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14話 女子との連絡のやり取りに緊張しないことがあるか

 春人は晩御飯とお風呂も済ませて自室でベッドに横になっていた。


「強烈な一日だったな……」


 今日一日の出来事を思い出す。体育の授業で美玖とペアを組み、放課後は一緒にパンケーキを食べて、帰ってきたら妹に殺されかける。今までと考えればあまりにも現実離れした出来事のオンパレードで夢と言われた方が信じるくらいだ。それでも夢じゃないと思える理由が――。


「入ってるな連絡先」


 春人はスマホのアプリの中に入っている美玖の名前を見る。この事実が春人を夢と疑う気持ちを払拭する。


「教えてもらったはいいけどどんなタイミングで連絡って取り合うんだ……」


 純粋な疑問が春人の頭を駆け巡る。女子との連絡の取り合いなど琉莉くらいしか最近はしていない。そもそも琉莉を異性の一人としてカウントしていいのかも疑問なところだ。


 しばらくスマホの画面を凝視して春人は息を吐く。


「まあ、別にすぐに何かあるわけでもなし……とりあえず――わあっ!?」


 スマホから目を離した瞬間、振動して通知を知らせた。


「わー、びっくりした……一体なんだ、よ……」


 スマホの画面を見て目を丸くし固まる。何せ、その通知の相手は――。


「桜井美玖……美玖、だよな?」


 画面の名前を確認しても信じ切ることができなかった。まさか自分が今考えていた相手からタイミングよく連絡が来るなんて……。


 しばらくスマホの画面の見たまま硬直していたが、はっと我に返る。


「いかんいかん!とりあえず確認しないと」


 スマホを操作しアプリを起動する。春人は食い入るように画面を見ていた。そして美玖のアイコンをタップし――。


『こんばんは春人君。今大丈夫かな?』


「大丈夫……うん大丈夫だけど……一体なんだ?」


 春人は首を傾げ、文章へ繰り返し目を向ける。なぜいきなり連絡を――。春人は文章の意図を読み取ろうと頭を悩ませる。


「う~ん、これだけじゃあなー。何の用で、ってやばいやばい早く返さないと!」


 春人は慌ててスマホを操作する。アプリには相手が自分の文章を読んだかわかる“既読”という機能がある。文章を読んだのに返信がないと相手からは既読スルーされていると思われ、その後の人間関係に亀裂が入ったなんて話を腐るほど聞いた。そんな使いようによっては便利な機能に春人は初めてゾッとしていた。


「なんて恐ろしい機能なんだ。考えたやつはきっと連絡とり合う奴がいなかったんだな」


 だからこの機能の恐ろしさに気づかなかったんだと勝手な解釈をして春人は眉根を寄せる。


「これなんて返せばいいんだ?普通に大丈夫だよ、でいいのか?……あ、こんばんはって入れた方がいいか……」


 返信するだけでどれだけ時間を掛けているのかと思うが春人はそれだけ必死だった。一番最初の連絡のやり取り……ここで間違えては今後に関わってくると本気で思っていた。


「…………うん、まあ、シンプルが一番だよな」


 何度も文章を読み直しおかしな点がないかを確認してから春人は送信ボタンを振るえる指先で押す。


『こんばんは。大丈夫だよ。』


 なんの捻りもないつまらん文章だったがこれでいいはずだ。


 送った後も春人はスマホ画面を瞬きもしないでじーっと見続けた。まだ数秒しか経ってないが反応がないことにやきもきとする。


 スマホの画面を消しては付けてを繰り返していると反応が表れる。


「お!既読ついた……って、返信はやっ!」


 既読が付いたと思えばすぐに返事が返ってきた。


『なら少し話そうよ。どっちかが眠くなるまででいいから』


「……え?話すってメッセージで?それとも通話?」


 春人はまた頭を悩ませる。美玖はどっちの考えでこの文章を打ったんだ。


「わっかんねー、日本語ややこしすぎるよな本当に」


 自国語にまで文句を吐きながら春人は文章を打ちこむ。


『いいよ。話そうか』


 これで美玖の出方を確かめる。美玖からまたメッセージが来るようならそっちで話そうってことだろう。そして通話が来たらそういうことだ。


「我ながら完璧な返答だ」


 ふっ、と笑い春人は自画自賛する。

 しばらくすると既読が付きメッセージが飛んできた。それを確認し春人は口角を上げる。


「こっちで話をしようってことね。よしよしオッケーオッケー……」


 メッセージに目を通すと春人の顔から先ほどまでの余裕が消えた。


『やったー!ありがとう春人君!』


「……これってこのままメッセージでやり取りする流れ?それともここで終わって通話に行くのか?」


 どっちとも取れる文章に春人は頭を抱える。


「く……どっちだ!これはどっちが正解なんだ!」


 画面を睨みつけ頭をフルに働かせる。テスト中でもここまで頭を使ったことはないだろう。暑くなる頭に頭痛を感じながらも春人は答えを導き出す。


「いや、もうどっちだろうと関係ない。とりあえず俺が返信すれば美玖の方からなんだかの動きがあるはずだしな、うん」


 考えた末答えが出ないことから全て美玖へ丸投げにした。どっちにしろ美玖がどう考えているかわからないのだからこうするほかない。


「何て返そう……お礼何ていいよ、とか?それじゃあ普通過ぎるか。俺も話したかった、とか……これはちょっと気持ち悪いな」


 一人でスマホに向かってしゃべってるこの段階でかなり春人は気持ち悪いが本人がその事実に気づくことはない。


「いやでもありなんじゃないか?こっちからも好感的な態度をちゃんと示しといたほうが美玖も気兼ねなく連絡とり合えるだろうし」


 春人は強く目を瞑り頭を悩ませると指を動かす。


『俺も美玖と話ができて嬉しいよ』


 送信――。


 オロオロと落ち着きなくトーク画面を凝視する。


「大丈夫だよな?流石にキモすぎたか?いやでもな……」


 送った文章に今更不安になりそわそわしていると既読の文字が浮かび上がった。


「――っ!」


 春人はスマホを握り直すと画面に顔を近づける。ここからだ。一体どう返してくるのか。焦る気持ちを何とか落ち着かせながら返信を待っているが――。


「……返ってこないな」


 変化のないトーク画面に春人は焦り始める。


「なんで?さっきまで速攻で返信してたのになんでこんなに遅いの!?あ、やっぱり俺の文章まずかったかーっ!?」


 頭抱えながらベッドの上をのたうち回る。身の丈に合わないことをしたかと春人は今になって後悔していた。


「マジでどうしたらいいんだ……謝る?謝るか?でも何て謝る……」


 目まぐるしく頭の中では謝罪文が行き交っていた。どの文章がいいか春人が必死に選択しているとスマホが振動する。


「っ!き、来た!やっぱり間違ってなか――」


 口を大きく開けた春人はスマホの画面凝視したまま固まる。画面には通話を知らせる文字が大きく表示されていた。


「ここに来て通話か……いや、考えてはいたけど……今かー今なのかー……」


 思いっきり動揺している現状で美玖と通話するのはきつい。心の準備もしていない。でも早く出なければ着信が切れてしまうわけで――。


「出ないわけにはいかないよな……ふー」


 春人は息を吐き自分を鼓舞しスマホを操作し耳へと当てる。

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