フィルティア
アクエス達が部屋立ち去ると、フィルティアはまた一枚の紙を見せてきた。しかし、先ほどの魔法陣とは違い、今回のものは六角形であった。そして、魔術の式に規則性がある。
「…これは」
「【古代魔法】だよ。今は使われていないけどね。古代魔法は属性がないんだ。だからこんなおかしな形をしているんだ。」
魔法陣は全て丸形だ。属性によって魔法陣の色と文字が異なることはある。魔力そのものの色が属性によって異なるため、これは至って普通の現象だ。しかし、このように形そのものが変わっている。
「…【聖なる神々の光】、か。」
ガルトがそう呟くと、フィルティアは目を大きくして驚いた。
「…人族が知っているなんて意外。キミ、僕の思ってた通りの面白い人だ。」
そう呟いたフィルティアは笑っていた。そこにはもう、敵対心剥き出しの目は無く、穏やかになっていた。
「ねぇねぇ、キミは水と炎の混合魔術についてどう思う?ボクは再現が可能だと思うな。
それからフィルティアはいくつもの魔術について話をした。止まることがなく。ガルト最初に口を開くことは一度もなかった。
「…一つ、話を聞いてくれないか?」
フィルティアが五つ目の話を終えると、ガルトが口を開いた。フィルティアもようやく話を続けることを止めた。
「ん?何?」
「…魔族と人族の戦争については知っているか?」
「あ、戦争してるんだ。魔族も懲りないね。40年前にも戦争を仕掛けて、もっとまえだと200年前にも戦争を仕掛けてたよ。」
エルフ族は非常に長命だ。数千年生きる者もいる。そのせいで、多種族と時間の感覚が合わないことが多々ある。
同じく長命のドワーフ族とはあまり関わりが少なかったらしい。そのため、エルフ族は多種族から少し孤立しているような立ち位置だ。
「その戦争のことだが、今回はさらに酷い。魔族はエルフ族の領土にも侵攻してくる可能性がある。国王と王妃にはもう話したが、エルフ族と人族は同盟を結ぶこととなった。そこで、エルフの天才魔術師と呼ばれた貴女に協力してほしい。」
ガルトがそう言うと、フィルティアは少し考え、返事を返した。
「…いいよ。キミは面白そうだしね。ボクも久しぶりに外の世界へと行ってみようかな。ただし、僕の話し相手になってくれるのなら、だけどね。」
「話し相手?」
「うん。キミはかなり魔術に詳しいみたいだね。ボクと魔術の話がここまでできた人は少ないよ。皆、魔法陣を見て倒れちゃうから。」
フィルティアは少し寂しそうに言った。才能があるために、他人と会話が成立しないことに不満を抱えていたのだろう。
「…そんなことで良ければ引き受けよう。」
「本当に?本当かい!?」
フィルティアは椅子から立ち上がり、ガルトの目の前に近づいた。
「…あぁ、本当だ。」
ガルトの返答を聞くと、フィルティアはとても嬉しそうだ。
「あ、そうだ。キミの名前は?」
「…ガルトだ。」
それから、フィルティアと一緒にガルトが家から出てきた。アクエスが笑顔で近づいてきた。
「お疲れ様でした。うまくいったようですね。」
「あぁ。良い策だった。」
「ありがとうございます。」
ガルトが会話をしていると、森の方から悲鳴が聞こえてくる。
「…!?」
ガルトはとっさに走り出す。悲鳴を聞くと反射的に体が動くようになってしまった。
悲鳴の元に辿り着くと、エルフ達がゴブリンの群れに襲われていた。ゴブリン達はナイフや斧を所持している。また、鎧を着ているものも多い。
(まずい、奴らはかなりの数だ。それに武装が整っている。どこから侵入した?どこからあれほどの武装を調達した?)
ガルトは剣を抜き、盾を構える。今にもナイフを突き立てられそうなエルフの前に飛び込み、ナイフを盾で弾いた。
「ギィ!?」
ゴブリンは奇声をあげる。ナイフが恐ろしい速度で弾かれたことに困惑しているようだ。ガルトは素早く、ゴブリンの体を両断した。
ゴブリンは声を発する間もなく切られ、絶命した。
「逃げろ。」
「あ、ありがとうございます!」
襲われていたエルフ達を逃がすと、アクエス達が追い付いた。
「ガルトさん、これは一体…?」
「わからない。ゴブリンの整った武装、侵入経路が不明という点を考えると、何者かが意図して行った可能性が高い。お前はすぐにフラワ城へ行き、国王陛下に知らせてこい。」
ガルトは使者に向かってそう言った。
「わかりました。アクエス様、こちらを!」
「あぁ、ありがとう。」
使者はアクエスに細長い革の袋を投げ、城へ急いだ。
「フィルティアはどうする?」
「ボクも着いていこうかな。なんだか大変なことになりそうだし。」
「よし。ゴブリンが現れた方向に向かう。フィルティア、アクエス!」




