修行
ガルトが使者へ返事を返し、ふとドアの横を見る。リナ達へ買ってきた剣とナイフが目に写った。
「ふむ………悪いが、三日待って貰えないだろうか。」
「何かご用事が?」
「あぁ。教え子に指導をしなくてはいけない。遠出をするとなると支度も必要だ。三日後の朝、またここへ迎えにきて頂こう。」
「承知致しました。国王陛下にそう伝えておきます。」
そういって使者は馬車へと乗り込み、ミート村から去っていった。
そして、ガルトは森の方へと向かった。昨晩、ガルトがリナの両親に聞いたところによると、リナ、ドラン、キッド、マサの四人は森の中で特訓をしているのだとか。畑仕事を放り出すリナに、両親は少し困っている様子であった。
(リナの両親に恩を返す為にも、俺が動くべきか……)
ガルトはそう思いながら、森を進んでいく。時刻は昼。森は光に満ち溢れている。この森は前回フォレストドラゴンが出た森だ。フォレストドラゴンが出た影響で、森の魔力がとても高くなっている。そのため、希少な薬草が多くなり、魔物の殆どがフォレストドラゴンに恐怖して居なくなるという、珍しい現象が起きている。簡単に言えば、希少素材が豊富で、極めて安全な森、ということだ。
「ん……あれか。」
ガルトは森の中で木の棒を振り回す四人を見つけた。
「………何をやっているんだ?」
ガルトが見たのは、樹木に向かって木の棒を何度も叩きつけているリナ達であった。
(悪くはないが……あれでは実践には使えない………)
ガルトは少し呆れた様子でリナ達に近づいた。
「あ、ガルトさん!!」
一番最初にリナが気づく。それからキッド達も駆け寄ってくる。
「ガルトさん、どうしたんですか?」
マサの問いに対してガルトが答えた。
「…剣の指導をしに来た。お前達に教えると約束したからな。」
「本当ですか!?どんな練習をするんです?」
キッドを無視して、ガルトは手頃な棒を手に取った。
「…生憎、俺は人に剣を教えられたことはない。全て我流だ。俺の指導は一つ。四人同時にかかってこい。俺に1本入れてみせろ。それだけだ。」
「え、基礎的な練習はしないんですか?素振りとか。」
ドランは首をかしげて言った。
「実践が何事にも一番だ。模擬戦を行うことで基礎的な技術は身に付く。さぁ、かかってこい。」
そういってガルトが構える。それと同時に四人も構えた。
「いきますよ……ガルトさん!!ハァッ!!」
最初に攻撃してきたのはキッドだった。勢いの良い上段からの攻撃。しかし、ガルトには当たらず、キッドは腹を蹴られてしまった。
「グハァッ!!」
キッドが草むらへ転がる。
「遅い。それでは対人戦には使えん。常に攻撃と防御のバランスを意識しろ。」
次に来たのはドランだった。ドランは下から滑り込み、ガルトの足を狙った。
「ハァッ!!」
ドランが棒で叩こうとするが、ガルトは上に飛び、ドランの頭へと棒を振り下ろした。
「グエッ!!」
ドランは倒れ込み、ピクピクと痙攣している。
「攻撃方法は悪くない。防御を意識しろ。」
次にマサとリナが同時に来た。
「ほう、一人ではなく二人で来るか……悪くない。」
この時、ガルトは初めて自分から走り出した。そして、マサに足をかけて転ばせ、蹴り飛ばす。同時にリナの胴へと棒で一撃を入れる。二人も草むらへと転がってしまった。
「ふむ…二人で来ることは良い。だが、お互いの息を合わせなくては成り立たない、困難な技だ。」
「うぅ……ガルトさん強すぎますよ………」
マサが泣き崩れたような表情を浮かべる。
「今から夕方までこれを続ける。さぁ、こい。」
「えっ……!?」
四人全員が同じ言葉を発し、顔が青くなった。