少女
「………お前、闘気がどんなもんか知ってて言ってるのか?」
「あぁ。」
「………わかった。深くは聞かねえ。聞いてもこっちが驚いちまうわ。ほれ、受け取れ。」
バッガスはそう言うと、布袋を放り投げた。
「………なんだ」
「なんだって、盗賊討伐の報酬だろうが。」
袋の中を見ると、金貨が大量に入っている。それこそ、家が一軒買えるくらいの。
「………必要ない。」
ガルトは金貨をバッガスに差し出した。
「あぁ?必要ないって、お前、金がほしくて冒険者やってんじゃねえのか?」
「俺は………金は要らん。どこかへ寄付してくれ。もう、俺のやるべきことはないからな……………」
そう言って、ガルトはギルドから出ていった。そして、パール村からも出ていった。
パール村から出て一時間後、ガルトは森をとぼとぼと歩いていた。辺りはすっかり夜になった。
(………俺は、両親の仇を討った、なのに何故気分が晴れないのだ…)
「………何故……」
(もう俺のやるべきことはない。いっそのこと、ここで自害し、両親の元へ行く方がいいのかもしれない。)
そう考え、ガルトは剣を抜き、自信の首へと動かそうとした…
「キャー!!助けて!!」
「……!?」
(悲鳴。女の悲鳴だ。この時間帯に森に女が居るなんておかしい。どうやら冒険者でもないようだ。)
ガルトは声の元へ走った。なんと、少女が魔物に襲われているではないか。
(………【クレイジーベアー】!!餌が不足して、人を襲うようになったか………!)
ガルトはすぐに剣を抜こうとした………
(駄目だ、斬る前に少女がやられる!)
ガルトはすぐさま盾を構え、クレイジーベアーの攻撃を防いだ。
「あ、あなたは………」
「走れ!」
「は、はい……」
(うまく少女を逃がした。あぁ、死ぬ前に人助けが出来てよかった。少女を守って死ねるなら、誰かの役に立てて死ねるなら、いいだろう………)
ガルトは何故か爽やかな気分だった。自分でもわからない。少女を助けられたことが、死への恐怖を少しだけ和らげたのだ。
しかし、ガルトにとっても予想外の出来事が起こる。
「や、やめなさい!!」
ガッ、ガッ、という音がする。足元に石が転がっている。ガルトは石が飛んでくることに気づいた。。ガルトの後ろからだ。すぐに後ろを向くと、少女が石を投げている。
「!?何をしている!速く逃げろ!」
「で、でもこのままじゃあなたが!」
「ガァァァァ!!」
(クレイジーベアが叫ぶ。鼓膜が破れそうだ。誤算だった。まさか少女が戻ってくるとは。これではこいつを倒すしかない。仕方ない………クレイジーベアーは爪が厄介だ。爪を破壊………いや、腕ごとの方が確実だ……!!)
「ハッ!!」
ガルトは一瞬で両腕を斬った。そしてその後、クレイジーベアーに止めをさした。
「……………」
「あ、あの、ありがとうございます………」
「………何故逃げなかった」
ガルトは少女に問いかける。
(一歩間違えばこの少女は死んでいたかもしれない……死んでいたかもしれない?………俺は死のうとしていたのに?………俺が言えることではないな……)
「で、でも、あなたがやられてしまうかと思って…」
「………そうか。」
ガルトは剣をしまう。とりあえず少女を守れてよかった、と安堵した。
「何故このような時間に森にいる?」
ガルトはまた少女に問いかけた。。ただの娘が夜の森にいる理由はなんなのか、気になった。
「じ、じつは家を飛び出してしまって………」
(家出か。なるほど。)
「………帰るつもりは無いのか?」
「いえ、出来れば帰りたいんですけど………その………魔物が怖くて足が……」
(………まあ、クレイジーベアーに襲われたのだ、仕方あるまい。しかし、ここに少女を置いていくわけには行かない。)
「………仕方ない、今夜は野宿するか。」
「え………?」
「今日は動けなさそうだからな。女を一人森に置いていくわけにはいかん。朝になれば魔物の動きは弱まる。そうしたら自分の家に帰るんだ。いいな?」
「は、はい………」
(…かなり震えている。よほど怖かったのだろう。)
幸いなことに、近くにちょうどよい洞穴があった。
ガルトは近くの枝を拾って火を起こし、血抜きをした、クレイジーベアーの肉を焼いた。
「食べろ。」
「あ、ありがとうございます………」
少女はムシャムシャと食べている。年は15歳くらいだろうか。ガルトはよくもまあ臭いクレイジーベアーの肉を食べられるものだ、と少女を見ていた。少女はよほどお腹を空かせていたのだろうか。
「………何故家を飛び出した?」
「………父と喧嘩してしまって。」
「ほう。」
それから、ガルトは少女の話を聞いた。少女は冒険者になることが夢であるらしい。しかし、少女の家族と喧嘩になり、家を飛び出してしまったらしい。
「私の父は農家で、私に農業をやらせたがるんです。でも私は冒険者になって、世界を見てみたいんです。いろんな所を旅したり、時には魔物と戦ったり……冒険がしたいんです。」
「………そうか。」
それからガルトは、少女が寝るまで話に付き合った。時にはすこしアドバイスをした。魔物と戦うことの恐怖、魔物と戦う時に必要なこと等を…
(眠ったか……)
夜明けまで長い。そして、ガルトも寝た。