エルフの森の中での戦闘
暗闇の中で切り合い続ける様は、伽話に出てくるような光景であった。彼らは、今この世界で最も強い者たちの世界にいるのだ。並大抵の者が踏み込める次元ではない。
「フゥゥゥゥ...」
ガルトの呼吸が速くなっていく。ここまで激しい戦闘は久しくしていなかったため、身体が追いついていない。
(...視界が暗い。この暗闇のせいもあるだろう...頭が痛い。酸欠か...?)
「...もう限界なのか?まだまだ我を楽しませろ。貴様はここで終わる者では無いはずだ...!!」
ガルトの攻撃が遅くなるのに対して、シュラの攻撃は速くなっていく。
「【優しき木々たちの癒し】...」
フィルティアが杖を構え、魔術を使った。ガルトの身体に起こっている状態異常はたちまち消え、体力も全回復した。
(これは...視界がハッキリとする。気分もかなり良くなった。)
「...あの小娘がこれほどまでの魔術を...魔族にもあそこまでの使い手はそういないだろう...だが、体力を回復したからと言って、我の攻撃は止まらぬ...!!」
シュラは一度ガルトから離れ、刀を鞘に納めた。
(...来る。大技が。)
ガルトも剣を構える。シュラからは異様な空気と圧迫感を感じとれた。
「【三龍斬】!!」
シュラは勢いよく刀を抜き、横に振る。放ったその斬撃を今度は縦に斬る。最初の斬撃は二つにわかれ、合わせて三つの斬撃が生まれた。まさに、3つの首を持つ龍そのものであった。
「さぁ、どう避ける...」
シュラは期待と興奮を胸に抱えながらガルとに視線を送る。
ガルトは剣を構え、剣に闘気を流し込む。
「...【闘気剣術・一撃必殺の型】!!」
ガルトは3回連続で一撃必殺の型を放った。このような大技を連発し、お互いの攻撃を相殺したことは、流石のシュラでも予想出来なかったであろう。
「ククク...あっはっはっはっはっは!!!そうか、そうきたか。これだから強者との戦いは面白い。心が踊る。」
シュラの声はだんだん大きくなり、高さも高くなっていっている。
「...どこが面白い?」
再び両者の刃が重なる時、ガルトふと呟いた。それを聞いたシュラはとても驚いた様子で叫んだ。
「まさか、貴様...この戦闘がつまらないとでも言うのか...!?」
「...俺には理解できないな...この、戦いが楽しいという感覚は...!!」
ガルとがシュラの刀を押しのけ、体勢を整える。
「【闘気剣術・斬撃無双の型】!!」
至近距離で無数の斬撃がシュラへと飛んでいく。避けることは至難の業だろう。
(...これならばどうだ...)
しかし、シュラは脅威的な反応力を見せる。全ての斬撃を弾き、起動を逸らして避けることに成功した。そして、シュラは暗闇の中から出てしまった。
「これでもダメか...」
「...つまらない、か。」
全ての斬撃を避けた後、シュラは刀を下に向け、頭も下を向いていた。どこか低い声で、先程の甲高い声とは、もう別物となっていた。
「...今回もまた次の機会に決着をつけるとしよう。貴様が本気で戦闘をすることが出来る、その時に。」
シュラは腰から煙玉を取り出し、地面へと投げ付けた。辺りには煙が立ち上り、煙が消えた時にはもう、シュラの姿はなかった。
「...次の機会、か。」
ガルトは空を見上げた。いつの間にか雲の消えた、美しい青空を。
「...ふぅ。」
ガルトは深呼吸をし、剣を鞘に納めた。同時に、アクエスとフィルティアが駆け寄ってくる。
「ガルトさん!お怪我は!?」
「怪我したのなら、ボクが治そうか?」
二人とも心配そうにガルトの体を見ている。ガルトはこの時、経験したことのない、変な気持ちになった。
「...大丈夫だ。怪我は何もしていない。この森から奴の気配は消えた。もう、大丈夫だろう。」
「いやはや...あの戦闘は驚きました。とても高度な戦闘で。見ていることしか出来ず、すみませんでした。お互いに互角に見えましたが...」
「いや、俺の負けだ。」
ガルトが何も間を空けずにキッパリと言ったため、アクエスは驚いた。
「え...どういうことですか?」
「...あの戦いで、奴はまだ本気を出していなかった。」