ギルド
パール村へ着いた。ガルトの感覚では五百年ぶりにこの村に来た。まあ、五年しか経っていないので、特に何かが変わるようなこともない。
「………ギルドにいけば、盗賊の依頼もあるか……」
ギルドとは魔物の討伐依頼を出したり、冒険者が依頼を受けて仕事をする場所だ。そこには盗賊の討伐依頼もある。
ガルトはパール村のギルドへやってきた。村のギルドであるため、小さい。
「あ、冒険者ギルドへようこそ!」
受付嬢が挨拶をした。ガルトはそのまま真っ直ぐに窓口へと進む。
「すまない、冒険者登録をしたいのだが。」
「かしこまりました。お名前とご職業を記入してください。」
ガルトは机に腰を掛け、受付嬢が持ってきた用紙に名前を書き、眼を通した。
「む……」
その容姿にはスキル系統の枠が決められてしまっていた。魔法系、戦士系、その他の枠があり、その枠にスキル名を書くらしい。といっても、自分でスキルを決めることができるため、本当に系統だけを調査するようだ。
ガルトはその他の枠に『スキル無し』と書いた。
(修得したスキルが多すぎる。これでいいだろう。)
「これでいいか?」
ガルトは受付嬢に書き終わった紙を渡した。受付嬢は早く書き終わったことに少し驚く様子を見せたが、すぐに紙を受け取った。
「はい!ありがとうございます。えーと、ガルトさんですね……『スキル無し』………と………え!?」
受付嬢は驚いている。スキルがなくてはギルドに加入できない決まりでもあるのだろうか。
「………スキル無しではダメか?」
「ダメではないんですが………スキル無しで冒険者になる人は珍しくて…」
(まぁそうだろうな。スキル無しで冒険者になる奴はいなかろう。)
「あ、すみません、冒険者カードを作るため、血を貰いたいのですが…」
「ふむ、どれ程必要だ?」
「ど、どれ程って程でも無いです……一滴だけで…」
「ふむ…」
(………あまり会話が噛み合わない気がする。やはり五百年も一人でいたとなると会話が難しくなるな………)
ガルトは指に針を刺し、血を水晶に垂らした。水晶が光り、その光がガルトのカードに入った。
「はい、登録完了です!ガルトさんはFランクからです。あ!ランクの説明を忘れてました………!」
「いや、説明は必要ない。知っている。」
「了解しました。では早速依頼を受注しますか?」
「あぁ、盗賊の盗賊依頼を頼む。」
「え………盗賊ですか………!?」
(また驚く。俺は何かおかしなことを言ったのだろうか。冒険者登録をして盗賊の依頼を受ける、おかしなところはないと思うが。)
「あの………新人さんがいきなり盗賊に挑むのはちょっと…………」
「ダメなのか?」
「規則ではダメです。最低でもCランク以上でないと…」
「ふむ…」
(困ったな。すぐにでも奴らを殺そうと思ったが、これでは奴らの情報が得られそうにない。)
「なんだぁ………そいつは新顔か?」
奥から威勢の良い声がすると、体格のいい男がやってきた。
「あ……ギルドマスター……」
ギルドマスターとはギルドのトップである。ギルドは世界各地に存在し、個々のギルドの統制をするのがギルドマスターだ。
「この方が登録したばかりなのに、盗賊の討伐依頼を………」
「ほう………兄ちゃん、おめぇは若ぇ。そのランクで盗賊討伐にいくなんざ、死ぬようなもんだ。悪いことは言わねぇ。やめとけ。」
「………そういうわけにもいかない。俺は、盗賊を殺さなくてはいけない。」
ガルトは引くつもりはない。なんとしてでも依頼を受注するつもりだ。
「………マリー、決闘場の鍵をよこせ。」
「え……は、はい。」
受付嬢がギルドマスターに鍵を渡す。
「来い。俺に一撃でも与えられたら許可してやる。」
ガルトはギルドマスターに着いていき、決闘場についた。
「ほれ、これを使え。」
そういってギルドマスターは木剣をなげた。
「申し遅れたな。俺はバッガス。一応ここのギルドを任されてるもんだ。覚えといてくれ。」
「………ガルトだ。」
バッガスは木の大剣を持ってきた。その風貌はまさに鬼。この強靭な肉体から振り下ろされる大剣は、どんなものでも木っ端微塵にしてしまうだろう。
(………バッガスの体格からして、一流の冒険者の可能性が高い。)
「いくぜ兄ちゃん。あ、先にいっておくが、気絶しても知らねぇぞ?」
途端にバッガスの雰囲気が変わる。間違いない、全盛期は豪傑として名を馳せていたのだろう。
(ふむ………中々の猛者だ。重量のある大剣を武器にしているにも関わらず、隙がない。)
「………ハァッ!!」
バッガスが上段から大きく振る。その一撃は、速く、重い。並みの戦士であれば避けることも敵わないだろう。
(………右だな)
ガルトは右に避ける。バッガスは驚異的な速さでガルトの動きに対応する。
「そう来ると思ったぜ………オラァ!」
バッガスはそのままガルトの方に振る。この状況下では、絶体絶命の場面だと言えるだろう。
「………」
(大剣の対処法は簡単だ。この状態ではまず、誰もが避けられない、と思うだろう。そうだ。確かにこれでは避けることは難しい。そう、『避けることは』だ…)
「………ハァ!」
ガコン!という鈍い音がすると、当たるであろうと思われていたバッガスの大剣が、ガルトに当たる寸前で軌道が逸れたのだ。
「………おめぇ、何しやがった………」
「………避けることが出来なければ……………流せばいい。」
ガルトはバッガスの攻撃を受け流した。大剣は側面から思い切り叩けば多少は横に動く。大剣の軌道をずらした後、ガルトは後ろに下がったのだ。こうすることで大剣の先は当たらない。だが、自分の武器よりも大きくて重い武器を受け流すのは至難の業である。
「ハッ………素人じゃねぇのはわかった。ならこいつはどうかな!!オラァ!」
バッガスは次に大剣を回転させながら投げた。
バッガスは少し焦っていた。誰もが敗れた自分の大剣を、新人がいとも簡単に交わしてみせた。こんなことはあり得ない。だが、バッガスはガルトを甘く見ていた。
(いくら強かろうが、回転させた大剣を交わすことは出来まい………)
バッガスは内心、勝利を確信していた。若き力を驚異から守ることも、ギルドマスターの勤めである。ここは諦めさせるのが仕事であると、そう信じていた。
先ほどの攻撃の何倍もの威力がある。これは交わせまい、そう思っていた。しかし、ガルトには回転された大剣を捉えることは容易であった。
(……いい攻撃だ。回転をかけていることによって範囲が広い。ならば…)
ガルトは跳んだ。そして横に回転している大剣の側面を蹴りあげ、バッガスの頭に一撃を食らわせた。
「ハァッ!!」
次の瞬間、バカン!!と鈍い音がした。
「ガハッ……」
バッガスは倒れた。まさか大剣を踏み台にして来るとは予想がつかなかっただろう。