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18話 熱血タイプってなんで声がでかいのだろうか

 本日のすべての授業にホームルームも終わったところで春人は帰る支度を始める。教科書類を鞄に詰め込んで席を立ったところで教室の扉が勢いよく開かれた。


「百瀬っ!百瀬はいるかっ!」


 突然教室に大声量の声が響き教室に残っていた生徒が視線を向ける。

 春人も声の方へ顔を向けると苦虫を噛み締めたように顔を顰める。


「加賀美先輩……」


「おー百瀬、どうだ調子の方は」


「え、まあ、ぼちぼちです」


「そうかそうか!それは結構!はははっ!」


 このいきなりやってきた声のデカい先輩は加賀美宏大。バスケ部の二年生で部長にして部のエースだ。バスケをやっているだけあってがたいも良く、身長も百九十近くある。そんな人がなぜ春人を訪ねてきたかというと――。


「百瀬よ、入部の件は考えてくれたか?」


 宏大の真っ直ぐな瞳が春人を捉える。


「あーやっぱりその話ですか」


「そうだ、是非とも百瀬にはバスケ部へ入部してもらいたいからな」


 宏大が教室を訪れたのは今日だけではない。入学してから週一ほどのペースで勧誘に来るのだ。


「気持ちはありがいのですがやっぱり俺はちょっと……」


「うむ。そんなにバスケは嫌か?」


「嫌ではないですよ。ただ俺がスポーツ全般あまり好きじゃないだけで」


「何とも勿体ないな。百瀬ならすぐにレギュラー入りも目指せるというのに」


 両手を組み考えるように唸る宏大。毎回こんな調子で熱く勧誘してくるので最初の頃はクラスでだいぶ目立っていたが週一ペースで発生するイベントにクラスの生徒も慣れてきていた。皆、またか、といった様子であまり気にしてはいない。


「いい加減百瀬も迷惑だろうし俺もそろそろ区切りをつけねばならんだろうか……」


 腕を組み難し気に眉間に皴を寄せる宏大。一応迷惑だとは思ってくれていたらしく春人もほっとする。これで話が終わってくれればと考えていると――。


「そうだ百瀬、俺と勝負をしよう」


「勝負ですか?」


 宏大の急な申し出に春人は目を丸くする。


「おう、1on1はわかるか?それで俺と勝負して勝ったら入部、俺が負ければきっぱり諦めよう。どうだ?」


「どうだって……」


 春人は呆然と宏大を見上げる。


(いや無理だろバスケで勝負とか)


 春人は内心で文句を口にしていた。


(加賀美先輩って確かバスケ部のエースだろ……俺初心者なんだが)


 どう考えても勝負にならない。一方的な試合展開が予想できた。


 おずおずと春人は口を開く。


「あの加賀美先輩?流石に俺に勝ち目はないと思うんですが」


「おう、だからハンデとして俺が十点入れれば勝ちのところを百瀬は一点でいい」


「一点でいいんですか?」


「ああ、これなら多少は公平性が保てるんじゃないか?」


 宏大の提案を聞いても春人は難しい顔を作る。


(一点だけだとしてもどうなんだ?正直一点すら取れる気がしないけど)


 現役のバスケ部、しかも宏大相手には難しいと春人でもわかっていた。

 気づけば春人たちの会話に興味を持ったクラスメイトたちが二人のやり取りを気にしだしていた。


「この条件でどうだろうか?」


「いや、加賀美先輩から一点取るなんてとてもじゃないですが無理じゃないですか?」


「はははっ!百瀬お前冗談も言えたのか、余計気に入ったぞっ」


(冗談じゃねえっ!なに笑っとんじゃっ!)


 豪快に笑う宏大へ春人は内心で声を荒げる。どこまで本気なのか春人は判断に困る。


 そんな春人の内心を知ってか知らずか、宏大は先ほどまでの笑みを消して真剣な面持ちで春人へ向き合う。


「頼む百瀬!この通りだ!」


 返事に困っていると宏大は頭を下げだした。これには春人含めクラスメイトも驚愕する。


「え、ちょっ、顔上げてくださいよ、別にそこまでしてもらわなくても」


「いや、無理にお願いをしているんだ、これくらい当然だ」


 宏大は曲がったことが大っ嫌いな性格だ。自分が春人にしつこく勧誘していることも理解はできているのだろう。それでも春人を部に入れたいのだ。


 そして、ここまでされてしまっては春人も無碍にはできなくなる。


「……わかりました。一回だけですよ」


 結局春人が折れる形になってしまった。


「おお!本当か百瀬!」


 春人の返事を聞き今日一番の声量で声を上げ、教室どころか廊下にまで響き渡る。あまりの声のデカさに耳が痛くなり顔を顰める。


「それでいつにしますか?あまり部員の方たちの練習を邪魔したくないのですが」


「心配するな。今日は顧問の鈴木先生が不在でな、練習は休みになっている。今からできるぞ」


 何とも気持ちのいいさわやかな笑顔を向けてくる。口から覗く白い歯がきらっと光っている。

 そういうことなら話も早いと春人は宏大を廊下へ促す。


「なら行きましょうか先輩」


「おう!楽しみだな百瀬!」


 別に楽しみではなかった。試合前から無駄に疲れた身体に鞭打って春人は廊下へ進む。

 教室からは今のやり取りで一部の生徒が盛り上がっていた。


「加賀美先輩と百瀬の試合とかすげえ気になるんだけど誰か見に行こうぜ」


「俺行くは親友の勇姿しっかり見ててやらんとな」


「谷川本心は?」


「こんな面白そうなイベント見逃せねえだろ!」


 勝手に盛り上がるクラスメイトを春人は肩越しに睨みつける。


(あいつら好き勝手に盛り上がりやがって)


 そんな中、香奈が美玖の方へ駆け寄る。


「ねえ美玖行こうよ面白そう」


「え、ちょっと香奈!手引っ張らないで!」


 半ば強引に香奈に引かれながら美玖も廊下へと出た。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 最新の話まで読みました。シロップ頭に注入される感じの脳みそ溶けるラブコメがweb小説で一番好物なのでありがとうございます。 [一言] 内容が甘い作品はたくさんありますけど、主人公とヒロイ…
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