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103話 金髪ギャルのお化けって全然怖くないんだな

 美玖と歩いているといろんな人が話しかけてくる。


 ほとんどが美玖の友達で女子だ。その度に春人との関係を探ってきていた。


「桜井、メイド服かわいい!」


「ありがとー。うちのクラスでメイドカフェやってるから寄ってね」


「おけおけ。あとで顔出すよ。それはそうと……なんで百瀬君と一緒なの?そういうことなの?」


 女子たちは好奇心を隠そうともせず、きらきらとした目で春人と美玖を見る。


「どういうことかは知らないけど春人君は私のボディーガード」


「ボディーガード?」


 予想とは全く違う答えが返ってきたことで女子たちは首を傾げている。


「ほらこんな格好でしょ?誰が近寄ってくるかわからないし」


 少し抽象的な表現だったが学校での美玖の知名度が相まってか女子たちには伝わったらしい。首を縦に振って頷き始めた。


「あー、そゆこと、なるほどねー。確かに百瀬君なら安心かも。それじゃああたしら行くから。百瀬君もしっかり桜井守るんだよ」


「ああ……」


 女子たちの勢いに押されながら春人は一応返事をする。女子たちが背を向け離れていったことを確認し春人は美玖に話しかける。


「本当に美玖って友達多いよな」


「そうかな?」


「そうだよ。一体何回目だよ、こうして話しかけられるの」


「まあ、こんな服着てるしね。皆気になるでしょ」


 美玖がメイド服のスカートを摘まみ少し上げる。スカートで隠れた足元が少し見え、それだけでなぜかドキっとしてしまう。


(なんかよくある普通のメイド服でよかったな。漫画とかに出る丈の短いスカートとかだったら色々と気が気でなくてこうして歩けん)


 文化祭の探索を続けているとまた春人たちに声をかけるものが表れた。しかも今度は美玖ではなく――。


「あ、ももっちじゃん」


「っ!」


 春人は身体を硬直させて足を止める。何とも面倒なのに見つかったとわかりやすく顔を顰める。


「その声は……常盤か。なんだ――」


 声の主に確認するまでもなく見当がつき肩越しに振り返るが春人の声が詰まる。


「美玖っちもやっほ~。メイド服似合ってんね~」


「えーと、ありがとう……常盤さんもあの……それは?」


 美玖は言葉に迷いながら梨乃亜に首を傾げながら質問する。


「ん~これ?おばけだよ~。うらめしや~」


 梨乃亜が両手を胸元まで上げ手首をぶらーんとさせる。

 白い着物に額には三角の布を巻いている。確かにお化けと言えばそうなのだが……。


「金髪ピアスにギャルの幽霊って全然怖くないんだな」


 梨乃亜だからなのかはわからないが、お化けとしての怖い部分が全く感じられない。陰の部分より陽の要素が多い。


「あ~それクラスの子にも言われたね~。だからアタシはこうしてお客を集めてんだけど~」


 梨乃亜が、にやっと口許を緩めると春人へ近づき腕に絡みつく。


「ちょっ、と!?」


 春人より先に美玖が大きなリアクションを取るが梨乃亜は構わず身を寄せる。


「ももっち暇なら美玖っちとうちの出し物来てよ。ちょうど男女ペアに人気の出し物だし」


「まあ、その恰好で何となくわかるけど……なんだよお前のクラス?」


「お化け屋敷だよ~」


 期待した通りの答えが返ってきたが春人はため息を漏らす。


(やっぱりか。でもそれなら余計に行くわけにはいかないな)


 春人は美玖を確認する。

 何やら口をあわあわと震わせているがそれはとりあえず置いといて――。


「美玖お化け屋敷とか無理だよな?」


「え……お化け屋敷?あー……そうだね」


 戸惑いがちに返答する美玖を見て梨乃亜が口を開く。


「あれ~?美玖っち怖いの苦手?」


「うっ……まあ少し?」


「そかそか~。なら、ももっちアタシとお化け屋敷入ろうよ?」


「は?なんでそうなる」


「アタシも文化祭で少しは思い出作りたいからね~。ももっちならアタシも満足いくし」


 ぺろっと唇を舐め春人へとさらに密着する。

 獲物を見つけた虎のような妖艶な笑みを作る梨乃亜に春人は背筋に冷たいものを感じた。


「ちょっと近すぎないか?」


「え~そうかな。お化け屋敷の中だともっとくっ付くかもよ?」


「まだ一緒に入るなんて言ってないけどな」


 毎回毎回本当に何を考えているのかわかりにくい。梨乃亜の心意を読もうと言葉を交えていると梨乃亜とは反対側の春人の腕が強く引かれる。


「私が一緒に入るから。常盤さんは仕事に戻りなよ」


 ぎゅーと春人の腕に自分の腕を絡める。

 なにか敵対心丸出しで梨乃亜に視線を向けている。


「あれ~?美玖っち怖いの苦手なんでしょ?」


「苦手だけど学校のお化け屋敷くらい入れるから」


「ふ~ん。強がらない方がいいと思うよ?うちのお化け屋敷怖くて評判だよ?」


「っ!別に強がってないから。全然平気だから」


 にこにこと笑顔を向け合いながらもお互いの間で何か火花が散っているような気がする。


(何この状況……)


 美少女二人に両腕を組まれ挟まれている。とても嬉しい状況だ。嬉しいがそれに比例して周囲の目が痛い。


 廊下の真ん中でメイドと幽霊に挟まれた春人はそれはもう目立っていた。


「え、なにあれ?痴情のもつれ的な?」


「てかあれ桜井さん?うわぁーメイド服似合いすぎだろ。それにもう一人って……常盤さん!?常盤さんもいいよなー、ギャルってところがまた」


「つうかあの二人に挟まれてる男何なんだよ。メイドと幽霊に挟まれて。なんだ?冥土にでも送ってやろうか?あ?」


(あー、メイドに幽霊で冥土かー。うまいな……じゃない!そうじゃない!)


 一瞬現実逃避していたが春人は二人を宥めようと口を開く。


「ちょっと二人とも一旦落ち着いて――」


「んじゃ美玖っちが行くならももっちも行くよね」


「は?」


「は~い。新規のお客様ご案内しま~す」


 梨乃亜はあっさり春人から手を放し前を歩いていく。

 それを春人と美玖はぽかーんと口を開けて眺める。


「……これって、まんまとしてやられたか?」


「つい熱くなっちゃった……」


 美玖が恥ずかしそうに顔を俯かせる。

 梨乃亜が美玖に挑発的だったのはお化け屋敷に誘導するためだったらしい。


「この際もう仕方ないか」


「うん、まあ、学校のお化け屋敷だし大丈夫かな」


 春人と美玖は一緒にため息を零すと梨乃亜についていく。

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