十六話 勇者
………今から約八百年前、人族の国、アストラル国と魔族の国、イーヴィル国の戦争が始まったのだ。
戦争の原因は魔族の勢力拡大だった。アストラル国の領土を侵攻し、多くの民が命を落とす程の戦になった。
当時のアストラル国は魔族に対抗するため、六人の優れた戦士を、【勇者】とし、魔族と戦ったのだ。
【勇者】には特殊な神器が与えられた。
炎、水、風、土、光、闇の属性を秘めた、【神獣】様の力を加えた物だ。
勇者達はその神器を使い、歴代の魔王を討伐し続けてきたのだ。
………だが、今代の魔王は過去の魔王とは違った。
八代目魔王、ドラシエル・イーヴィル………この魔王だけは他の魔王とは違うところがあった。
……この魔王は勇者の神器ににたようなものを造り上げたのだ。それが、【魔王の武器】だ。
【魔王の武器】の恐ろしいところが、勇者の神器と同等の力を持っている、というところだ……
「………長く語ったが、これが魔族と人族の長い戦争の歴史だ。」
「ふむ……」
剣王の修行場でも歴史は粗方学んだ。だが、【魔王の武器】という単語は、始めて聞いた。
「貴殿を勧誘した理由は、今や勇者と神器だけでは魔王を討ち果たすことは難しい戦況にあるからじゃ。」
そう言うと王様が手をならした。すると、六人の勇者達が王の間へと入ってきた。
「これが我が国の勇者達じゃ。炎の勇者 ホムラ、水の勇者 アクエス、風の勇者 フウマ、土の勇者 ガイアス、光の勇者 ルシア、闇の勇者 ジュラドじゃ。」
不意に、ガルトと緑髪の風の勇者と目が合った。フウマは驚いた表情をしている。
「………わかった。仕官することは考えさせてもらおう。」
「うむ。良い返事を期待しておる。今回の報奨として、金貨500枚、【竜殺し】の称号を授けよう。」
ガルトは従者から金貨500枚を即金で貰った。称号については、アストラル国全域で発布するらしいが………俺は称号には興味がないのだがな。
王の間から出ようとすると、「おい!!」
とガルトは後ろから呼び止められた。振り向くと、六人の勇者が駆け足でよってくる。
「あ、あんた、あの盗賊のねぐらにいた人………だよな?」
「…そうだが?」
「あの時は申し訳なかった!ギルドの手違いだったらしい。一歩間違えていたら、俺は無罪の人間を………」
フウマは深々と頭を下げた。
「…気にすることはない。俺もお前を倒してしまったからな。お互い様というやつだ。申し訳なかった。」
「そ、そうか……」
フウマが顔を上げ、ほっとした表情になる。すると、今度は赤毛の女、炎の勇者が口を挟んだ。
「ねぇ、あんた、本当にフォレストドラゴンを倒したの?そんなに強くは見えないんだけど?なに?称号狙いだったりして。」
(………初対面で疑いの目を向けられている。なんだ、俺は称号目当てだと思われているのか。)
「いや、称号には興味がない。フォレストドラゴンは村を守るために倒しただけだ。」
「本当に……?」
ホムラの目付きがさらに鋭くなる。
「ホムラ、やめろよ。俺はこの人と闘気を使って闘ったけど、マジで強いんだって!」
「………?闘気ですって!?闘気は過酷な修行を積まなくては出来ないはずよ!?どうしてこの男が使えるのよ!」
「た、たしかに……」
全員から疑いの目を向けられる。
「……修行をした。」
「………はぁ?」
「修行をした。修行の過程で自然と使えるようになった。」
「………はぁ!?教えられたわけでもなく、修行で!?」
ホムラは呆れたような、驚いたような顔をした。
(………普通は闘気程度は扱えて当然だと思うのだが…)
「本当に意味わかんない。なんなの?この人。一般人の癖に闘気は使えるし、厄災級のフォレストドラゴンは単独で討伐するし………」
ホムラは一人で何かをぶつぶつと話している。
「ま、まぁ良いじゃないの。こんな人がいても……ね。」
黒髪の闇の勇者が苦笑いしながら場をなだめようとするが、彼の目にも、疑惑の色があった。