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「うん? エレノアお姉ちゃんからの手紙か」
赤髪の少女はシスターからの手紙を受け取った。
「ふふ、クリスは元気だろうか。お姉ちゃんからの手紙にはいつもあいつのことが書かれていていいのだけど、いつも羨ましくなり過ぎて困る。ぶっちゃけお姉ちゃんだって、私に対する牽制と自慢だろうしな。……ああ、クリス分が足りないぃ……」
そうして彼女が取り出して鼻に当てたのはクリスのシャツだった。こっそりと彼を見に行った時に手に入れ、ツテを使い、その香りと味が「保存」されるように魔法を施してもらった珠玉の逸品である。が、
「……なん、だ、と……?」
クリスのシャツを鼻に押し当て、それでなんとか平静を保つが、溢れ出る激情、焦燥は抑えられなかった。
「こうしてはいられない」
彼女は慌てて当代剣聖の家を飛び出そうとし、止められ、それならば私を斃して行けと言う剣聖を叩きのめし、〈剣聖〉の称号を手に入れた。
そしてそのまま出奔してしまうのである。
「クリス、今お姉ちゃんが行くからな、どうか無事でいてくれ!」
◇
「本当に行ってしまうのですね……」
「ええ、こうしているうちにもクリス君が危ない目に合っているかも知れませんから」
孤児院の前で見送る年配のシスターの前には、厳つい鎧に身を包み、まるでオーガのような怖ろしい面貌のフルフェイスメットを被った狂戦士が居た。
泣く子は失神し、笑う子も失神する、恐怖の狂戦士となったエレノアがクリスを探すために孤児院を出立しようとしていた。あの後、町の冒険者達もクリスを探したのだったが、見つからなかった。そして、他のシスターがクリスを着せ替え人形のようにして遊んでいたことも知って、度を越したワルガキ共と言い、エレノアは孤児院を後にしてクリスを探しに行くことを決意した。
そのシスターたちは戦々恐々である。
エレノアは、かつて『イカれる狂戦士』として名を馳せた冒険者でもあった。スキル『狂戦士』。彼女が孤児院に居たのは、これからは恐ろしい狂戦士ではなく優しいシスターとして生きようと思っていたからではあったのだが、クリスのことでお姉ちゃんは狂戦士に戻ることを決意した。
「クリス君、お姉ちゃんが、貴方を絶対に見つけだしてみせますから」
フンス、と鼻息を荒くするフルフェイスの狂戦士。
それは今からお前、頭から丸かじり、としか見えない姿であった。
そうしてシスターエレノアもクリスを探すために旅立った。しかし、ジーナと合流し、『クリスきゅん大好き捜索隊』なるパーティーを結成したのであったが、それから二年以上もの間、クリスの消息は依然として掴むことは出来ないのであった。
それが――、
◇
『あぁあああああッ!』
二人のお姉ちゃん達が、まるで処女を喪ったような声を上げて飛び上がった。
それは、クリスがはじめてを奪われたあたりの時間帯であった。
高級な宿屋であり、「防音」も万全な一室だ。
成長したジーナお姉ちゃんとエレノアお姉ちゃん。
十七歳と二十二歳になるお姉ちゃん達がそこには居た。
「なんだ、この、吐き気を催すような邪悪な予感は」
赤髪赤眼のジーナはまるで子供がぬいぐるみに縋るような様子で「彼のシャツ」を手に取ると、すぅはぁ、と鼻を押し当てて平静を保とうとしてしまう。
「ジーナさんも感じたのですね、クリス君が無事であれば良いのですが……」
銀髪翠眼のエレノアも平静を保とうと、彼女のツテでシャツと同じように匂いも味も「保存」の魔法をかけてもらった「彼のパンツ」を鼻に当てた。
「すー、はー……はぁ、落ち着きますぅ……」
あれからも諦めずにクリスを探し続け、そして拗らせに拗らせた『クリスきゅん大好き捜索隊』のお姉ちゃん二人であった。
彼女達は、クリスの貞操が喪われたことを、ハッキリと感じ取っていた。
「くぅっ、これはクリスに何かあったということか……? 無事でいてくれ、クリス。ごめんなぁ、ジーナお姉ちゃんと言って、私に甘えたいだろうに……」
「うぅ、クリス君、エレノアお姉ちゃんと言って、昔のようにこのおっぱいに顔を埋めて甘えたかったでしょうに……」
「クリス……」
「クリス君……」
二人のお姉ちゃんは彼の下着に鼻を当て、彼のことを想っているのである。彼と彼女らが交わるのは何時になるのか、そして、クリスの貞操を奪った泥棒猫を知った時、彼女達はどのような行動に出るのか、それは、まだ、誰にも分からないのである。――
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