二十六話 しびと
その後、ガルトとシュラは村外れの森へと来た。ここは普段は誰も来ない。ここならば被害も出ないだろう。
「………お前は何故場所を移動した?魔族は人族を殺すことが目的ではないのか。」
不思議に思ったガルトはシュラに問いかける。すると、シュラは口をゆっくりと開いた。
「………貴様の言う通り、我らの目的は人族の滅亡。だが、我はあの村人達を死に急がせる必要はないと判断した………いつかは人族は滅びるのだ。急ぐ必要はない。」
「…そうか。」
ガルトは剣を抜く。同時にシュラも紫色の刀を抜いた………
「切り合う前に名乗るとしよう。我の名はシュラ。魔王軍最高幹部にして、一人の武人である。武人としての礼儀を持って、我が全身全霊の実力で貴様を殺す。」
「…ガルトだ。」
数秒沈黙が続いたが、先に動いたのはシュラだった。いきなり上段からの攻撃。ガルトは軽く避け、シュラの首を狙う。いつもの相手はこの反撃で殺せた。しかし………
ガキン!という鈍い音がした。
「……ほう………これを受けるか…」
「………良き剣術だ。我の攻撃を避けた後に首を狙う。実に単純だが、殺傷性は高い反撃だ…」
シュラはガルトの剣を、刀の棟で受けていた。
ガルトはすぐさま後ろに飛ぶ。その直後、シュラが懐から何かを投げた。シュラが何かを投げた途端、辺りは煙で埋め尽くされた。
(煙玉………特殊な武器を使う奴だな…)
煙によってガルトの視界が遮られる。
「【闘気解放・無】……………【闘気剣術・心眼の型】………!!」
ガルトから銀色の闘気が現れる。心眼の型によって、煙で姿は見えないが、像は読めた。
シュラが後ろから切りかかるが、ガルトはまたしても避ける。ガルトがシュラを勢い良く蹴り、剣を横に振る。しかし、今度はシュラが躱してしまった。
「これも避けるとは……お見事。そして、闘気の使い手か……それも、熟練の……」
シュラは一度刀を鞘に納める。
ガルトは何も言わずにシュラに切りかかる。四方八方から凄まじい速度でシュラを切りかかるが、全て躱される。同時に、シュラも刀を抜き、シュラも凄まじい速度でガルトに切りかかる。
受ける、切る。受ける、切る。受ける、切る………お互いに何度も繰り返した。不意に、シュラの声色が変わる。
「素晴らしい……素晴らしいぞ……!!五百年と待ったが、ここまでの熟練者とは出会わなかった…!!良い、良いぞ……!!」
「五百年………それはどういう……!?」
ガルトの中にひとつの疑問が浮かぶ。しかし、一度その疑問は置いておいて、ガルトはスキルを使う。
「【闘気剣術・斬撃無双の型】!!」
ガルトは無数の斬撃を放つ。しかし、シュラは後ろに飛んだ後、妙な技を使い、刀で全ての斬撃の軌道をずらした。
「………ここまでの使い手とは………闘気を放出し、斬撃に出来るほどの実力者………素晴らしい。」
「………全ての軌道をずらした…か。」
ガルトは少し驚いていた。ここまで歯が立たなかったのは【死神】と戦った時以来だった。死神は【斬撃無双の型】で倒したが、目の前の男は全てを躱して見せたのだ。
「だが惜しいな………貴様は無属性。属性を持っていれば更なる高みを目指せたというのに………」
「…お前は闘気を使わないのか?」
ガルトの問いに対し、シュラの覇気が変わる。
「………これは失礼した。つい、貴様の剣術に興奮してしまっていたようだ。こちらも力を出させて頂こう……」
シュラは刀を納め刀を納める。シュラの体から、紫色の闘気が現れる。
(いや、あれは闘気ではない。【死気】と似ている……闘気よりも格上の………)
ガルトは悟った。この前に対峙した、デスと似ている気だと。だが、デスの死気よりも格上だと。
「【邪気解放・一】」