117話 これからは全力で甘えていきます
「ありがとう美玖。美玖の気持ちは本当に嬉しい――だけどごめん。今の俺はその気持ちに応えられない」
春人は美玖への罪悪感なのか酷く痛む胸の痛みに耐えながら美玖の気持ちを拒絶する言葉を吐き出す。
「――っ!…………理由を聞いてもいいかな?」
春人の言葉を聞いて一瞬、顔をくしゃりと歪めたが美玖は瞳に熱を灯したまま春人へ視線を向ける。
そんな顔を向けられては春人も一切の誤魔化しもなく真剣な表情を作る。
「……まず俺からも……あの頃の俺は多分美玖に恋をしてたんだと思う。近くにいてすごく楽しかったし落ち着いた。今でも思うよ……あの時間は俺にとって一番大切な思い出だった」
少し春人の顔が和らぐ、だがすぐにまた強張るように硬い表情を作る。
「でも、だからこそダメだ。俺はまだ過去の美玖に恋をしたまま戻ってこれてない。こんな気持ちのまま美玖の気持ちには応えられない」
言い終わると春人は重く息を吐きだした。
自分でも何を言っているのかと思う。
今の美玖も過去の美玖も美玖は美玖だろう。それでも春人の中では割り切れない部分があった。
そこを自分なりの答えを出せなければ春人は胸を張って美玖の気持ちに応えられない。
こんな中途半端すぎる気持ちではダメだった。
しばらく二人の間に沈黙の時間が流れる。
こんな自分勝手な理由で美玖の気持ちを拒絶したのだ。春人は一、二発殴られるくらいは覚悟していた。
それでも次に美玖から発せられた言葉はあまりにも予想外過ぎた。
「春人君って……ロリコンなの?」
「は?――はぁあああ!?」
もっと責められるような言葉を想像してたのに哀れむような言葉に春人は見事に出鼻を挫かれた。
「え、いや、もっとなんかあるだろう!?というかなんでロリコン!?」
「春人君昔の私が好きなんでしょ?ということは小さい私が好きってことだし……」
「ちげえからな!言葉だけ抜き出せばそうかもしれんけど、こうなんか……わかるだろ!?」
自分でもよくわからなくなり春人は美玖に丸投げする。
そんな春人の言動が面白かったのか美玖は、くすっと笑顔を浮かべる。
「あはは、わかってるよ。まあ、ロリコンだろうと私はいいんだけどさ」
「いやよくねえよ」
「ううん、いいんだよ。昔の私を春人君が好きでいてくれたのなら私は今すごく嬉しい」
はにかみながら頬を染める美玖に春人は一瞬で目を奪われた。
春人は誤魔化すように、さっと視線を逸らす。
(その顔はずるいぞ。今の俺にはほんとに……)
ドキドキと鼓動を速める心臓を何とか沈ませようと何度も深呼吸を繰り返す。
そんなあからさまな春人に美玖はまた笑ってしまう。
「少しは意識してくれた?」
「意識自体はいつもしてるよ。たまにとんでもないことしでかすし」
「とんでもないことって……なに?」
「パンケーキ食べさせてきたり、日焼け止め塗らせたり、まあいろいろと」
春人は目を細め記憶を遡る。
本当にいろいろとあった。
春人の指摘に美玖は恥ずかしそうに頬を染め視線を彷徨わせる。
「だってそれは……春人君全然私のこと気づいてくれないし、これくらいしないとだめなのかなって……」
あれは美玖なりのアピールだったらしい。
極端すぎるだろうと春人は苦笑する。
「ていうか美玖はよくわかったな俺のこと。入学式くらいからもう話しかけられてたと思うけど」
「そりゃあわかるよ。名前一緒だし、顔だって面影があるんだから。むしろ……なんで春人君は気づかないのってずっと思ったけどね。春人君、私の名前も忘れてたでしょ?」
「うっ……」
春人にしたら昔の美玖との思い出は封印しておきたいものだったのだ。そんな記憶を鮮明に覚えていたかと言われると決してそうではないだろう。
名前どころか顔さえ思い出せなかったのだから。
じとーっと上目遣いに視線を飛ばしてくる美玖に春人は次第に気まずくなりその視線から逃げる。
「あっ、目逸らした」
「その話はもういいだろ。こうして思い出したんだし」
「……そうだね。他にもいろいろ聞きたいけど、今日のところはいいかな」
にこっと歯を見せながら楽し気に笑みを向けてくる。
春人はまだ聞くようなことがあるのかと今後来るかもしれない質問に今から恐々としていた。
すると美玖は春人に歩み寄るとその腕に自分の腕を絡める。
「は?なんだよ急に」
驚く春人に美玖は不敵な笑みを浮かべる。
「春人君が昔の私を忘れられないなら今の私に夢中にさせようと思って」
「はぁ?」
何を言い出すのか。
春人は唖然とし口を大きく開き固まる。
にひっと小悪魔めいた笑顔を美玖が作る。
「待つのはもう終わりだもんね。そもそももうこりごり。待つことがこんなにつらいとは思わなかったよ」
「その点に関しては本当に申し訳ないとは思ってるけど……夢中にさせるってなに?」
「そのままの意味だよ。たくさん春人君にアタックして私の魅力で篭絡させる」
「いや、篭絡って……」
「覚悟しててよ。もう思い出してもらったんだから私も思う存分春人君に甘えられるし」
「今までは一応制御してたと?」
春人は訝し気に視線を向けるが美玖は全く気にしていないのかずっとニコニコと春人にくっ付いている。
今までの分を取り戻すようにぎゅ~~~っと身体を寄せ春人の体温も匂いも全て余すことなく感じようとしているようだ。
当然そんなにくっ付いていれば当たるものは当たり――。
「美玖、いろいろ当たってんだけど」
「ん?当ててるんだよ、はる君」
にっと白い歯を春人に見せて挑発的な笑みを作る。
この調子で今後も来るのかと思うと春人はため息を漏らす。
(勘弁してくれ……俺の理性が持たんぞ)
ここに来たときは周囲の空気を酷く寂しく冷たく感じられたが今は無駄に暖かい。
寄り添う美玖に視線を向けて春人は頬を緩める。
(まあ、約束したのにずっと待たせちゃったしな。今はこれくらい黙って受け入れないとばちが当たりそうだな)
渋々といった感じを出すが春人も満更でもない。
女子にこんなにくっ付かれて嬉しくない男子などいないだろう。
「……はる君ニヤニヤしてるよ」
「……気のせいだ」
美玖に指摘され春人は何事もなかったかのように真顔になる。
「え~、絶対ニヤニヤしてたぁ~」
「してな――ていうか、美玖そんな甘えるような声出すんだな」
「甘えてるんだから出すでしょ」
何を言っているのだと逆につっこまれてしまう。
本当に宣言通り全力で来ているらしい。
春人はもう一度ため息をつく。
一体春人はいつまで理性を保つことができるのだろうか。
お読みくださりありがとうございます。
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