ギルバスの策略と古代の遺物
王都では防衛大臣のギルバスが城の自室でワインを飲んでいた。
「フン、あの氷ジジイが…成り上がりの貴族ごときが何を偉そうに陛下に意見を申しているのだ。」
ギルバスはアイシクル将軍の意見が採用されたことがとても気に入らない。あれから毎日、昼間から酒を飲みつつ一人で愚痴を言っている。
今日もまた酒を飲んでいると、扉をノックするおとが聞こえる。
「入れ。」
「失礼します。」
入ってきたのはギルバスの部下であった。
「ギルバス大臣、『例の時計』が手に入りました。」
「…!真か!!それは良い知らせだ。これで私の地位は確保されるぞ…!!直ぐにライデン殿に知らせるのだ。くれぐれも、内密にな。」
「了解しました。」
そして、部下は大臣の部屋を後にした。部屋の中ではギルバスが黒い笑みを浮かべながら笑っていた。
「フフフ…ハハハハハハ…アッハッハッハッハァ!!ようやく私に運がついてきたな。残るは二つ…あと二つ見つけさえすれば…」
大臣の笑い声が部屋中に響く中、扉の前ではアイシクル将軍がこの一部始終を聞いていた。
「やはり、魔族と繋がっているようだな…ギルバスめ…何を企んでおる…?」
アイシクル将軍はその場から離れ、側にいた従者を呼び止めた。
「国王陛下に伝えてくれ。エルフ族への訪問を急ぐ必要があるとな。」
従者が急いで王の間へ向かうと、アイシクル将軍は一言呟いた。
「儂がこの国に居るうちは大丈夫だろうが…やはり、頼りになるのはガルト殿だけ、か…」
ガルトがミート村に来てから3ヶ月程が経ち、ミート村には雪が降り積もった。この時期になるとフォレストボアも見かけなくなり、白い世界が広がっている。緑の森も美しいが、この白い森もまた美しい。
作物も保存をしてあるものを食べるようになった。この時期は魔物が少なくなるため、畑が荒らされることもない。しかし、畑で育つものもないため、あまり意味はない。
「…討伐の依頼が少ないな。」
ガルトはいつものようにギルドへ来たが、今日は一段と討伐依頼が少ない。魔物が少ないということが大きいが、とても少なすぎる。
「ん…これは?」
ガルトは一枚の依頼を掲示板から取った。内容は、遺跡の調査だ。
「遺跡…」
この依頼はギルドから出されていた。依頼は誰でも出すことが出来る。ギルドから出される依頼は珍しくはないが、遺跡の調査の依頼は珍しい。
「これを頼む。」
「あ、ガルトさん、遺跡の調査にするんですね。何でも、この近くで古代文明の遺跡が見つかったそうです。でも、皆古代兵器が眠ってると言って、誰も受けたがらないんですよ。」
(…毎日のことだが、聞いていないことをよく喋るものだな。)
この受付はかなりのお喋り好きらしく、ガルトが聞いてもいないことを毎日喋る。ガルトは情報が得られるため、嫌っているわけではない。
「了解した。ありがとう。」
ガルトは依頼書の地図を確認すると、腰にしまう。この辺りの地形も大体は覚えることができたため、地図を一目見るだけでわかるようになった。
(しかし、山の中に遺跡があるとは。)
ガルトは村から少し離れた山へと到着した。どうやらこの山の下に遺跡があるらしい。遺跡は地下へと続いているそうだ。
「…ここか。」
山の回りをぐるぐると回っていると、遺跡の入り口を見つけた。
「…例の古代文明のものか。」
ガルトは躊躇せずに遺跡に入る。内部はとても暗かった。
(【闘気解放・無】、【闘気剣術・神眼の型】)
ガルトは心の中で唱えて闘気を解放した。これでよく見えるようになった。
遺跡の内部には所々に人の形をした人形がおいてある。人形は黒くて重い。
「…光?」
遺跡の中を進んでいくと、一筋の青い光が見えた。光のほうへ進んでいくと、一つの部屋へと辿り着いた。
その部屋は研究室らしく、ガラスの破片が飛び散り、液体の痕が残っていた。
「これは…!?」
ガルトが進んでいく中で一つの装置を見つけた。ガラスのような装置の中には先程の人形と液体が入っており、人形には青く光る線が入っている。そして、この装置だけはどうやら動いているらしい。
「人形が青く光っている。これは機能しているということか?ということは、先程の黒い人形は壊れていた、というわけか。」
ヒフキヤマ王国で見た黒い鎧もおそらく壊れてしまっているのだろう。ガルトは自分の中の小さな疑問が解消されたことで、すこしスッキリした。
ガルトがまじまじと人形を見ていると、突然装置が動きだし、ガラスのようなものが取り外される。中の液体が溢れだし、部屋中が水浸しとなる。
「…!?」
ガルトは咄嗟に剣と盾を構える。人形が敵対する可能性があるからだ。
「…▶▥!★▶#▩◇▥?▶◇▶★!!」
「……何を言っている?」
突然未知の言語で話しかけられ、ガルトは少し困惑した。
「…失礼。ヒマテドリエ語を話されるのですね。」
「…魔物ではないのか。」
ガルトは敵意を感じられないため、剣を鞘に納めた。
「お前は何だ?」
ガルトが問いかけると、人形は答えた。
「私はサポート型ガーディアンです。製造番号234056番。ニルガデラにて製造されました。」
「…?」
ガルトがさらに困惑すると、今度はガーディアンが問いかける。
「失礼ですが、貴方はここの新しい管理者ですか?」
「…俺は、冒険者だ。」
「ボウケンシャ……データ上にはない単語です。それはどういったものですか?」
この人形は言葉を話し、そして会話も出来る。さらに、知らない言葉があると自ら質問する。まるで六種族と同じだ。
「…冒険者は旅をしながら依頼を受けて報酬を得る仕事だ。」
「なるほど。ボウケンシャをデータに追加します。私の管理者は何処かご存知ですか?」
「…管理者とは何だ?」
「管理者とは、特定の施設を制御する権限を持つ者を指します。」
ガーディアンは回りを見た。
「…どうやら、施設が正常に機能していないようです。修理プログラムを実行します。」
ガーディアンがそう言うと、ガーディアンの体が発光する。
「…整備型ガーディアンが正常に機能していないようです。修理プログラムを実行できません。」
「お前は何をしようとしているんだ?」
ガルトはガーディアンの行動が読めずに困惑している。先程から困惑することばかりだ。
「…【クォール文明】は健在ですか?」
「…知らない名前だな。」
ガーディアンからの突然の質問にガルトは一瞬言葉が詰まった。
「…どうやら我々の文明は存在していないようです。どの施設にも接続できません。緊急時につき、貴方を一時的な管理者に任命します。お名前をどうぞ。」
「……ガルトだ。」
ガルトは考えることを一時的にやめることにした。何を言っているのかがわからない。わかったことは、このガーディアンは古代文明のもので、古代文明は【クォール文明】ということだ。
「ガルト様。管理者の登録が完了しました。指示をお願いします。」
「…教えてくれ。この遺跡…いや、この施設は何だ?」
「はい。ここは第7ガーディアン製造所です。ガーディアン製造所は34か所あります。他の製造所は停止しているようです。」
「クォール文明とはなんだ?」
「はい、クォール文明はガーディアンと人族が共生する文明です。」
ガルトは悩んだ。この遺跡の正体を知ることは出来たが、ギルドにどうやって報告するかだ。ガーディアンを連れていくわけにはいかない。
「どうかしましたか?」
「…いや、何でもない。」