153話 谷川を元気にする会
放課後。春人は小宮に誘われラウンドワンに遊びに来ていた。最近は学校行事が続いていたのでこうして誰かと遊ぶのは久しぶりだ。
料金を支払い店内へと進んでいく。
「俺スポッチャ久しぶりに来るわ」
「俺はぼちぼち来てるかな。休日の部活の後とかに」
「部活の後にスポッチャとかどんな体力してんだよ」
「むしろ部活の後だからこそ好きに身体動かせて楽しいけどな」
「マジかよ。運動部すげえな……それで――」
春人は感心するような少し呆れるような表情を作ると今度は一変して何かを訝しむ様子を作り視線だけ右に動かす。
「こいつはいつまでこんななんだ?」
「谷川には刺激が強すぎたみたいだからしょうがないだろ。半分は百瀬のせいだしな」
小宮も春人に続き視線を動かす。二人の視線の先には生気が抜け落ちたような顔色の悪い谷川がいた。
「もう一週間くらい経つぞ。俺のせいってのは一応認めるけど引きずりすぎだろ」
「谷川は元々女子への免疫もないからな。桜井さん目に見えて変わったし。もちろんいい方にな。しかもそれが春人だけに向けられるとな。俺でもちょっとはやきもきするわ」
「まあ、わからんでもないんだよな」
「そういうことで今日は付き合えよ。谷川を元気にする会に」
小宮は、あははっと笑いながら口にする。
今回三人でこんなところに来たのは腑抜けている谷川に元に戻ってもらうためだ。
身体を動かせば多少は気が晴れるだろう、と小宮が言い出したのがきっかけである。ただ、半分原因である春人がこの場にいてはたして気が紛れるかは疑問だが……。
「そんじゃまずはどうするかなぁ……お、あれやろうぜ」
「ん、バスケか。じゃあやるか」
「よし、ほれ!谷川も行くぞ!」
「ぉぅ……」
小宮に引っ張られる形で谷川も歩き出す。本当にこんなことで元気を取り戻すのだろうか。
バスケットゴールの下。春人はボールを適当に手で弄ぶ。
「それで?まあ、この人数じゃあ1on1くらいしかできんけど」
「ああ、谷川もいいか?」
「ぉぅ……」
「んじゃまずは小宮と谷川行ってみっか」
春人は小宮にボールを投げ渡す。小宮も危なげなくそれを受け取る。
「オッケー、じゃあやるぞ谷川」
「ぉぅ……」
小宮が持ったボールを谷川に渡し、再び小宮に返したところで試合が始まる。
「……っし!」
受け取ったボールを地面に弾ませたと同時に小宮は足に力を入れ走り出す。谷川も腑抜けた様子だが小宮の動きはしっかり見えているらしい。
といっても普段の調子が全く出ていない谷川では小宮を止めることもできず、あっさり抜かれてゴールを決められる。
「おーい、谷川そんなんで勝てると思うなよ」
「………」
谷川の目に少しだが生気が戻った気がする。
「お」
春人は思わず声を漏らす。
多少は悔しさでも感じてくれたのだろうか。本当にこんなことで元気を取り戻すとは……。
このままいつも通りの谷川に戻ってくれればと思ったが……そううまくはいかないらしい。多少は元気が戻ったように見えるがそれでも本調子とはいかないだろう。途中で小宮と春人が交代してもこれといった変化は見られなかった。
「う~ん、なかなか強敵だな」
「途中結構いいんじゃねって思ったけど思うようにいかんな」
春人たちは一度休憩しベンチに腰を下ろしていた。小宮と話してる間も谷川はベンチに身体を預けてだらーっと脱力している。
「身体を動かせばと思ったけど流石に安直だったかねー」
「まあ、まだ始まったばかりだしな。他にもいろいろやってみようぜ」
まだバスケしかやっていないのだ。諦めるには流石に早いだろう。
小宮も「そうだな」と声に出し勢いをつけてベンチから立ち上がる。
「休憩終わり!ほら、次行くぞ!」
谷川とは対照的に元気な小宮が歩き出す。
「だな、行こうぜ谷川」
「ぉぅ……」
ふらふらと谷川もついてくる。
一体この抜け殻のような人間をどうすれば元気にできるのか。春人も次の種目に移動しながら頭を悩ませた。




