二十四話 魔王軍
~魔王城~
「…で、お前は人族に負け、おめおめと帰ってきたわけか。ライデン…」
「も、申し訳ありません!!魔王様……!!」
ライデンが跪いている先には、玉座に腰を掛ける、八代目魔王、ドラシエル・イーヴィルが居る。ライデンは恐怖のあまり、額からだらだらと汗が流れ落ちる。
「魔王様……此奴は拙者が始末を付けましょう……」
甲冑を着た男が刀を抜こうとする。
「よせ……シュラ。ライデンは魔将になって日が浅い。一度はチャンスを与えるべきだと思わないか?」
「………拙者は、魔王様のご意向に従うまで……」
シュラと呼ばれた男は鞘から手を離す。ライデンは少しほっとした様子だ。
「安心するでないぞ、ライデン。貴様は魔王様の寛大な心により許された身。次、貴様が失態を犯そうものならば、我と【邪刀 闇霧】が貴様の首を飛ばす………」
シュラが覇気を放つ。玉座の間は重々しい空気が立ち込める。
「…シュラよ。私の頼みを聞いてはくれないか。」
「魔王様のご命令とあれば、何なりと。」
「…どうやら、人族の中にも強き者が数名居るようだ。シュラ、お前が出向け。殺しても構わん。」
「………それが魔王様のご命令とあれば、拙者が果たしてきましょうぞ。」
そう言うと、シュラは玉座の間を後にした。
「人族よ……震えて待つが良い。このシュラが、貴様らを滅亡させる、その時まで……」
それから、王都へとアイシクル将軍が帰ってきた。
「取り逃がしてしまったわい……儂も歳じゃな……」
そう言ってアイシクル将軍はガルトの前へと来た。
「ガルト殿、今日はもう日が落ちる。宿で休まれると良いでしょう。」
「だが、王都の復興は……」
「なに、儂のゴーレムにやらせておけば良い。ゴーレムは儂の魔力で無限に作れますわい。ガルト殿は休まれても問題は無いのです。」
(そこまで言うのなら休むことにするか…)
ガルトは将軍に挨拶を済ませ、宿屋へと向かった………
~翌日~
ガルトは急いで襲撃地へと向かった。おそらく、人手がいる筈だ。ところが………
「もう……終わっている」
ガルトが驚いていると、アイシクル将軍がにこやかな顔で現れた。
「おお、ガルト殿。お早いですな。崩れた建物は撤去し、後は建て直す程度の仕事ですな。」
「…そうか。」
この時も、アイシクル将軍のゴーレムは動いていた。ゴーレムは繊細な動きはできないが、物を運ぶ程度はできるため、資材の運搬を行っていた。
「しかし………ここまで魔族の侵攻が激しいとなると…こちらも考えなくてはなりませんな。」
「…というと?」
アイシクル将軍の発言にガルトが疑問を抱いた。
「……ひとつあるとすれば、多種族に救援を求めることですな。【エルフ族】、【ドワーフ族】、【竜人族】、【天使族】などに救援を求めるのもひとつの手ですな。」
「ふむ…」
この世界には六つの種族がいる。六種族はアストラル国とは別の国に住んでいる。
【エルフ族】は【イグドラシル王国】の、【世界樹の森】に住み、集落を築いている。
【ドワーフ族】は【ヒフキヤマ王国】の、【焔の大山】に都市を築き、鍛冶で国を支えている。
【竜人族】は【ミズガリア王国】に水上都市【アクアリオン】を建て、暮らしている。
【天使族】は自分達の技術力で雲の上に島を浮かべ、天空都市【スカイロード】で暮らしている。
「だが、俺は多種族が人族と魔族の争いに介入するとは思えん。報復を恐れて、動けないのではないか?」
俺がそう言うと、アイシクル将軍は厳しい顔をして言った。
「……ひとつ、手はある。魔族は多種族の国へ不法に入国を繰り返しているという情報があります。魔族の目的は、『失われた魔剣』を蘇らせることなのです。失われた魔剣は、世界を滅ぼす程の力がある。この話を聞けば、多種族も黙ってはおらんでしょう。」
「失われた魔剣…」
(失われた魔剣………文献によれば、一振りで谷を作り、三振りで山を消すと言われるものか。)
失われた魔剣というのはかつて、初代魔王が使っていたアーティファクトだ。アーティファクトの中でも最も神器に近いとされる業物だ。しかし、あまりの強さから、神達が魔剣を砕いて世界に散らばらせた、という話だ。
「儂の方からも国王陛下に進言するつもりだ。後は陛下次第じゃがな…」