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歴戦の騎士  作者: 若葉
四章 ガルトの旅
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ミート村の生活

 フィルティアがミート村へと来てから数日が経過した。フィルティアはガルトの家に住みたいと言っていたが、流石に断られてしまった。代わりに空き家を借りることは出来たため、フィルティアは渋々納得する形となった。


 今日のガルトは薬草を採っていた。フォレストドラゴンの一件で豊かになったこの森には今までは採れなかった物も自生するようになった。


「……ほう、ヨミダケもあるとは。あれはザレガの実か。珍しいものだ。」


 ガルトは背中に背負っているカゴに、次々と薬草や木の実を入れていく。三十分もすると、カゴは満杯になった。


「これほどまでに採れるとは……フォレストドラゴンの力はやはり素晴らしい。殺すのは惜しかったか。」

「おーい、ガルトさーん!!」

「……ん?」


 ガルトは背後から呼ばれたため、振り返った。そこにはリナ、キッド、ドラン、マサが走り込みを終えた様子であった。


「終わったか。」

「はい、言われた通り、森の中を三十周走ってきました。次を何を?」

「ふむ……そうだ、村の倉庫の薪が不足していたな。闘気を使う練習に丁度良い。剣のみで木を伐ってこい。」


 四人は息切れをしていた。しかし、以前は一歩も動けないほど疲れていたことを考えると、四人の体力はかなり向上しているのだろう。そして、彼らは三段階の闘気にまで達している。あと一歩で属性闘気に到達するだろう。


「……やはり、そろそろか。」


 ガルトはポケットに手を入れた。中にあるのは短剣と水袋、そして、一枚の紙であった。王立学園の入学用紙であった。


(あの四人は入学は十分にできるだろう。冒険者を目指すのなら、俺に習うよりも……)


 このことを考えるのはこれで四度目である。何度かあの四人には提案をしたのだが、その度に断られてしまっている。ガルトはあの四人に教えることが嫌ではないのだが、最近はそれが頭痛の種となってしまっている。


 とはいえ、実際あの四人はギルドでは【チームワカバ】というパーティーを組み、若手の中では一番成果を上げている。時々ゲイル率いる【猛牛の力】の援護という形で討伐に参加しているらしい。最近は遺跡の調査が主である。過去、ガルトが調査をした遺跡のようなものが、世界各地から発見されている。共通していることは、全てクォール文明に関係しているということだ。


(世界樹の件もある……クォールと俺は避けられずには居られないのかもしれないな。)


「ん、ガルト、ここにいたんだ。」

「フィルティアか。」


 フィルティアは突然ガルトの前に現れた。彼女は転移魔法を日常的に使うという、一般人には理解できないことをするため神出鬼没である。初めは村の人も、リナ達も、ガルトも会う度に驚いていたが今はもう慣れてしまった。


「それ、ヨミダケにザレガ?スープとジャムでも作るの?」

「……ジャム?何だ、それは。」

「え?ほら、あれだよ、あれ。砂糖で煮詰めたやつ。知らないの?」

「知らん。」


 ガルトは正直なところ、常識が少し欠けてしまっている。戦闘技術や冒険の知識はあるが、その他は知らないことが多々ある。難解な魔法陣を解析することは出来るのにジャムすら知らないガルトを、フィルティアは不憫に思った。


「……可哀想に。今度作ってあげるよ……」

「……そうか。」


 ガルトはフィルティアがミート村で暮らすようになったこともあって、人とコミュニケーションをとる機会が増えた。無口で必要最低限なことしか言わない性格はそのままだが、それでも多少は会話を広げることができるようになっていた。


「ガルトって一体何者なの?ますます気になるよ。」

「……さぁな。俺自身もよく分からない。」

「おーい!!みんなー!!そろそろお昼だから帰っておいでー!!」


 リナの母が大きな声を上げている。いつの間にか昼になっていたようだ。ガルトとフィルティアは一緒にリナの家へと向かった。この所、フィルティアも一緒に食事をするようになった。


 ガルトとフィルティアが家に着くと、リナ達四人はもう昼食を取っていた。


「あ、お先に頂いてます。」


 ガルトはゆっくりと椅子に腰を下ろした。すると、リナの母がシチューとパン、そして、六通の手紙を差し出した。


「なんだか、これが届いてたよ。」

「あぁ、どうも……」


 ガルトは手紙を受けとり、表紙を見た。


「…これは……」


 それは勇者たち全員からの手紙であった。ホムラ、アクエス、ガイアス、フウマ、ジュラド、ルシア。全員が同時にガルト宛へと手紙を出したらしい。


 ガルトはまず、一番上にあるホムラの手紙を開いた。まず、手紙にはポピーの押し花入りの栞が入っていた。


『 やぁ、ガルト。こうして手紙を書くのは初めてでよく分からないけれど、私はあなたのことをよく知らない。だから、今後の為にもお互いをよく知る必要があると思うの。魔族と戦うにはお互いの絆を深めることが重要ではないかしら?今度、王都を一緒に観光しない?私が満足するようなプランを考えてあるから。返事をよろしくね。


  ホムラ』


「……なんだ、これは。」


 ガルトは手紙を読んで混乱した。リナ達も他の手紙を開ける。キッドがアクエスの手紙を読んだ。


『こんにちは、ガルトさん。お元気でしょうか。私は今、城の庭でこの手紙を書いています。長々と文章を綴っても仕方が無いので、一言で言います。私と今度出かけませんか。近々、王都では他種族との交流を目的とした祭りが開催されます。他種族との仲を深めるのにも良いでしょうし、お互いを知るきっかけにもなると思います。お返事をお待ちしています。


  アクエス 』


「……どうしたんだ?勇者たち。」


『 ガルト!!俺はガイアスだ!お互いのことをもっと知りたい!!近々共にギルドで依頼を受けないか!?俺は貴殿の戦いを学び、さらなる強さを手に入れたいのだ!!是非、決まったら返事をくれ!!


  ガイアス』

『 お久しぶりです、ガルトさん。俺の怪我は大分良くなってきました。お願いがあります。俺に稽古をつけてくれませんか?俺はまだ、勇者として未熟者です。ガルトさんの強さに少しでも近づけるようになりたいです。お返事を待ってます。


  フウマ』


『 こんにちは。お元気ですか。俺は元気です。今度そちらに伺います。修行をつけてください。お願いします。


  ジュラド』


「えぇ、ジュラドさんって手紙を書くのが相当苦手なのかな……」


 リナはジュラドの手紙を読んで驚いている。


『 こんにちは。ルシアです。ガルトさんとはあまり話したことがありませんね。今後の方針を決めるためと、お互いの関係を深めるために今度一緒に出かけませんか。お返事をお待ちしています。


  ルシア』


「……」


 ガルトは沈黙してしまった。さて、どうしたものか。一度に勇者全員からのお誘いが来てしまった。これでは断るにも断れない。ガルトはうんざりした。


「……すまない、ペンと紙をくれないか?」

「はい、どうぞ……」

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