誤解
「………誰だ」
ガルトは声の主に目を向ける。
(腰に二つの剣、二刀流か。そして奴の気からわかる。この男はこれまで何人殺してきたのだろう。)
「んで、君盗賊の仲間?この依頼は王都の冒険者が受けるはずなんだけどなぁ?ってことは君冒険者じゃないよね。なら盗賊かぁ。」
(………どうやら何か勘違いをしているようだ。俺はギルドから正式に依頼を受けている。)
「………俺はパール村のギルドで依頼を受けた。疑うのなら確認をすればよい。」
「へぇ……そっかぁ……なら確認をしてからまたくるよ………なんてねっ!!ハアッ!!」
二刀流使いは素早く剣を抜く。それと同時にガルトも抜く。
ガキン!!という鈍い音を立てて両者の刃がぶつかる。両者の武器が小刻みに揺れる。
「逃がすわけないだろう、極悪非道な盗賊さんよぉ?」
「………ふむ」
(この男……片手で振っているにも関わらず凄まじい力だ………少しでも気を抜けば斬られるな…)
その時、男が後ろへ下がる。
「へぇ、これを受けるんだ……盗賊にしてはいい腕してるわ………まあいいよ。見せてあげる!【風の勇者】の力を!」
………勇者。
それは、魔族と人族の争いが始まってから選ばれた英雄である。炎、水、風、土、光、闇を司る神獣に選ばれたものが勇者となる。
勇者となった者は神獣から一つ武器を与えられる。
その武器には強力な属性の力が込められており、
各属性の頂点に立つことが出来る。
(武器を見たときにもしやと思ったが………やはりこの男は勇者だったか。)
「フン!!」
ガルトが勢いよく踏み込み、斬りかかる。しかし、刃が届く瞬間、男が消えた。
(………上か。)
「ハァ!!」
男が剣を振る。ガルトは天井に向かって大きく横に剣を振る。またしても鈍い音を立てて、男の剣を弾いた。
「イッ………これも受けるのかよ………化け物だな、お前。」
(ふむ………確かに勇者の実力はある。あぁ、【グリフォン】と戦ったときを思い出す……しかし、人族の英雄にしてはなんとも単調な動きだ。)
「………もういいや。悪いけどもう終わりにさせて貰うよ。」
「………?」
(終わり?奴は降参したのか?)
「………ハァ………【闘気解放・風】!!」
ゴォォォォ!という音を立てて、奴の回りに竜巻が起こる。その直後、奴の回りに緑色のオーラが現れる。風属性の闘気だ。
「………ほう、闘気解放、か。」
…闘気解放。闘気とは修行により得られる気のことだ。別名、オーラとも言われる。闘気解放は修行のみで得ることが出来るスキルだ。闘気には段階があり、一段階、二段階、三段階、属性闘気、という四段階にされている。普通スキルは神から与えられるもの、とされているのが一般的だが、修行をすれば得ることも出来る。
「フゥ……遊びは終わりにしようか。盗賊さん♪」
(………この男は属性闘気の域まで達している………)
「………いいだろう。俺もこれ以上茶番に付き合うつもりはない。」
ガルトは深く深呼吸をした。
「……フゥ………」
「………!?お前、一体何して……!」
「………【闘気解放・無】」
同時に、ガルトの体から銀色のオーラが立ち上る………
【闘気解放・無】。これはガルトが修行で編み出したものだ。普通、闘気は極めれば己の属性の色へと変化をする。
………しかし、ガルトには属性がなかった。
(どんな生物にも属性がある。しかし、何故かだけは属性がなかった。だが俺は闘気を使うことは出来た。そして極めた結果がこれだ。)
「………終わりにしよう、風の勇者。」
ガルトは一瞬で風の勇者の懐に入り、剣を横に振る。風の勇者から血しぶきが出た。
「ガハッ………」
「………」
ガルトは風の勇者を殺してはいない。ただ、少し腹に傷を付けはした。
「………止血はしておくか。」
ガルトは男に応急手当をし、そのまま抱えてギルドへ帰った。
「が、ガルトさん!?」
受付嬢が外で待っている。なにやら驚いた様子だ。
「盗賊はすべて始末してきた。それと、どうやら依頼に手違いがあったようだ。この男に盗賊と誤解された。」
「え、この人が………って、風の勇者様!!?」
「どうもそうらしいな。」
「ちょ、ちょっとバッガスさん~!!」
受付嬢は大慌てでギルドマスターを呼びに行った。
「………で、盗賊を全員倒して勇者様も返り討ちにした、と。」
「そうだ。」
ガルトはギルドの奥へと連れていかれ、ギルドマスター、副ギルドマスターから事情聴取を受けていた。
「………おめぇがただ者じゃねえのは俺もわかってた。でもまさか勇者を倒しちまうなんて信じられねえな………」
「ええ、私もです………」
この取り調べには副ギルドマスターもいる。副ギルドマスターははメガネを整えながらガルトに尋ねた。
「ではガルトさん、一体どのようにして勇者様を倒したのです?」
「闘気を使って奴の懐へ入り、そのまま腹を刺した。」
「………闘気ですって?」