表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
141/165

141話 やっぱり定番は外さない

「わあぁ、すっごい!」


 美玖は目を輝かせる。周囲をガラスに囲まれた空間の外には色とりどりの魚が優雅に泳いでいた。


「気に入ってくれたみたいでよかったよ」


 春人は心の中で安堵する。もし反応が悪かったらどうしようかと気が気でなかったのだ。


 春人がデートの場所に選んだのは水族館だ。あまりにも定番過ぎてどうなのかとも思ったが、やはり定番になるだけのことはある。


 美玖ははしゃぎながらいろいろな水槽を食い入るように覗き込む。まるで小さな子供のようなはしゃぎように春人は思わず笑みがこぼれた。


 しばらく夢中になっていた美玖もその笑みに気づいたのか、はっと目と口を丸く開き、「あはは」と恥ずかしそうに笑う。


「ごめん、ちょっとはしゃぎすぎちゃった」


「謝らなくていいぞ。楽しそうな美玖が見れて俺は嬉しいし」


「むぅ、すぐそういうこと言う」


 今度はフグみたいに頬を膨らまして拗ねた様子を見せるので、愛らしく春人は余計に笑顔を濃いものにした。


「もおー笑わないでよ!」


 照れ隠しなのだろう。流石に春人でもわかるくらいに美玖の反応はわかりやすかった。

 ぽかぽかと春人の胸辺りを叩いてくる。


「まあまあ、そう怒んなって。美玖って水族館好きだったのか?」


 このままだと永遠にいちゃつくカップルみたいなやり取りをしそうなので春人は話題を変えていく。

 美玖は「もう」っと溢すと春人に叩きつけていた腕をすっと引っ込める。


「私こういうキラキラしたの好きなんだよね。なんか幻想的で」


「あー、光を反射する水面とかきれいだよな。それはわかるかも」


「だよね」


 そういうと美玖はまた違う水槽の方へと吸い込まれていく。よっぽど好きなのだろう。

 その横顔はいつも以上に活き活きとしていた。


「ほら、はる君も一緒に見ようよ」


「ああ」


 手招きしてくる美玖に近づく。一緒になって水槽の中を覗き込む。

 中には薄暗い青色のライトに照らされたクラゲがぷかぷかと浮かんでいた。


「クラゲってこう見ると綺麗だよな。海で見ると逃げたくなるけど」


「それは刺されるからそうでしょ。私だって海で見るのは嫌だし」


「それがここで見ると綺麗に見えるんだから不思議だ」


「そうなんだけど……なんかはる君の感想ちょっと変」


「変って失礼な。素直な感想だぞ」


 なんてこともない会話が交わされるが不思議とつまらないと思うことは無かった。


 ありきたりで中身がなくても楽しいと思えてしまう。おそらく美玖だからなのだろうと考えるまでもないことを思う。

 春人の隣でにこにこ笑っている少女のおかげなのだろう。


 水槽ではなく美玖の横顔に自然と視線が吸い寄せられる。


 ころころ変わるその表情に年相応の幼さが見え隠れしている。


 ふとこちらを見た美玖と目が合う。


「ん?どうしたのはる君」


「え、いや、何でもないぞ」


「?そうなの?」


 春人は誤魔化したともいえるかわからないが、さっと水槽に視線を戻した。

 美玖も不思議そうにはしているが気にせず同じ水槽を覗く。


(なんか今日やばいぞ……あほほど意識してるわ俺)


 水族館の空気がそうさせるのか、美玖と二人っきりのこの空気がそうさせるのか。


(あ、小魚の群れだ)


 春人は水槽の中の小魚を意味もなく数えて心を落ち着かせようと努力していた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ