158話 小悪魔琉莉
「こういったパーティー初めてだからわからんのだけど――」
テーブルの準備が終わると春人は疑問を口にする。
「仮装ってどのタイミングでするんだ?」
「さぁー?」
周りを見渡していると香奈と視線が合い両手を顔の横まで上げて首を傾げる。
「さぁーって、知らんのか」
「知らないよ。ハロウィンパーティーなんてあたしも初めてだし」
てっきり毎年やってるものだと思っていた。香奈の言葉に驚きつつ春人は美玖にも視線を向ける。
「私も初めてだよ」
「因みに私もやったことないな」
「私もぉ」
春人が聞く前に葵たちも答えていく。
「皆初めてなんですね」
「だねぇ。香奈ちゃんは知ってると思ったけどぉ」
「え、なんでです?」
「香奈ちゃんから誘われたからぁ。知ってるかなって」
「すみません。あたしも面白そうだからって言い出しただけなので」
やはりハロウィンパーティーなんてそうやることではないらしい。全員同じなのだと春人は少し安心する。
「ねえ兄さん」
琉莉が近寄ってきて春人を見上げる。
「ん、どうした?」
「なんで私には聞かないの?」
「なにが?」
「パーティーやったことあるかどうか」
「お前なんてやったことないだろ」
「どうして言い切れるの」
「お前がそういうことやるなら真っ先に仮装の衣装見せてきそうだしな」
「………」
「なんで黙るんだよ」
「その通りでなんかムカつく」
自分のことをしっかり理解していた春人に照れ隠しのような言葉を吐く。顔を逸らせる琉莉に春人は苦笑する。
「ならもう着替えちゃいましょうよ。その方が気分出ますし」
「そうだな。折角なんだハロウィン気分を楽しもうじゃないか」
香奈の言葉に葵が賛同する。もちろん反論するような者もおらずそれぞれ準備を始める。
「数人で別れようか。私とくるみで私の部屋に。脱衣所に春人。客間で香奈たちでいいか?」
「はい、問題ないです」
「あたしたちもいいよね?」
香奈が美玖たちの顔を見て確認すると二人とも頷いて同意を示す。
「よし、なら案内するよ」
葵に案内されそれぞれ着替え始める。
脱衣所に入った春人は鞄を漁り衣装を取り出した。
「まあ、俺はそんな着替えるようなものないんだけどな」
春人が取り出したのは黒いマントに首周りの飾り、ジャボと言うらしい。
これらを付けるだけなので着替えなんてものの数分で終わる。
着替えが終わると春人は脱衣所から出てリビングに戻る。リビングにはまだ誰もいなかった。
「やっぱり俺が最初か」
着替えが終わった人からリビングに戻ってくると事前に決めていたが他はまだ着替えている途中らしい。
皆が一体どんな仮装をしてくるのか楽しみではある。そわそわと落ち着かないが葵の家なのであまりじろじろと周りを見るのも気が引ける。挙動不審な行動をしながら待っているとリビングの扉が開いた。
一体誰が入ってきたのか。胸躍らせて春人が視線を向けると――。
「お待たせお兄!」
テンション高く少しドヤ顔の琉莉が入ってきた。
一瞬にして現実に戻される。
「なんだ琉莉か」
春人は見るからに残念そうな反応を返す。
期待していた分反動が大きい。ため息まで出てきたところで琉莉が不満げに顔を顰める。
「おい。なんだその反応は」
「最初に見るのがお前の仮装か……はぁー」
「なんて失礼なお兄なんだ。まったく……というかさ。何か言うことないの?」
琉莉は顰めた顔をそのままに春人に問いかける。
「ん?」
「ほら、これ。折角コスプレしてんだからなんか言ってよ。ほら」
自分の格好を見せびらかすように両手を腰に添える。
琉莉の仮装は頭に角、背中にコウモリのような翼を生やしており、特徴的なのは先端が三角形の尻尾だろうか。
これで琉莉の仮装が何なのか春人は理解する。
「どうよ」
「ああ、似合ってるよ。ばい菌の仮装――っぶね!」
「誰がばい菌のコスプレなんかするか誰が」
琉莉が眉根を寄せながら着替えが入った鞄を投げつける。ギリギリのところで鞄を受け止めた春人は焦りのために少し息を乱す。
「お前ここ会長の家なんだからあまり無茶なことすんな」
「うっ、それは確かにそうだけど……でも今のはお兄が悪い。人のコスプレをばい菌とか」
「あー、俺も悪かったよ。似合ってるよ悪魔かそれ?」
「そう。悪魔。小悪魔。私にぴったり」
「ふっ、ぴったりって……ふ」
「おい、二回も鼻で笑ったな」
得意げに言うものだからつい春人も反応してしまう。
「そういうお兄は吸血鬼ってなんの捻りもないね」
「お前だって似たようなもんだろ。つうかこんなちょっとの仮装でよくわかったな」
「吸血鬼なんて定番だしね。マント付けてれば大体そうでしょ」
確かにマントを羽織った仮装でハロウィンなんて大体吸血鬼だろう。だからこそ春人も思いついたのだが。
「ハロウィンらしくていいと思ったんだけどな」
「別に悪いなんて言ってないし。お兄らしいつまらないもん選んできたなって」
「お前バカにしてんだろそれ」
兄妹二人でバカみたいに騒いでいると廊下の方からカサカサと布が擦れるような音が聞こえ始め再び扉が開く。
また誰かが入ってきたらしい。はたして誰が入ってきたのか――。
「お待たせはる君!」
勢いよく元気いっぱいの美玖がリビングに入ってきた。
「……っ」
その姿に春人は言葉を失い息を呑む。




