ヒフキヤマ王国の観光
二人の魔族が逃げていった後、ジュラド、ダイモン、ガルトの三人は城へと戻っていた。
「此度は我が国に協力していただいた。本当に感謝するぞ、人族の英雄達よ。」
「…俺はそんな大層な人間ではない。」
ガルトはそっけなく答えた。ガルトは感謝されるという経験がなかったため、今時分が何をいわれているのかがわからない。ガルトは少し戸惑っていた。
「折角だ。この後は数日間滞在するのだろう?この都市を観光するが良い!!欲しいものがあれば、俺が全て支払おう!」
アカツチは声を張り上げてそう言った。
「いいじゃねぇか。俺が観光案内をしてやるよ。」
「む?ダイモン、俺はお前の代金は払わんぞ?」
「な、なんだと…このケチ国王!!」
支払いを期待していたダイモンだったが、あっさりと断られてしまい、少し肩を落としていた。
「そうですね。折角なら行きましょう。俺も、ドワーフの都市を見回ってみたいです。」
「…そうか。」
ジュラドが行きたそうにしていたこともあり、ガルトはダイモンに連れられて都市を回ることになった。
最初に案内されたのは食堂であった。中ではドワーフが酒をのんでいた。時刻は夕方。まだ少し早い気がするが…
「ビールを三つ。」
ダイモンは適当な席につくと、カウンターに向かって叫んだ。
「あいや、俺はお酒をのめる歳ではなくて…」
アストラル国では20歳を越えると飲酒が可能とされている。ジュラドはまだ18歳だ。
「うーん、ドワーフには酒の年齢制限なんてモンはねぇんだがなぁ…おい、こいつのはブドウジュースにしてやってくれ。」
ダイモンがそう言うと、奥から店員らしきドワーフが出てきた。女性のドワーフだ。そのドワーフは机にビール二杯と、ブドウジュースを置いた。
置かれたビールをダイモンは一気に飲んだ。ドワーフは酒好きというが、数秒で飲んでしまった姿を見て、ガルトとジュラドは少し驚いた。
「おかわりを持ってきてくれ。あ、今日の代金は国王陛下に請求しといてくれ。」
カウンターに向かって叫んだ後、ダイモンはガルトの方を見た。
「…どうした、飲まねぇのか?」
「…いや、そういうわけではない。」
ガルトは兜を少し上げ、ビールを飲んだ。
「…お前さん、食事の時もその兜を外さねぇのか?」
「…あぁ。」
「どうして外さないんですか?」
「…」
「どうして」、と聞かれてガルトは言葉が出なくなってしまった。幼い頃のトラウマが、ガルトを恐怖に陥れているのだ。兜の中は落ち着ける。実際、ガルトは寝るときも、食事をするときも鎧を着たままだ。唯一外すのは風呂の時だけだ。
「…まぁいい。訳アリみてぇだしな。」
いつの間にか置いてある二杯目のビールを飲みながらダイモンはそう言った。白い髭に泡が着き、髭がさらに濃くなったように見える。ジュラドもブドウジュースに口をつけていた。
「…あ、飲み物だけで食い物を頼まなかったな。おい、『フォレストボアの香草焼き』を三つくれ。」
ダイモンがまたカウンターに向かって叫んだ。
「へへへ、折角ヒフキヤマ王国に来たのならこの国の料理が食べてぇよな?フォレストボアの肉は多くの国で食べられてるが、ヒフキヤマ王国の香草焼きはちっと違う。まぁ、楽しみに待つんだな。」
十五分ほど談笑していると、香草焼きが来た。肉の良い香りと香草の香りがちょうど良い。肉は肉汁が溢れ、ナイフで切ればもう止まらないだろう。
「良い香りですね…」
「だろ?こいつにはな、ヒフキヤマ王国特製の香辛料と、薬草や香草を使ってるんだ。この国特別な唐辛子と一緒に肉を焼き、胡椒を振る。こうするととても旨い。」
「ほう。それは楽しみだな。」
ガルトは肉にナイフをいれた。予想通り、肉汁が溢れ出す。フォレストボアの肉はリナの家でも出されたが、香草焼きは初めて食べる。そのままフォークを口へと運んだ。
胡椒と唐辛子のバランスが良く、肉の臭みを香草が消している。そして、噛むほどに止まらない肉汁が、ガルトとジュラドの口内を飛び回る。
「わぁ、美味しい。。辛い料理はあまり食べたことがありませんが、本当に美味しい。」
「うむ、これはとても旨いな。香草が肉の臭みを消している。この肉汁がなんとも言えん。」
「気に入ってもらえて良かったぜ!おかわりが欲しければ言ってくれよな!」
ダイモンも上機嫌になり、残ったビールを一気に飲み干した。




