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148話 真剣な話

 二時限目が終わったタイミングでスマホが震えた。春人は何気なく画面を確認しメッセージが届いたこととその差出人に訝しむ。


(香奈から?)


 視線をスマホから外し教室中を見渡す。だが香奈の姿は見つけれなかった。

 もう一度スマホに視線を戻してメッセージの内容を確認すると――。


『ちょっと廊下に出てきてくれる?』


 なぜわざわざ声をかけずにスマホで連絡してきたのか。考えられる可能性としては周りにバレたくないとかだが……。

 考えても答えが出るわけもなく、特に断る理由もなかったので春人は席を立つ。


「はる君どっか行くの?」


「あー……ちょっとトイレ」


 春人がいきなりどこかに行こうとすれば当然美玖が反応する。少しぎこちなくなりながらも返答する。


「あ、そか……ごめん」


 変なことを聞いてしまったと美玖は申し訳なさそうに謝罪する。


(いや、俺こそごめん)


 トイレに行くのは嘘なのでこちらこそ申し訳ない。


 春人が教室から出ると壁に背中を預ける香奈がいた。


「やっほ、春人」


「おう、それでどうしたんだ?」


「ここじゃなんだしちょっと移動しようか」


 香奈は春人の返事を待たずに歩き出した。少しらしくないとも思う。何か急いでいるような切羽詰まったような様子だ。


 ちらっと春人は教室の中に視線を向ける。先ほどと同様に美玖の周りに生徒が集まり始めていた。

 このままでは春人も掴まってしまうと急いで香奈の後を追おう。


 香奈が来たのは以前琉莉と来た屋上に続く階段だ。


(ここって結構人使うのかな)


 もしそうなら今後は少し注意を払う必要があるかもしれない。

 そんな呑気なことを考えていると香奈が口を開いた。


「――春人って」


 階段を上り切った香奈が振り返る。春人としては見上げる形になる。

 神妙な顔をしていた。普段の香奈とは雰囲気が違う。一目でそう感じた春人も少し真剣な表情を作る。


「美玖と付き合ってるってことでいいの?」


 興味本位で、ということではないのだろう。質問前に見せた香奈の表情はそんな俗物なものではない。だから春人もここは嘘偽りのない言葉を返す。


「付き合ってないぞ」


「嘘じゃない?」


「嘘じゃない」


「そうか」


 一度疑うように確認したが春人が否定するとすぐに信用する。元々最初から疑ってはなかったのだろう。


「じゃあ美玖の気持ち……春人気づいてないわけないよね」


「……そうだな」


 香奈はしばらく考え込む。だが考えがまとまったのかすぐに口を開く。


「この先……別に話したくなかったら話さなくていいんだけど」


「いや、答えるよ。何が聞きたいんだ」


 即答する春人に香奈は目を丸くする。


「いいんだ。一応逃げ道をと思ったんだけど」


「普段の香奈だったら、まあ……そうだな適当にあしらうところだったけど、そういう感じでもないだろ」


「……そうだね。うん、結構真剣」


「ああ、なら俺も真剣に返すよ」


 香奈がこのタイミングで真剣になるということは十中八九美玖のことだろう。香奈が美玖のことを大切にしているのは普段からも見ててわかるし、前に美玖自身も言っていた。


 香奈は一度気持ちを落ち着かせるように。静かに目を瞑ると大きく吸い込んだ空気をふぅっと吐き出す。そして真っ直ぐな視線を春人へ向ける。


「そう……じゃあ質問に戻るけど、春人は美玖から聞いたの?……美玖の気持ち」


「聞いたよ」


「それでも付き合ってないってことは振ったんだ」


「それは……少し違うかな」


「どういうこと?」


「保留……ってことでいいのかな」


「保留って――」


 少し香奈の言葉に棘が混じる。


「それは美玖の気持ちを軽視してるとかそういうこと?」


「違うっ」


 自分でもびっくりするくらい声に力が入っていた。香奈も怯えるとかではないが少し動揺するような表情を作る。


「あー、すまん。少しむきになった」


「……ううん、あたしこそごめん。変なこと聞いて。保留……美玖も納得してるの?」


「あぁ」


「……そう」


 香奈は春人から視線を上げる。何を考えているのか、しばらくそうして虚空を見つめていると――。


「――わかった。ありがとう春人。あとごめん、いろいろと聞きだしたりして」


 自分の中で整理ができたのか謝罪と共に春人へ上げていた視線を戻す。


「俺も了承してのことだし気にしなくていいぞ。それに美玖を思ってのことだろ。それなら何でも協力する」


 美玖のために動いてくれていたのだから春人が香奈を責めるようなことはない。

 春人の言葉に香奈は驚いたように目を丸くした。


「美玖のこと大切に思ってくれてるんだね」


「そんなの当たり前だろ」


「あはは、なんの迷いもなく言うんだ……そうだね。うん、そうだ」


 香奈は階段を降りてくる。春人とすれ違い最後の段も降り切ると振り返る。


「戻るよ春人。早くしないと美玖に嫉妬されちゃいそうだし」


 いつもの天真爛漫な香奈がそこにいた。


 春人も「わかったよ」と香奈に続く。


「それでそれで。二人の馴れ初めってどんななの?」


「急に踏み込んできたな」


「だって気になるでしょ?」


「なんか前ファミレスで面白がるのよくないみたいなこと言ってなかった?」


「当事者二人の前で告白まがいなこと聞くなってやつでしょ?今春人しかいないし」


「結構適当だな」


「まあまあいいから、それで?」


「ノーコメント」


 わーわー騒ぎ始める香奈を春人が適当にあしらう。

 いつも通りの日常だ。今日初めて感じる“いつも通り”に春人は内心でほっとしていた。

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