剣王の記録 part1
博物館に入ると、殆ど壊れた大きな大砲のようなものが展示されていた。
「これが動く砲台ですか?」
「あぁ。この車輪の代わりのようなもので動いていたらしいぜ。どういう技術なのかはわからん。」
三人は博物館の中をゆっくり歩きながら見た。大きな鉄の鳥、刃先のなくなった槍、よくわからない鎧。様々なものが展示されていた。
そして、ガルトが不意に立ち止まった。ガルトの目の前には1本の剣が展示されている。
「…素晴らしい。最高品質の剣だ。この世にこれ以上の剣は無いだろう。」
ガルトがまじまじと見ていると、ダイモンが気になる発言をした。
「まぁ、そいつは剣王が使っていたからな。」
「…剣王?」
ガルトは【剣王】という言葉に強く反応した。ガルトが修行をした場所が剣王に関係のあるところであったからだ。
「そいつはこの国の国宝だ。伝説では剣王が使っていたそうだな。そうだ、この先の石板に剣王に関するものがある。見ていくか?」
「…あぁ。」
正直、ガルトは少し興味を持っていた。あの特殊な修行場を作った人物が何者なのか。
博物館の一番奥に最後の部屋があり、巨大な石板が置かれていた。そこには、剣を空へと掲げている一人の人物と人々が描かれ、戦っているような様子であった。人々は先程のよくわからない鎧を着ていて、その人物の剣は光輝いているように描かれていた。
「これが石板だ。光っている剣を持っているのが剣王だと言われている。この石板を見る限り、剣王はとても強かったらしいな。」
石板の横には文字が刻まれている。現在は六種族共通で【ヒマテドリエ語】が使われているが、昔は違っていた。
「昔の文字か?」
「あぁ。古代文明の言葉だな。解析によるとこう書かれているそうだ。『大陸が乱れる時、一人の剣士が居た。剣士は光輝く剣を用いて戦乱の世を生きた。光の刃が忌まわしい兵器を壊し、この地に平和をもたらすまた一つの光となった。』だとよ。」
おそらく、この光輝く剣というのが先程のこと剣だろう。
「石板はこれだけなんですか?」
「あぁ。これだけだな。この地に伝わる石板や遺産はこれだけだ。」
「そうか。」
そう言うと出口へと向かうガルトに、ダイモンが声をかけた。
「おい、ガルトは何か買っていかなくてもいいのか?親だったり…友達だったり。土産はいらねぇのか?」
「ふむ…」
少し考えた後、ガルトは土産を買っていくことにした。この前は四人に剣とナイフを渡したので、今度は何か別のものを買うことにした。
「どれが良いのか…」
ダイモンは商品を見て悩むガルトを見ると、ジュラドの肩を掴んで言った。
「俺達は先に行ってるぜ。入り口で待っているから終わったらこいよ。」
ジュラドは半ば強引にダイモンに連れていかれてしまった。
(時間をかけ過ぎてしまったか。)
ガルトは古代兵器の模型を買った。動く砲台、鉄の鳥、よくわからない黒い鎧、刃先が復元されている槍。どれも拳大の模型だが、精巧に作られている。流石は技術が発展した国だ。
(これでよかろう。)
ガルトが店を出ると、先程の剣が紅く光輝いている。
「これは……?」
ガルトは近づいてみることにした。不思議と、ガルトが近づけば近づくほど光は強くなる。
何故かはわからないが、急にガルトは剣に触れてみたくなった。ガルトが剣に触れると、脳内にある景色が流れてきた…
…そこは険しい山々であった。男が二人歩いている。一人は紫髪で、顔は太陽の光で見えなかった。紫髪の男が持つ剣は剣王の剣であった。もう一人は青髪に水色の眼で、帽子と長い杖を持っていた。
(あれが剣王か……?)
ガルト自身は動けない。同じ場所には居るというのに、何故か足が動かない。顔は動かすことが出来た。周りを見渡すと、見覚えのある場所だった。そう、【剣王の修行場】だ。しかし、修行場がある筈の場所は、何もない洞窟であった。
「…×××、本当にいいのか?君を超える才能の持ち主が他に現れるとは思えない。考え直すことは出来ないのか?」
青髪の男が語りかけると、紫髪の男が答える。
「…私はもう決めたのだ。私の集めたアーティファクトも、君が集めた本も、全てここに保管しておく。そして、次の世代に託すのだ。そう決めたであろう?戦争は終わった、だが未だに世界は不穏な空気に包まれている。将来、戦争はまた起こるだろう。その為に、託す必要があるのだ。」
「し、しかしだな……これは難しい魔法だ。いくら僕が魔術を極めたとはいえ、これは…」
青髪の男が苦い表情を浮かべると、紫髪の男は頭を深く下げた。
「頼む。私が頼れるのは君しか居ないのだ。私はもう、この世界を救うことは出来ない。今を守ることは出来ても、未来を守ることは出来ないのだ。今を生きる私たちが出来ることは、次の世代に引き継ぐことだけだ。わかってくれ……」
青髪の男はため息をつくと、杖を構える。
「…やれるだけのことはやるさ。将来に起こる、人族と魔族による戦争を止めるためにね。でも、止められるという確証はない。いいね?」
(人族と魔族の戦争……!?仮に彼が剣王だとして、何故知っている…!?)
紫髪の男は少し黙ったが、何かを決意したかのように声を張り上げた。
「あぁ。最後までやれることはやろう。…いつの日か、私の剣術を受け継ぐ者と、君の魔術を受け継ぐ者が現れることを祈ることにしよう。」
そして、杖から光が溢れだし、洞窟は形を変えていった………
「……戻った…のか…?」
ガルトは少しふらふらとした様子で跪いた。
(あれは、過去の記憶…いや、記録なのか?おそらく彼は剣王なのだろう。だが、何故三千年前の彼らが魔族と人族の戦争が起こりうることを知っている……?)