消えた炎将軍
アイシクル将軍は子供たちを救出した後、一人一人しっかりと親元へと返した。親たちは涙を流して将軍に頭を下げて喜んでいた。
アイシクル将軍は子供が全員親元へと帰ったことを確認すると、すぐさま王城へと向かった。
「……おそらく、儂が魔族に攻撃を仕掛けたことによって、何かしらの報復があるに違いない。早急に手を打たねば……」
アイシクル将軍はギルバスのことを後回しにし、国王ライオネル・キングスの元へと向かった。
「国王陛下、お話があります!」
「おおっ、どうした、アイシクル。」
ライオネルは勢いよく扉を開けたアイシクルに驚いてしまった。アイシクル将軍はそんなことはお構い無しに部屋へと入ってくる。
「国王陛下、私は先程の戦いで炎魔将に重傷を負わせました。直に、奴らから報復が来るでしょう。すぐに対策を。」
「あぁ、兵士からその話は聞いた。ギルバスが怪しいということも承知しておる。」
ライオネルは全て知っていた。ここ数ヶ月、ギルバスが不穏な動きをしていたことや、大臣の職務を放棄してしまっていることを。
「ならば、何故……何故、ギルバスに処罰を下さないのです!」
アイシクル将軍は湧き上がる苛立ちを抑えられず、ライオネルに詰め寄った。ライオネルは少し申し訳なさそうに、アイシクル将軍から目を逸らした。
「……余は、この国の国王だ。同じ国民であるものを疑いたくは無いのだ。勿論、お前には絶対的な信頼を持っている。じゃが、ギルバスを疑うにはまだ早い。」
「……ッ!!ならば、王都の警備だけは頼みますぞ……!!」
アイシクル将軍はそう吐き捨てると、すぐに部屋を後にしてしまった。
「……あやつめ、怒りで我を忘れたか。……まぁ、仕方がないことだが……」
ライオネルは窓から外を見た。もう夕暮れに近くなってきている。
「……ん?あれは……!?」
その時、ライオネルは見つけてしまった。イーヴィル国の方から押し寄せてくる、黒い雲に。
ライオネルは直ぐに部屋を出て、扉の横にいる兵士に声をかけた。
「おい、直ぐに勇者を全員招集せよ。あぁ、フウマは呼ばなくて良い。明日、玉座の間へと来るように伝えてくれ。アイシクルにもだ。」
「はい?何事ですか。」
「……魔族が攻めてくる。急げ!!」
「は、ははっ!!」
兵士はそれを聞いた途端に顔を青ざめて走っていった。
◇◇◇
翌日、玉座の間には風磨を除いた五人の勇者と、アイシクル将軍がライオネルに跪いていた。
「……知っているかもしれんが、アイシクルが炎魔将に重傷を負わせた。魔族は報復に来るだろう。国中の兵と勇者、そして将軍が一丸となって防衛するのだ。良いな。」
「ははっ!!」
全員が威勢よく返事をし、部屋を後にした。そのまま城から出ていこうとする五人を、アイシクル将軍は呼び止めた。
「フウマの様子はどうだ?」
「……まだ、動けそうにないみたいです。昨日、やっと握手が出来るぐらいだったので……」
「……そうか。まだ、回復しているなら良い方だな。」
フレイアが寂しそうに答えたため、アイシクル将軍は肩をポンと叩いて言った。
「大丈夫だ。フウマは必ず良くなる。なに、いつまでも寝ているようなら儂がリハビリを手伝ってやろう。悪化しなければいいがな。ハッハッハ。」
アイシクル将軍が何とか雰囲気を良くしようとしたが、全員の顔は明るくはならなかった。
そんな中、一人の兵士が大慌てで城へと駆け込んできた。なにやら叫んでいるようだ。
「伝令ー!!魔族領の森から一人の男が接近!!兵士が次々にやられています!!確認された人数は、2000人は死亡!!」
兵士はパニックに陥っているようで、必死に叫んでいる。それを聞いた勇者とアイシクル将軍の顔は険しくなった。
「……儂が行く。お前たちは王都の内部を守れ。別働隊の襲撃に備えろ。」
アイシクル将軍は全員にそう告げると、門の方へと移動を始めた。凄まじい速さで、目にも止まらないほどであった。
「……ちょっと待てよ、相棒。」
アイシクル将軍は廊下の角から聞こえた声に、足を止めた。懐かしい、あの力強く、優しい声。
「……カエン……!?」
「……よっ!!また生きているうちに会えるなんてな。てっきりあの世で会うことになると思ってたぜ。」
廊下の角から姿を現したのは老いた男だった。白髪で、年齢はアイシクル将軍と変わらない。服装は立派なものであり、両腕には燃え上がる篭手を付けている。
「どうして……お前は、投獄されてしまっているはず……!?」
アイシクル将軍は驚きを隠せないと言った様子で、開いた口が塞がらない。カエンはそんなアイシクル将軍の肩にポンと手を置いた。
「はは、国王陛下から許しを貰った。一時的なものだがな。……国が、大変なんだろう?お前は勇者たちと一緒に王都を内側から守れ。アイスゴーレムを使えるお前なら数で有利だ。」
「し、しかし外は……」
「外は俺が引き受ける。なぁに、腕は鈍ってないさ。」
そう言ってカエンは窓を勢いよく開けた。強い風が城へと入ってくる。カエンの髪がなびいた。
「スゥ……はぁ、いいもんだな。外の空気ってものは。」
そう呟くと、カエンは勢いよく飛び降りた。
「【炎翼】」
カエンの背中から炎の翼が生え、そのまま門へと向かう。アイシクル将軍が引き止めるまもなく、素早く飛んで行ってしまった。
「……変わらねぇな。王都は。」
◇◇◇
「グワァ!!」
「グギャァ!!」
「も、もう許し……」
甲冑を身に纏った男が、次々と兵士を斬っていく。辺りには体が真っ二つになった者、頭が無い者などの死体が積み上げられていく一方であった。
「……なんと脆弱な。このような国がフレイアに重傷を負わせたとは……信じ難い。」
シュラは兵士を斬り続けていた。いくら斬っても気持ちが落ち着かない。
そこへ、空から何か、赤い物体が勢いよく落下した。
辺りが砂埃に包まれた。
砂埃が晴れて現れたのはカエンであった。
「な、何者だ!!」
兵士はカエンに向かって剣を向ける。カエンは兵士の方を振り返らず、ただ、シュラを直視してゆっくりと歩いていく。
「と、止まれ!!危険だ!!」
「……兄ちゃんら、お前らはもう王都へ戻れ。俺が相手をする。」
「はぁ……!?何を言って!……?」
その瞬間、カエンの雰囲気が一変した。先程とは違い、凄まじい覇気を帯びている。
「黙って走れ!!」
その一言で兵士たちは萎縮してしまった。そして、もんへ向かって全員が走っていった。
「……其方は?」
「あぁ、悪い。無視しちまってたな。俺はただの犯罪者のおっさんだよ。」
「……そうか。」
シュラはそう言うと、直ぐに斬りかかった。何の前触れもない、突然の攻撃である。
「……フン!!」
カエンは篭手でシュラの攻撃を受け流していく。シュラの激しい猛攻を、掠ることすらなく。
「【炎龍拳】」
次の瞬間、カエンの体が炎に包まれる。同時に、カエンの篭手も更に紅く輝いた。
「……!!」
シュラは一度距離を取るために離れた。カエンからとてつもない熱気が放たれたためだ。
「……情報には無かった。貴様、何者だ。」
「だから言ってるだろ……ただの犯罪者のおっさんだ!!」
カエンがとてつもない速さで踏み込み、シュラの懐を取る。カエンの後には火花が散り、一本の紅い線が描かれた。




