風魔将 シルフィー
そう言うと、シルフィーは片手を上へかざした。すると、どこからか杖がでてきた。杖は150~160cm程あり、先端には巨大な魔石が付けられている。
「魔王の武器まぁ、アーティファクトか。【獄風ノ杖】…私の武器。特別だよ?普段は見せてあげないんだからね。」
「アーティファクト…!?一体、魔族はいくつアーティファクトを持っているんだ!?人族でも持っている人は少ないのに!」
ジュラドがそう言った直後、シルフィーが杖をかざす。
「【風弾】百連発!!」
シルフィーがスキルを使うと、シルフィーの周りに十個の魔方陣が現れた。魔方陣から【風弾】が打たれる。
「シィィィ…」
ジュラドは深く深呼吸をし、目を瞑る。二秒程目を瞑った後、勢い良く目を開き、同時に抜刀する。
シルフィーが放った【風弾】を、ジュラドは刀で弾いていく。合計百個の【風弾】を受けて見せた。
「へぇ…先ずは第一関門クリアかな。さすが勇者君だ。すごいすごい。」
「バカにしてるのか…?【闇斬】!!」
ジュラドもスキルを使う。闇属性の魔力を刀に溜め、一気に抜刀することで斬撃を放った。
しかし、シルフィーはいとも簡単に斬撃を交わして見せた。
「おぉっと、危ない危ない。それにしても君さ、魔法使いに、しかも、風魔法の使い手に遠距離戦をしようだなんて、無謀にも程があるんじゃない?もしかして君、戦闘経験浅いのかな?」
「ッツ!!うるさい!!」
ケラケラと笑いながらからかうシルフィーに、ジュラドは顔を赤くして怒鳴った。
「まぁでも~、私からしたら君は強い方だと思うよ?その年齢でスキルも神器も扱えるのはね。君さ、魔族側来ない?何なら私が魔法使いとの戦い方をレクチャーしてあげるよ~?」
「誰が行くもんか!!」
ジュラドは刀を鞘に納め、高く飛んだ。シルフィーの前まで来ると、刀に手を伸ばした。
(速ッ…何?この子。一瞬で私の前に来られたんですけどー。可愛いだけじゃなくてちゃんと戦えてるじゃん。適応力が高いのかなー?)
一瞬、シルフィーの表情に余裕がなくなるが、すぐに表情が戻る。ジュラドの横の抜刀を、上に上がって避ける。またしてもジュラドの攻撃は避けられてしまった。
「今のはちょっと焦っちゃったなぁ…君、適応力高いじゃん。何故君が神器に選ばれたのかがわかったよ。君は元々のポテンシャルが高い。伸び代がかなりあるんだねー。羨ましいなぁ…」
シルフィーは空中をフヨフヨと浮きながらそう言った。シルフィーは空中で逆さまになり、髪が垂れ下がると、また口を開いた。
「うーん、そろそろ研究室に籠りたくなってきたし…そろそろ終わりにしちゃおうかなぁ…」
シルフィーが再び杖をかざす。杖の魔石か光り、魔力が集中する。シルフィーの体内から、すさまじい量の魔力が集中しているのだ。
「私の大技、とくとご覧あれ!!…って、死んじゃうかもだけど。」
魔力が完全に集中したとき、シルフィーの杖から強力な魔法が放出された。
「【業風球】!!」
杖からは強力な魔法、【業風球】が放たれた。凄まじい量の風の魔力が凝縮された球体がジュラドに向かってくる。
「これに当たったら体が引きちぎれちゃうよー。精々がんばれー。」
「ぐぅぅ!!」
ジュラドはすぐ逃げようとするが、その風圧で身動きが全く取れない。ジュラドに【業風球】が直撃する直前、突如、小柄な人影がジュラドの前に現れた。
「【重圧】!!」
小柄な人影が右手をかざすと、【業風球】は跳ね返っていった。
「うわぁっ!?こっちに来るとか聞いてない聞いてない!!」
慌ててさらに上空へと逃げたシルフィー。辺りは風圧で砂ぼこりだらけで、小柄な人影の姿が見えない。
「私の【業風球】を跳ね返すなんて…何者?」
「…ヨォ、姉ちゃん。俺の故郷でよう暴れてくれたみてぇじゃぁねぇか。」
砂ぼこりが消え、その姿が見える…巨大なハンマーを担ぎ、鎧を身に纏った英雄の姿が。
「あ、あなたは…」
ジュラドが驚いていると、その英雄は笑って見せた。
「…また会ったな。兄ちゃん。一人でこのレベルとやり合うなんてな。大したもんだ。あとは俺が引き受けるぜ。」
ジュラドに言葉をかけたあと、ダイモンはハンマーを片手で勢い良く地面に振り下ろして怒鳴った。
「姉ちゃんら…俺の故郷に手を出した代償は高いぜ………俺が叩き潰してやらぁ!!」
採掘場全体にダイモンの声が響き渡る。そばで戦っていたガルトとフレイアも、その気迫に驚いて戦いを中断した。