猛牛の力
「ふざけやがって!!いくぜ………【大地の剣】!!」
「………ほう……土属性のスキルか。」
ゲイルがスキルを発動すると、闘技場の地面が集まり、やがて大きな剣となった。
(ふむ………大地の剣………このスキルは土を剣に纏わせるスキルだ………)
「ウオォ!!」
叫び声と共にゲイルが踏み込む。その踏み込みはまるで象を連想させる。
(………………ふむ、『マウンテンマンモス』の幼体と差程変わらんな。)
ガルトはゲイルの攻撃を簡単に交わした。確かに他の冒険者とは格が違う。
だが、【大地の剣】を使ったため、ゲイルの剣はとても重くなっている。
(………バッガスよりも重く、速いか………)
「今だ!行け!!お前ら!!」
「おう!!」
ゲイルの仲間達が俺を囲む。
(槍、弓、大盾と剣。ふむ………バランスの良いチームだ。よく考えられている。)
流石はSランク冒険者パーティーである。
(槍使いを交わすのは簡単だ。だが避けたところで大盾が厄介になる………大盾使いを先に倒したとしても、後ろにいる弓使いに射たれるな………なるほど、ゲイルのチームは対人戦に長けている。)
「ハァッ!!」
槍使いがガルトに向けて槍を突く。
「フッ………!!」
ガルトはとっさに避ける。だが、すぐに槍使いの次の攻撃が来た。
「ハァッ!!」
槍使いは槍を突き出した。その槍には回転が加えられている。当たれば肉を抉られてしまうだろう。
ゲイルとは違い、この男の槍にはとてつもない工夫がされている。
(これは………槍に回転がかけられている……?当たれば肉が抉られ、場合によれば骨や臓器にもダメージが行く程の槍術………!!)
一体、どれ程修行を積み重ねたのだろう。あの技術を修得するために、どれ程の時間を要したのだろうか。流石はSランクパーティーの槍使いである。
ガルトは槍を交わすと同時に、槍使いの腹を中の威力で殴る。
「ぐううぅ………!」
槍使いはうめき声を上げながらその場に倒れ、気絶した。ガルトの拳ならば人間を気絶させることは容易い。これで槍使いは無力化できた。
(後は弓と盾と大剣か………)
「よそ見するな!!」
弓使いが弓を射つ。弓使いは矢を三本同時に発射した。熟練の戦士でなくては、この攻撃は対処できないだろう。
(………!矢を3本同時に射っている。そして射つまでの間隔が短い。この弓使いも至高の域まで達している………)
俺は盾を思い切り弓使いに投げた。ガァン!!という、金属の鈍い音がする。弓使いの顔面に直撃していた。
「アガガガガ………」
弓使いは白目をむいて倒れてしまった。
(………かなり鈍い音がした。少しやり過ぎてしまったかもしれない。だが、弓使いは気絶した。………まあ無力化できたからいいだろう。)
「ウオォ!もうやらせないぞ!!」
ガルトが盾を拾うと同時に、大盾と剣を持った男が前に出る。
「うおぉぉぉ!!【大地の大盾】!!」
(大地の盾………これも土属性スキルか。大盾をさらに巨大化させ、広範囲かつ、最硬の盾としたか。)
「まだこれからだぜ………ウォォォォ!!」
次の瞬間、男は勢い良く突進してきた。
巨大化し、重量も増している盾を持ちながら、だ。
(ふむ………筋力が常人離れしているのか……?それとも何かのスキルか……?)
ガルトは奴の盾の千分の一程の大きさの盾で受けた。
ドォン!!という、とても鈍い音がした。なんとか受け止めることはできた。
「……ッ!?そんな!?大地の盾を受けとめるなど………!?」
「…【闘気解放・無】!」
(…盾に闘気を纏わせれば耐久性が大幅に上がる。闘気を纏わせた盾ならばこの程度の防御は容易い。)
大盾使いが驚いている隙に、ガルトは土の盾の上を駆け上がる。
(この盾をもう一度使われたら面倒だな)
ガルトは盾を破壊することにした。盾の破壊するために最適な部位を探していく。
(右、左、下、上、そして中央の順でいけるな)
ガルトは盾の端から壊していく。右、左、下、上、そして中央。あっという間に盾にヒビが入り込み、バラバラと崩れた。
「そ、そんなばかな………」
「お前の負けだ。」
「うっ………」
ガルトは大盾使いの首を叩いた。大盾使いは簡単に倒れた。
(さて、残るはゲイルひとりか………)
「………ハッ、やるじゃねえか。」
ゲイルがガルトを見て言った。
(あの土属性スキルといい、腕は確かだ。油断はできん………)
「ウォォォォ!!」
ゲイルが踏み込む。それと同時に上段から振る。
それにしても速い。スキルで大剣も大きくなり、それなりの重さがあるはずなのに、だ。
「フッ」
ガルトは横に避ける。この威力を受け止めることはできなくはないが、おそらく骨にダメージがいってしまうだろう。
「ドォォリャァ!」
次は横から振る。またしても恐ろしい速さだ。ガルトはしゃがむような体制をとり、ゲイルの懐に潜り込み、顔面に拳を入れた。
「ハァ!」
「ガハァッ!」
ゲイルは闘技場の端まで飛んでいき、壁に当たった。
「お、おい、あの新顔なにもんだ……?」
「猛牛の力がやられてるだと………?」
観客席からザワザワと声が聞こえてくる。しかし、ゲイルもまだやられてはいなかった。
「ガハッ………ゲホッ…ゲホッ………」
(不味い………背中にダメージが………こいつ、何者だ………!?負けられるかよ……!)
ゲイルは勢いよく壁に当たったため、背中を痛めてしまった。骨は折れていないところが、流石Sランク冒険者であると言えるだろう。
「ウォォォォ!!俺様は、Sランクパーティーのゲイルだァ!!こんな奴に負けるかよォ!!」
ゲイルは最後の力を振り絞り、ガルトに大剣を振る。渾身の一撃、と言ったところか。
……辺りに砂ぼこりが立ち、観客席からはなにも見えなくなった。
「ど、どうなったんだ?」
「ゲイルは勝ったんだよ……な?」
砂ぼこりが晴れ、ガルトとゲイルが見えてきた。
「そ、そんな………!?」
「う、嘘だ、ゲイルが…………」
「負けるなんて……!?」
「う………うぁ………テ、テメェ………」
「………俺の敵ではない。」
ガルトの剣はゲイルの首にあった。切ってはいない。これでゲイルの負けは確定したようなものだ。そして、ガルトは他の者と同様に、ゲイルの腹を殴る。
「グボォ!!」
ゲイルはその場に倒れた。ゲイルはもう、白目を向いている。気絶してしまった。
「………俺の勝ちだな。」
「嘘だろ………あいつ、化け物だ!!」
「俺、ゲイルに全額賭けてたのに……どうしてくれるんだよ!!」
観客席からはガルトを非難する声が多くあるが、ガルトはそのまま闘技場を後にした。