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116話 長年の行き違いと告白

「ずっと……聞きたかったことがあるんだ」


 どこか重みがある春人の声に美玖は思わず身を強張らせる。

 そんな美玖の反応に春人は苦笑する。


「あ、いや、別にそんな身構えないでくれ。何て言うか……少し気になってただけのことだから」


 少しなんてことは嘘だ。ずっとこのことを引きずって今まで生きてきたのだから。

 それでも美玖の不安そうな表情を見てたらどうしてもフォローを入れたくなった。


「そ、そうなの?なら……うん、わかった」


 美玖も少しは安心したのか身体の緊張が和らぐ。それでもやはり不安は残るのだろう。

 落ち着きなく身体の前で揃えた手を握っている。


 春人はまた息を吐き自分を落ち着かせてから口を開いた。


「公園での最後の日覚えてるか?」


「最後って……私が泣いちゃった日?」


「その次の日だよ……なんであの日来てくれなかったんだ?」


 春人は苦し気に顔を歪ませる。

 知りたかったが知りたくもなかった真実が今明かされようとしている。


 だがそんな春人とは対照的に美玖は驚いたように目を丸くする。


「え……だって……私が泣いちゃった日が春人君に会える最後の日だったから……私が次の日に公園に行くなんてできなかったはずだけど……」


「……………………え?」


 予想外過ぎる理由に春人はきょとんと目を瞬かせる。


 何か話が噛み合っていない。

 春人と美玖の記憶に致命的な狂いが生じている。


「だって、あの日が最後だったから、だから私悲しくて泣いちゃって……それで春人君が絶対に会いに行って見つけるって言ってくれたから私は今まで待ってたんだよ?」


「えっとー……ちょっと待って」


 春人は美玖に掌を突き出し、考えるように俯き加減に視線を下ろす。


(は?どういうことだ。これってもしかして……)


 あの日の春人は美玖に泣き止んでもらうのに必死だった。必死に約束できるかもわからないことまで口にして美玖に安心してもらった。


 そんなときに小学生だった春人が冷静な判断ができたのだろうか。


 次の日も美玖に会えると思ったのは単純にまた会いたいと願った春人の勘違いだったのではないか。


 お別れの時が明日だと勝手に勘違いして、来なかった美玖に勝手にショックを受けていたのではないか。


 もしそうなら一周回って笑えてしまう。


(え、マジで俺の勘違いなのか……だとしたら……)


 これ以上もなく滑稽だろう。

 何年も勝手に勘違いしてそのことをずっと引きずってきたのだから。

 自分勝手にもほどがあった。


「えー……」


 もしそうなんだとしても、現状を受け入れるような余力は今の春人にはなかった。

 すでにもう考えることが多すぎてキャパオーバーだ。


「あの……春人君?」


 難し気に顔を顰めていたかと思えば、腑抜けたように疲れた表情になる春人に美玖は怪訝な表情を作る。


「その……ごめん。疑ってるってわけじゃないんだけどさ……それって確かなの?」


「確かだと思うよ。私が春人君に会える最後の日に行かないわけないし」


「あー……なんかすごい説得力ある」


 これほどにないくらいには納得できてしまった。

 確かに美玖なら最後の日に来ないなんてありえないだろう。


 そうなると――。


「やっぱり俺の勘違いなのか………………はぁー」


 本当に情けなく恥ずかしさがこみ上げてくる。

 穴があったらとは言うが本当に入って消えたかった。


「それでその…………私からもいいかな?」


 春人の話も終わりきりがいいところで今度は美玖が口を開く。


「ん?ああ、いいけど」


 自分のことでいっぱいで気のない返事を返してしまったが春人はすぐに顔を引き締める。

 美玖の顔に真剣さがにじみ出ている。力強い瞳は春人を一切逃そうとしない。


「――ずっと言おうと思ってた」


 紡がれる言葉に力強さとやさしさが入り混じる。


 長年秘めていた思いが今日解き放たれる。


「はる君。公園であなたに会ってから、私はずっとあなたのことばかり考えてきた。さよならした後もずっと待ってあなたと再開できる日を心待ちにしてきたの。こんなに想い続けた気持ちには嘘はない」


 美玖は一度言葉を区切ると柔らかく微笑みを浮かべる。


 儚げの中、瞳には力強さが宿る美玖の笑顔は今まで見てきたどんな表情よりも春人の目を釘付けにさせた。


 そして小さの口がゆっくりと再び動き出す。


「私はあなたが好き。大好きです。私と――付き合ってくれませんか?」


 この言葉を口にするのにどれだけ待たせてしまったのか。


 どれだけ勇気がいる行動だったのか。


 春人はそれを考えると美玖への愛おしさが止め処なく溢れてくる。

 こんなに一途に自分のことをずっと待ってくれてたのかと。


 でも――。

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