しびとⅢ
黒くなった森が程度まで広がると、その中央が黒紫色となった。やがて、黒く染まった森から、ひとつの人影が現れた。
「…奴の情報通りか。貴様ら人族は誰かに頼らなければ乗り越えることはできないのか?」
ガルトはすぐに剣と盾を構え直した。その声と影は、見覚えのあるものであったからだ。
「…また会ったな。久しく見ることのなかった強者、ガルト。」
「…お前達は離れていろ。こいつは俺が相手をする。」
ガルトはフィルティアとアクエスの前に出た。森から現れた者は、シュラであった。シュラは既に腐り落ちた筈の心臓の鼓動を感じていた。言葉で表せない程の高揚感に満ち溢れ、【邪刀 闇霧】を抜いた。
「さぁ…ガルト。今度こそ全力で勝負をしようではないか。我には解る。貴様がまだ全力を出しきっていないことが。」
「…それはお前も同じだろう。」
「…気づいていたのか。流石は我に匹敵する程の強者。あぁ…惜しい。実に惜しい。種族の違いさえなければ、我らは友に鍛え合うことができていたかもしれない…」
「…エルフ族を襲撃したのは、お前の策略か?」
ガルトの問いに、シュラは眼を光らせて答える。
「いかにも。我が仕向けたゴブリンだ。」
「…何のためにこのようなことをした?」
次の問いかけに対して、シュラは首をかしげた。
「何のために…か。貴様がエルフ族の元へ行くと言う情報が入ったため、我は貴様を殺しに来た。会話はこれで終わりにしよう。さぁ、斬り合うとしよう!」
シュラは一気に【邪気解放・一】を使い、黒紫色の闘気が体から溢れ出す。ガルトも【闘気解放・無】を使い、銀色の闘気が溢れ出す。
両者がお互いに準備が整ったことを確認すると、シュラが踏み込んだ。アクエスとフィルティアはその場から素早く離れ、ガルトがシュラの刃を受ける。金属がぶつかり、鈍い音が森に響く。
シュラはガルトを蹴り上げ、距離をとった。刀を素早く納刀し、姿勢を低くして構える。
「【龍滅斬】!!」
シュラがスキルを使う。刀を勢いよく抜刀し、黒紫色の斬撃が飛ぶ。ガルトはその斬撃を剣で受けた。
(これは…一撃がとても重い...受けきれん!!)
ガルトは被害を最小限に抑えるため、斬撃を空へと弾いた。もし、ガルとが避けていたら、フィルティアやアクエス、エルフ族にもとてつもない被害が出ていただろう。
ガルトが斬撃を弾いた数秒後、シュラはガルとの懐に入った。咄嗟にガルトは剣を振る。
「それは悪手だ。むやみやたらに振っても当たらぬ...」
シュラが飛び、刀を上段から振りおろそうとすると、ガルトは剣を振ることやめ、シュラの腹に拳をいれた。
「【闘気拳】!!】
シュラは後ろの木まで飛ばされてしまった。
「闘気で筋力を増強させたか...面白い。ならばこちらも...」
シュラは懐から札のようなものを一枚取りだした。
「【妖術・夜闇の符】」
札から煙が上がり、たちまち辺りが暗くなってしまった。太陽が特殊な空間によって隠されてしまったのだ。
「これならば見えぬだろう。貴様が不利だ!!!」
シュラがガルとに向かって走る。シュラはこの暗闇の中、ガルトが見えているようだ。
「...【闘気剣術・心眼の型】。」
ガルトは深く深呼吸をし、心眼の型を使う。シュラが今まさに切りかかるという寸前で剣を振る。ガルトの剣先がシュラの兜に掠める。シュラは咄嗟に後ろへ下がった。
「...面白い技だ。この常闇の中でも動けるとは...期待以上の戦闘力だ…」
シュラが喋っている中、ガルトが盾を構えて突進する。シュラはそれをいとも簡単に交わして見せた。
(…奴も俺の動きが見えているのか?スキルを発動した様子はなかった。)
シュラは攻撃を交わしたところで刀を振り下ろした。ガルトは脅威的な速さで盾を構え、シュラの攻撃を受けた。受けると同時に剣を突き刺す。シュラがその攻撃を刀で弾き、激しい斬り合いが始まった。
両者の攻撃がだんだん速くなっていく。闇の中で銀色の光と黒紫色の影が斬り合う様は、まるで花火のようであった。
アクエスはこの光景に口を開けてただ呆然としているだけであった。そこに在るのは、自分の知っている『戦闘』とはあまりにもかけ離れた、高度な戦いであったからだ。
「...すごいね、彼。独自にスキルを作っちゃったんだ。あっちの黒い方もすごいね。あの刀もかなり上等な品だ。それを完全に使いこなしてる。」
アクエスがフィルティアの方を向くと、フィルティアの眼の色が虹色に変わっていた。




