ヌマオオガニ
ガルトが学園の話をした翌日、ガルトはいつものようにギルドへと来ていた。ギルドの扉を開けると、中では冒険者が依頼の受注を行っていた。
「おはようございます。ガルトさん。」
「あぁ。おはよう。」
いつぞやゲイルと揉めていた受付とも少しは話をするようになった。当のゲイルたち一行、【猛牛の力】ともフォレストドラゴンの件以来、ちょっかいをかけられることもなく、それどころかゲイル達はギルドにたいして献身的になったのだ。
「今日の依頼は何にするんです?今日はビッグホッパー、マウンテンアント、ヌマオオガニ等が入っていますよ。」
受付は掲示板を指差していった。
「…ヌマオオガニとは珍しい。この辺りに沼地があったのか。」
「いや、沼地は近くにはありません。最近の大雨で出てきてしまいまして…今のところ被害は出ていないのですが、なにしろCランクのモンスターですからね…一般人にとっては危険なため、依頼が出されたんです。」
依頼を見ると、ヌマオオガニの討伐報酬は金貨一枚だ。
「ではヌマオオガニを受けよう。」
「ありがとうございます。では、受注しておきますね。」
受付は依頼書に印を押し、ガルトに書類を差し出した。
「どうぞ。」
「ありがとう。」
依頼書を受けとると、ガルトは依頼書の地図を見る。
「…村外れの池か。」
ガルトは道を歩く。時々馬車を引いた商人が通る度に軽く頭を下げる。やがて村外れの池に着くと、目当ての魔物がいた。ガルトはすぐに木の影に隠れる。
「…通常のヌマオオガニよりも大きい。やはり普通のものではなかったか。」
ガルトはこの依頼を受けた時点で気づいていた。通常のヌマオオガニは沼の中を住みかとしていて、人に目撃されることは少ない。それが、水の綺麗な池に住んでいて人前に顔を出すことはまずない。
「狙うのは口の辺りか…」
ガルトは剣を抜き、盾を構えて突進する。厄介な2本の爪を弾き、ヌマオオガニは仰向けになった。仰向けになったところで剣を両手で持ち、口の辺りへと深く突き刺した。
ヌマオオガニはジタバタと暴れていたが、二十秒ほどすると動かなくなった。
「…終わったか。」
ガルトはヌマオオガニから降りると、ナイフを取り出す。ヒフキヤマ王国で貰った、歴戦の騎士が使っていたとされるナイフだ。
ナイフを取り出すと、手慣れた手付きでヌマオオガニを解体していく。間接の部分から刃を入れるとやりやすい。肉の部分を切り分け、爪、足、そして胴体。
(こいつからはいい出汁が取れる。この綺麗な水の中で育ったものなら臭みも無いだろう。)
本来ヌマオオガニは沼地に生息しているため、臭いがきつい。だからヌマオオガニを食べる人は少ない。しかし、このヌマオオガニは解体中も臭みが少なく、美味しく食べることが出来そうである。
「解体は終わった。あとは縄か。」
まず、ガルトは解体したヌマオオガニの胴体を自分の背中に縛り、背負うようにした。足と爪は別々にして縛り、両手で持つようになった。
討伐を証明するためにはギルドに素材を持っていく必要がある。ガルトはヌマオオガニを背負い、運んでいく。思ったよりも身が詰まっているようで、かなり重たかった。
ギルドに着くと、もう昼になっていた。昼とはいえ、まだ冬であるからすこし寒い。ガルトはギルドの外にある解体場へと向かう。
解体場へと着くと、朝とは別の職員がいた。
「お疲れ様です。あ、解体も終わっているんですね。ありがとうございます。」
ここのギルドでは自分で解体をして持っていくと報酬が一割増しになる。お得だ。
ガルトは依頼書を職員に渡し、ヌマオオガニを降ろす。解体担当の職員が引き取り、状態を確認していた。
「はい。ヌマオオガニですね。討伐ありがとうございます。魔物の素材はどうしますか?」
「全て引き取らせて貰おう。」
「了解しました。今回は討伐が依頼ですので、依頼達成となります。では、こちらが報酬となります。」
そう言って職員は金貨一枚と銀貨一枚を渡した。
「ありがとう。」
報酬を受けとると、解体担当の職員が慌てた様子で飛んできた。
「こりゃあ大きい。普通の1.5倍はあるな。兄ちゃんよく倒したなぁ。解体方法も完璧だ。プロの俺らから見ても文句無しの腕前だ。よくやった!」
ここの解体担当は声が大きく、フレンドリーだ。誰かがランクの高い魔物を討伐すると解体担当の職員全員がお祭り状態となり、討伐者は英雄扱いされる。
ガルトは毎回解体がとても丁寧にされているため、ここの職員からは度々勧誘を受けている。長年解体を続けている職員でさえ、ガルトの解体方法には文句を一つも言えない程のレベルである。
ガルトは再びヌマオオガニを背負い、リナの家へと向かう。家へと歩きながら、ガルトは残ったカニの使い方を考えていた。
(鍛冶屋へ持っていって、爪は鎌に加工して貰おうとしよう。鉄以上の固さのあるこの爪なら上等な鎌になるだろう。甲羅は盾にも使えるな。肉は食用にし、残った足の殻は使い道がないから出汁を取るときにでも使うか。)
そんなことを考えながら歩いていると、リナの家へと到着した。