刺客
「【影舞剣】!!」
刀魔は次々にスキルを使う。刀魔の影から複数の剣が生み出され、ガルトを襲う。
(……この動き、もしや……!?)
ガルト箱のスキルに違和感を持った。前に、嘔吐を襲撃したテロリストの一人、薔薇のスキルを持った女のスキルと酷似していたのだ。いや、似ているというレベルではない。女は薔薇の棘だったが、攻撃方法は全く同じだ。
「【闘気剣術 斬撃無双の型】!!」
ガルトが斬撃無双の型で敵の影を全て切り刻んだ。
「なっ……馬鹿な……」
刀魔が驚いている隙をついて、ガルトは刀魔の足を払った。
「しまった……ッッ!!?」
刀魔は体制を崩し、その場に倒れてしまった。直ぐに立ち上がろうとするが、すかさずガルトが刀魔の首元に剣を置いた。
「…降参だ。」
刀魔は武器を捨て、両手を上げて地面に膝をつけた。
「……答えろ。貴様は王都を襲撃したテロリストの仲間か?」
「…そうか、お前が報告にあった無名の剣士か。その強さにも納得だ。」
どうやらこいつは仲間らしい。ガルトは刀魔から視線を動かさず、アクエスを呼んだ。
「……アクエス、縄を持ってこい。こいつには聞くことが色々とありそうだ。」
「…残念ながら、それは叶わないな。」
刀魔はいつの間に用意したのか、煙玉を地面に投げ付けた。迂闊だった。刀魔は袖の下に煙玉を隠し持っていたのだ。
「さらばだ。我ら闇ギルドがいる限り、真の平和は訪れ無いことをよく覚えておけ!」
「待て!」
ガルトはすぐに剣を振った。刀魔のどこかを切ったようだ。剣に血が着いている。しかし、煙が晴れた後には、もう刀魔の姿はなかった。
「……どうしてこうも、この世界は自分勝手な者が多いのか……」
そう言ったガルトの拳は固く握りしめられていた。
◇◇◇
それからガルト一行はフラワ城へと戻ってきた。ガルトは
「……なるほど、襲撃者のスキルが、王都を襲撃した者のスキルと似ていた、と。」
ガルトの話を聞いたヘルスは、何かを思い出したかのうように口を開いた。
「そういえば、聞いたことがあります。【闇ギルド】……彼らは彼らの目的を遂行する為ならばどんな残虐な行為も行うというのです。恐らく、私が彼らの目的に対して邪魔になると判断したのではないでしょうか。そして、王都を襲撃した者達も、闇ギルドの連中である可能性は十分にあります。」
それから、ヘルス国王とフォルス王妃には護衛の数を増やして対応をすることになった。ガルトとアクエスはフィルティアの元へと行く。彼女を説得する為だ。エルフ族としては、魔族と人族の戦いが起きた場合は全面的に人族に協力すると、ヘルス国王が約束を交わしてくれたのだ。
フィルティアの家に再び到着すると、フィルティアが扉の前で本を読みながら待っていた。
「……ん、来たね。」
ガルト達が到着すると、フィルティアは本を閉じてガルトの方へと歩み寄ってきた。
「キミ……ガルトだっけ?ねぇ、ボクの家に住まない?」
「……何故だ?」
ガルトは唐突な質問に困惑する。アクエスは全く理解できないのか、開いた口が塞がらない。目から光が失われつつある。
「ん。だって、キミと居たら楽しそうだから?キミとなら面白い時間が過ごせそうだよ。」
「……すまないが、俺には帰るべき家がある。」
「じゃあボクをその家に居候させてよ。」
このフィルティアという女はよくわからない。突発的に訳の分からないことを言ったり、何を考えているのか分からないような場面があったりする。眼の色、思考、能力……何もかもが未知と言ってもいいだろう。
「ガルトさん、チャンスですよ。フィルティアさんをあの村に連れていけば、人族に協力してくれるきっかけになるかもしれません。」
アクエスがガルトに耳打ちする。ガルトは実際、フィルティアの返答に困っていた。
「しかし……リナが何と言うだろうか。」
「……駄目?」
正直、フィルティアを家から外へ出すまたとないチャンスだが、ガルトは迷っている。
数分迷った末、ガルトは結論を出した。
「……確か、ミート村には空き家があったはずだ。そこならいいだろう。」
「ん、わかった。なら今から行こうか。」
「え……今から?」
アクエスの聞き返しを無視して、フィルティアは杖を取り出した。杖から魔法陣が出現し、フィルティアは魔法陣に術式を刻んでいく。一つ一つ丁寧に文字を刻むのだ。
「……これは何の魔法だ?」
「んー、まだ本番は試したことがないんだよね。実験は何度かしたけどバラバラになっちゃった。」
「……は?」
「【転移魔法】」
ガルトは思わず「は?」と返してしまった。次の瞬間、魔法陣が光り、気がつくとミート村に到着していた。
「……えっ?えっ!?」
アクエスは突然の出来事に理解が追いついていない。
「……これは、空間魔法の一種か?いや、時空魔法……転移した……まるで分からない。」
ガルトはこの魔法の正体を予想するが、まるで何が何だかわからなかった。
「これはボクが開発した魔法だよ。【転移魔法】と名付けたよ。」
「転移魔法?」
「うん。無属性の術式に空間魔法と時空魔法の魔法文字を刻んで、安定性を高めるために魔法陣自体を円形のみを使うことにした。魔法陣は三重にしてあるよ。あとは、神聖魔法の魔法文字を一番内側に……」
「……待て、無属性の術式は再現不可能な筈だ。それに、空間魔法と時空魔法と神聖魔法は交わることが出来ないはずだ。神々の力と時間の流れが反発してしまう。」
「無属性の術式は再現可能にしたよ。あと、そこは時空魔法と神聖魔法の公式の応用で……」
「……もう、うるさい!!静かにしてください!!!」
黙ってガルトとフィルティアの会話を聞いていたアクエスだが、ついに我慢の限界に達してしまったようだ。とりあえずまとめると、フィルティアの開発した【転移魔法】は場所を短時間で移動できる魔法だ。恐らく、長い魔法使い達の歴史上でも、フィルティアしか扱える者は居ないだろう。