二十一話 アイシクル・ブリザード
ガルトはデスを追い払った後、すぐに勇者たちの元へ駆けつけた。
「………これは…!!」
……目の前にあったのは、どう見ても重症のフウマ、骨が数ヶ所折れているであろうホムラ、そして、剣と大盾を杖のようにして立つガイアスの姿だった。
ガルトはすぐさまフウマに駆け寄った。
「無事か!」
「……ガ、ガルト………さ……」
「…すまない、遅くなった。話さなくていい、すぐに助けるから待っていろ。」
ガルトがフウマを担ぎ上げようとすると、城の方から数人の兵士が走ってきた。
(よかった。救援か?)
「救援か!?」
「はい、勇者様方の救援参りました!!」
「風の勇者は重症だ。炎の勇者は骨が数ヶ所折れていると見られる。土の勇者はなんとか歩ける程度だ。」
ガルトは三人の状況を簡単に説明した。兵士達は担架を持ってきて、三人を運んでいった。
(………それにしても、勇者がここまで弱いとは。たかが三人のテロリスト如きに手も足も出ないとなると、魔王を討伐することは可能なのか?)
魔族は人族よりも魔力が多い。魔法系統のスキルは人間よりも遥かに上だ。勇者が人間に負けるようでは、この国に勝ち目はあるのだろうか………
ガルトはそんな心配をしつつ、兵士達の後をついていった………
「………土の勇者様は軽傷でした。2週間もすれば普通の生活に戻れるでしょう。ですが、炎の勇者様、風の勇者様が重症です。特に、風の勇者様は全身を怪我してしまったため、数ヵ月は戦うことができないかと………」
「………そうか。」
(医者に容態を聞いてみたが、やはり重症だった。フウマに関しては意識はあるものの、全身包帯でぐるぐる巻きになっており会話すらまともにできない。
ガイアスとホムラは会話はできたが、二人とも少し落ち込んでいるように見えた。まぁ、無理もないだろう。)
ガルトが医者と話していると、数人の足音が聞こえて来た。
「大丈夫ですか!?」
扉を勢い良く開けてきたのはジュラド、ルシア、アクエスであった。
この三人は王都の民を助けていたため、テロリストと直接は戦っていなかった。
「ハハッ………俺は大丈夫……ゲホッゲホ……」
「あまり無理をなさらないでください、ガイアス…」
アクエスが心配そうにガイアスの側へ寄る。
ルシアとジュラドも三人の方へ寄った。
「………」
ガルトは特に何も言わず、病室を後にした。
ガルトは病室を出た後、辺りをブラブラと歩いていた。
(………俺がもっと速く助けに行けていたら、彼らはここまでの怪我を負わなかったのだろうか。
……いや、勇者足るもの、困難は自分の手で乗り越えなくてはいけないのかもしれない。)
そんなことを考えていると、住民が大声を上げながら王都の門へ走る。
「おい!アイシクル将軍が帰ってきたぞ!!これで王都は安心だ!!」
「【氷結騎士団】が帰ってきた!!」
ガルトがすぐに門へ向かうと、白髪で、顔は白い髭が多く、目の色は氷のような水色をしている、老人が馬に乗っていた。
老人は左手に大きな矛を持っていた。その矛の刃先は氷でできている。後ろから続く騎士達の装備も氷でできている。
(………いや、騎士自体が氷でできているのか……?)
老人が馬に乗りながら進んでいると、一人の少女が老人の前で転んでしまった。老人はゆっくりと馬から降りて、少女の手を引いた。
「大丈夫かい?」
そのときの老人はとても優しい顔をしていた。老人はニコニコと笑い、ポケットから飴玉をひとつ取り出し、少女に渡した。
「次は転ばないように、よく前をみて歩きなさい。」
「ありがとう、将軍さん」
少女は老人にお礼を言い、何処かへ走っていった。
(…どうやらこの老人は民からの信頼が暑いようだ。彼の表情と、民衆の反応を見ればすぐにわかる。)
「ん……?もしやお主、ガルト殿か?」
「…俺を知っているのか」
老人は俺に視線を向ける。祖の眼に写るのは、先程の優しげな目と違い、絶対零度の視線であった。彼の眼の奥には、決して溶けることの無い、氷山が見えた。
(ふむ………【氷】………か。
眼には色々なものが写る。相手の思考や、相手の実力、相手の持つ能力………眼から取れる情報は多い。だが、この老人からは【氷】のイメージしか取れない。)
「知っているとも。国王陛下から儂の所へと伝達がきたのでな。お主の実力も聞いておる。フォレストドラゴンを殺した英雄と、な。」
「…俺は英雄などではない。守るべきものを守る、俺の意思で守った。名声には興味がない。」
「ほう………名声に興味はなく、あくまでも自分の意思で守ったか………」
老人の目が優しく戻った。どうやら警戒心が緩んだようだ。
「申し遅れた。儂はアイシクル・ブリザードという。【氷結騎士団】の騎士長兼、アストラル国唯一の将軍だ。」
「…貴族か。」
(この国では家名は貴族のみが所有している。ブリザード家というのは歴史には乗っていなかった。最近貴族に加わった家なのだろうか。)
「貴族だからといって態度を改める必要はないぞ?儂もこの国の民、立場は同じだと思っておるよ。」
(…随分フレンドリーな貴族だ。貴族は庶民と関わることを拒む者も少なくはない。…彼の性格からも信頼を得ているのだろう。)
「……ところで儂の居ぬ間に一悶着あったようだな。…思ったよりも遠征が長くかかってしまった。」
アイシクル将軍は壊れた町を見て言った。…ガルトには、彼の眼には怒りと悲しみが写っているように見えた。
アイシクル将軍が町を見渡していると、城の方から一人の兵士が走ってきた。
「伝令!アイシクル将軍!!王都に魔物の大群が行軍中、国王陛下より、アイシクル将軍に出陣命令が下されました!!」
「………魔族の仕業か。魔物を使うとは、なんという姑息な種族なのだ………」
アイシクル将軍はそう言うと、固く拳を握り、怒りに震えた。大群とならば被害は大きくなるだろう。三人の勇者が動けない今、戦えるのはアイシクル将軍と、残った勇者達だけだ。
「…アイシクル将軍、俺も加勢しよう。多少は力になれる。」
「…ガルト殿に協力して頂けるとは百人力じゃな。だが、ガルト殿は王都内部を守って頂きたい。なに、外は儂に任せよ。」
アイシクル将軍はすぐさま門へ向かい、戦闘準備を始めた。
「このアイシクル・ブリザードが居る限り、魔物共は一匹も生きては返さん……!!魔族も同様……儂が叩き切ってくれるわ…!!」