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歴戦の騎士  作者: 若葉
一章 放浪
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少女

「………お前、闘気がどんなもんか知ってて言ってるのか?」

「あぁ。」

「………わかった。深くは聞かねえ。聞いてもこっちが驚いちまうわ。ほれ、受け取れ。」


 バッガスはそう言うと、布袋を放り投げた。


「………なんだ」

「なんだって、盗賊討伐の報酬だろうが。」


 袋の中を見ると、金貨が大量に入っている。それこそ、家が一軒買えるくらいの。


「………必要ない。」


 ガルトは金貨をバッガスに差し出した。


「あぁ?必要ないって、お前、金がほしくて冒険者やってんじゃねえのか?」

「俺は………金は要らん。どこかへ寄付してくれ。もう、俺のやるべきことはないからな……………」


 そう言って、ガルトはギルドから出ていった。そして、パール村からも出ていった。


 パール村から出て一時間後、ガルトは森をとぼとぼと歩いていた。辺りはすっかり夜になった。


(………俺は、両親の仇を討った、なのに何故気分が晴れないのだ…)


「………何故……」


(もう俺のやるべきことはない。いっそのこと、ここで自害し、両親の元へ行く方がいいのかもしれない。)


 そう考え、ガルトは剣を抜き、自信の首へと動かそうとした…


「キャー!!助けて!!」

「……!?」


(悲鳴。女の悲鳴だ。この時間帯に森に女が居るなんておかしい。どうやら冒険者でもないようだ。)


 ガルトは声の元へ走った。なんと、少女が魔物に襲われているではないか。


(………【クレイジーベアー】!!餌が不足して、人を襲うようになったか………!)


 ガルトはすぐに剣を抜こうとした………


(駄目だ、斬る前に少女がやられる!)


 ガルトはすぐさま盾を構え、クレイジーベアーの攻撃を防いだ。


「あ、あなたは………」

「走れ!」

「は、はい……」


(うまく少女を逃がした。あぁ、死ぬ前に人助けが出来てよかった。少女を守って死ねるなら、誰かの役に立てて死ねるなら、いいだろう………)


ガルトは何故か爽やかな気分だった。自分でもわからない。少女を助けられたことが、死への恐怖を少しだけ和らげたのだ。


しかし、ガルトにとっても予想外の出来事が起こる。


「や、やめなさい!!」


 ガッ、ガッ、という音がする。足元に石が転がっている。ガルトは石が飛んでくることに気づいた。。ガルトの後ろからだ。すぐに後ろを向くと、少女が石を投げている。


「!?何をしている!速く逃げろ!」

「で、でもこのままじゃあなたが!」

「ガァァァァ!!」


(クレイジーベアが叫ぶ。鼓膜が破れそうだ。誤算だった。まさか少女が戻ってくるとは。これではこいつを倒すしかない。仕方ない………クレイジーベアーは爪が厄介だ。爪を破壊………いや、腕ごとの方が確実だ……!!)


「ハッ!!」


 ガルトは一瞬で両腕を斬った。そしてその後、クレイジーベアーに止めをさした。


「……………」

「あ、あの、ありがとうございます………」

「………何故逃げなかった」


 ガルトは少女に問いかける。


(一歩間違えばこの少女は死んでいたかもしれない……死んでいたかもしれない?………俺は死のうとしていたのに?………俺が言えることではないな……)


「で、でも、あなたがやられてしまうかと思って…」

「………そうか。」


 ガルトは剣をしまう。とりあえず少女を守れてよかった、と安堵した。


「何故このような時間に森にいる?」


 ガルトはまた少女に問いかけた。。ただの娘が夜の森にいる理由はなんなのか、気になった。


「じ、じつは家を飛び出してしまって………」


(家出か。なるほど。)


「………帰るつもりは無いのか?」

「いえ、出来れば帰りたいんですけど………その………魔物が怖くて足が……」


(………まあ、クレイジーベアーに襲われたのだ、仕方あるまい。しかし、ここに少女を置いていくわけには行かない。)


「………仕方ない、今夜は野宿するか。」

「え………?」

「今日は動けなさそうだからな。女を一人森に置いていくわけにはいかん。朝になれば魔物の動きは弱まる。そうしたら自分の家に帰るんだ。いいな?」

「は、はい………」


(…かなり震えている。よほど怖かったのだろう。)


 幸いなことに、近くにちょうどよい洞穴があった。


 ガルトは近くの枝を拾って火を起こし、血抜きをした、クレイジーベアーの肉を焼いた。


「食べろ。」

「あ、ありがとうございます………」


 少女はムシャムシャと食べている。年は15歳くらいだろうか。ガルトはよくもまあ臭いクレイジーベアーの肉を食べられるものだ、と少女を見ていた。少女はよほどお腹を空かせていたのだろうか。


「………何故家を飛び出した?」

「………父と喧嘩してしまって。」

「ほう。」


 それから、ガルトは少女の話を聞いた。少女は冒険者になることが夢であるらしい。しかし、少女の家族と喧嘩になり、家を飛び出してしまったらしい。


「私の父は農家で、私に農業をやらせたがるんです。でも私は冒険者になって、世界を見てみたいんです。いろんな所を旅したり、時には魔物と戦ったり……冒険がしたいんです。」

「………そうか。」


 それからガルトは、少女が寝るまで話に付き合った。時にはすこしアドバイスをした。魔物と戦うことの恐怖、魔物と戦う時に必要なこと等を…


(眠ったか……)


 夜明けまで長い。そして、ガルトも寝た。

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