将軍の決意
それからフィルティアは、「荷造りをしてくる」と言ってまた【転移魔法】を使った。荷物を取ってくるついでと言って良いのかわからないが、一緒に来た使者と馬車までも移動させてきた。
「……えっ!?わ、私はどうしてミート村に!?」
使者はとても驚いている。ガルトとアクエスはもう既に見たため、あまり驚くことはなかった。
フィルティアは数分したらまたミート村に移動してきた。しかし、荷物を一緒に持ってきてはいなかった。
「荷物はどうしたんですか?」
「後でまた魔法を使えばいいよ。ここで取り出したら運ばないといけないから。」
確かにその通りである。フィルティアはアクエスに対しては少し素っ気ない様子だ。興味を持っていないというか、まぁ、良い印象は持っていないのだろう。
「……準備は出来たか。」
「うん。案内してよ。」
ガルト達はミート村の中へと入っていった……
◇◇◇
一方その頃、王都では騒ぎが起こっていた。王都で暮らしている子供が、男女問わず30人誘拐されてしまったのだ。これに対して王家は全力を挙げて捜索をしたが、発見されることは無かった。唯一わかったことは、魔族がこの一件に関わっているとの事だけ、だ。
王城にある一室、防衛大臣の部屋では、アイシクル将軍がギルバスの胸ぐらをつかみ、壁へと押し付けていた。
「貴様……どういうことだ!!国を守るのが防衛大臣であるお主のやることじゃろうが!!何故警備を手薄にした!!子供が……若い宝が、30人も誘拐されたんじゃぞ!!?」
「お、落ち着かれよ、アイシクル殿。確かに警備を疎かにしたのは私の不手際だ。だが、その分城の警備はより厳重に……」
ギルバスが話をしている途中で、アイシクル将軍はギルバスの顔の横の壁を殴った。壁には穴が開き、欠片が零れ落ちていった。
「貴様……王城には近衛騎士団も、儂も居る。何故これ以上に王城の警備を固める必要性がある!!やはり、貴様は魔族の内通者であるのか!!」
「ま、まさかそんな……同じアストラル国の者に疑われるなど、心外ですな。それよりも、早く子供達を助けなければ、どうなるかは分かりませんなぁ……」
「グゥゥゥ!!貴様……!!」
ギルバスは黒い笑みを浮かべてそう言った。アイシクル将軍はその言葉を聞いて、怒りで体が震えた。
アイシクル将軍はギルバスを軽く投げ飛ばすと、直ぐさま部屋を後にした。
「……儂が帰ってきたら、直ぐに奴を殺してくれよう……!!」
アイシクル将軍は通路で兵士を発見し、呼び止めた。
「おい、そこのお主。」
「はっ、お疲れ様です。アイシクル将軍。どのような御用でしょうか。」
「うむ。国王陛下に伝えてくれ。儂、アイシクルブリザードは【炎将城】へと行く。密偵から、そこに子供達が捕まっているとの情報が入った。急がなくては取り返しがつかなくなってしまう。頼んだぞ。」
「なっ、将軍お一人で行かれるのですか!?」
「心配せずとも大丈夫じゃ。老いぼれには力は無いが、知識と経験が詰まっておる。しかし……万が一にも儂が戻らなかったら、その時はミート村のガルト殿の力を借りるのじゃ。良いな。」
そういって、アイシクル将軍は自室に向かった。鎧を身に纏い、自身の相棒である、【氷河の大矛】を手に取った。
「……古傷が疼く。嫌な予感がするのう……」
アイシクル将軍は外へ出ると、すぐに馬の用意をした。幸い、【炎将城】は、ここから馬ですぐに着く距離にある。人族と魔族の国境の境にある城だ。
「よし……行くぞ!!【氷結錬成 騎兵】!!」
アイシクル将軍が魔法を使う。たちまち大人数の騎兵が生み出され、騎兵隊となった。
「【氷結騎士団】一丸となり、子供たちを救うのじゃ!!いくぞ!!」
アイシクル将軍の掛け声とともに、全体が走り出した。軍を率いて走るアイシクル将軍の姿は、まさに英雄そのものであった。
◇◇◇
それから時間が経ち、【炎将城】へと到着した。城には大勢の魔族たちが待ち構えていたようで、門の前にはフレイアと魔族の軍が臨戦状態で待っていた。
アイシクル将軍は少し距離をとって止まった。騎兵隊も同時だ。炎魔将 フレイアと、氷将軍アイシクル・ブリザードはお互いを睨み合った。
「来たな……アストラルの将軍、アイシクル・ブリザード。お前を待っていた。」
「……炎魔将 フレイアか。そこを退け。子供達を解放しろ。」
「あーあ。ガキを誘拐したのはバレちまったか。それは無理な相談だな。」
「……死人が出ることになるぞ?」
アイシクル将軍の忠告を無視したかのように、フレイアは大剣、【魔剣 イフリート】を構える。アイシクル将軍は馬から降り、矛を構えた。
「……全軍、突撃じゃ!!」
「お前ら!!突撃しろ!!」
両者の掛け声とともに、両軍の兵士が戦う。フレイアの軍は剣を持った兵士と、縦を持った兵士のみである。
「ハァァァ!!」
「フン!!」
フレイアとアイシクル将軍の武器がぶつかる。炎属性と氷属性が反発して、蒸気が上がった。
「炎と氷……どっちが強いんだろうねぇ。」
「興味無いのう。この戦いは、己の信念をどこまで貫き通せるか、それが重要じゃ!!」
「訳の分からないことを言ってんじゃねぇよ!!」