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162話 無理なもんは無理だ

 続いて三回戦目。今回王様になったのは――。


「お、俺だ」


 春人は引いた棒を皆に自慢気に見せる。やっと自分の番が回ってきたと春人は少しテンションが上がる。


「なんだ兄さんか……にゃ~」


「なんだとはなんだよ」


「一体私たち女の子にどんな命令出すつもりなんだろうね。まあ、王様の命令は絶対だから逆らえないんだけど……にゃ~」


「お前俺がどんな命令出すと思ってんだよ」


 全く心外である。春人のような紳士が女の子が嫌がるような命令を出すとでも思っているのか。


「だが春人。琉莉の言う通り王様の命令は絶対なんだ気にせず命令するといい」


「いや……会長、俺がどんな命令を出すと思ってるんですか」


「流石にどんな命令を出すかはわからんが少し興味はあるな。この中で唯一の男子の命令だ。一体どんなものが飛び出すか気にならないという方が嘘だろう」


 恐らく本気で言っているのだろう。葵は春人の命令にえらく興味を惹かれているらしい。


「やーい春人、どんな命令をするつもりだー」


「うるせえ。茶々入れんな」


 女子五人に男子一人ではこういう時に何かと揶揄われる。立場的にとても弱いのだ。


「まあ、ヘタレな兄さんのことだからそんな大層な命令はできないだろうけど……にゃ~」


「お前はさっきから……」


 まったく口の減らない妹だ。それににゃ~にゃ~うるさい。

 春人は命令を決めた。その顔は不敵に口角が上がっている。


「決まったぞ。俺の命令」


「ん、一体どんな命令が飛び出すんだか……にゃ~」


「ふっ、それはそうと――琉莉、棒を引く時は気を付けた方がいいぞ?」


「え」


「二番を引いた人。腹筋十回」


 春人が命令を口にする。

 命令を聞いた途端皆、え、それだけ?と拍子抜けしたようにぽかんと口を開けていたが――。


 それとほぼ同時に琉莉が絶望感溢れる表情を作って握った棒をテーブルに落とす。その番号は二番だった。


「ちょ、おに……兄さん私の番号見たね?」


「見たんじゃなくて見えたんだよ」


「こんなのずるい」


「ずるくないだろ。それと語尾、忘れてるぞ」


「うっ……にゃ~」


 素直に語尾に“にゃ~”とつける。この辺は律儀である。


「琉莉ちゃんどうしてそんな嫌そうな顔してるの?」


「そ、れは……」


「こいつ腹筋できないんだよ。筋力よわよわだから」


「兄さんうるさい」


 琉莉が皆の手前控えめに春人を睨む。


「なるほどな。琉莉にとっては想像以上に辛い命令ということか」


「腹筋十回なら私もできるよぉ。琉莉ちゃん大丈夫だよぉ」


 ナチュラルに煽ってくるくるみに琉莉は頬をピクピクと痙攣させる。

 そんな琉莉の反応も面白く春人は口角を上げて再び命令を口にする。


「さあ、腹筋十回。やってもらおうか琉莉」


「くっ、兄さんのくせに……」


「語尾」


「……にゃ~」


 屈辱に奥歯を噛みしめる琉莉は絨毯の上に仰向けに寝転がると皆に見守られながら腹筋を始めた。


「い、ち……に、い…………さ、あ、んーーーっ……」


 三回目。琉莉の上半身が持ち上がらず絨毯に背中が戻る。


「うそ……三回いってないよ」


 香奈が驚いたように目を丸くしている。皆も似たような反応だ。まさかこれほどまでとは思っていなかっただろう。


「どうした?ギブしてもいいんだぞ」


「あまり、調子に、乗るなっ」


 琉莉は気合で上半身を起こした。

 その気迫に「おぉー」と皆から声が漏れる。

 それでももう限界だろう。「はぁ、はぁ……」と肩で息をしている。


「はる君、もういいんじゃないかな?」


 流石に可哀そうに思ったのか美玖が不安そうにしている。眉尻を下げ縋るように春人を見上げる美玖に春人の良心が痛む。


「まあ、そうだな。この辺にしておくか」


 春人も無理にやらせるつもりはなかった。元々腹筋十回なんて琉莉には絶対できないのだ。見計らって最初から止めさせるつもりだった。


「ほら、もう限界だろ。いいから止めていいぞ」


 ここが止めどきだろうと春人が声をかけるが……。


「まだ……まだ私はやれる……」


 なにやら漫画のキャラが言いそうなセリフを言い始めた。鬼気迫るようなその表情はさながら強敵に挑む主人公だろうか。


(え、なにかっこい、俺も言ってみてえ……ではなく)


 一瞬中二心を揺さぶられたがすぐに平静を取り戻す。


「いや……無理だろ。お前腹筋五回もできたことないのに」


「それでも……や、れるぅぅぅーーー……」


 上半身を起こそうと力を入れる琉莉だが半ばほどまで上げてその後が動かない。しばらく硬直状態が続きばたんっと絨毯に背中をついた。


 無表情で天井を凝視する琉莉。一体何を考えているのか。琉莉の次の行動に固唾を飲んで皆が見守る中ゆっくりと琉莉の口が開く。


「うん。無理だ。ギブ」


 呆気なくギブアップ宣言したことで場の空気が弛緩する。


「おい、なんだよ。なんか何が何でもやってやる的な空気出しといて」


「やってやろうと思ったけど無理なものは無理だった。人生諦めも肝心」


 何か悟ったように清々しい表情を作っている。腹筋三回しかできなかったくせに。


「できないことわかってたくせにこんな命令出すなんて本当にひどい兄さんだよ」


「散々煽っといて被害者面すんな。あと……語尾」


「……にゃ~」

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