。
「はー、さっきの春人君かっこよかったなー。加賀美先輩相手に勝っちゃうなんて」
今でも鮮明に思い出せてしまう。加賀美先輩を抜き去りゴールを決める春人君の姿が。
その時の顔がすごく子供っぽくて私はなんだかつい視線が放せなかった。
ずっと見ていたくなる愛おしさが胸からあふれ出す。
「……もー、春人君早く思い出してよ……」
思えば思うほど春人君のことでいっぱいになる。私は座り込み両手に顔を埋めると「う~」と声を漏らす。この気持ちに気づかれないためにも私は嘘を貫かないといけないんだ。この嘘は絶対にバレちゃいけない。